第5話

アデリナとルチアは、現在オースティン帝国という国にいた。


この国は市民税さえ払えば、移民でも市民として扱ってくれる。


しかも同性婚が認められている。二人はここで暮らすことにした。




「ルチア、私達もこの国で結婚しましょう」


「だからそれは無理だって。でもまあ、女二人で暮らしやすい国かもしれないわね」




二人は笑い合いながら、新しい生活を満喫し始めた。


お店を開いて魔法道具を売ったり、ポーションを作ったりして生計を立てる。


そんなある日、二人のお店にとんでもなく美しい銀髪の女性が現れた。


年齢は三十歳前後といったところか。


高身長で貫録のある、恐ろしい美人だった。




「この店が最近評判のポーションを売っているらしいな。一箱貰おうか」




女性の口調は尊大だが、声音は柔らかくて穏やかだった。


アデリナとルチアはその女性にポーションを渡した。




「びっくりしたー。綺麗な人だったね、ルチア」


「そうね、只者じゃないって感じだったわ」




女性が帰った後、アデリナとルチアは噂話に花を咲かせる。




「でもルチアの方が私好みの美人だけどね」


「あら、ありがとう。アデリナも可愛いわよ」


それから数日が経つと、銀髪の女性は大勢の兵士を引き連れてやって来た。


なんとその女性はオースティン帝国の皇帝陛下だった。



「余はオースティン帝国の皇帝フレデリカである。お前たちの作るポーションの有用性が証明された。帝国御用達の薬師となってほしい。正式に皇家で雇用しよう」


「ええっ!?」


「ちょっと待ってください。私はまだ見習いで……」


「問題無い。宮廷で必要な知識を叩きこんでやる」




こうしてアデリナとルチアは、オースティン帝国の宮廷で薬師として働くことになった。


それからというもの、二人は毎日忙しく働いた。


あっという間に月日は流れ、二人はどんどん出世していった。


数年も経つ頃には、アデリナの名前は帝国全土に響き渡り、ルチアはその有能な補佐官として二人に屋敷が与えられた。




「アデリナにルチアよ。お前たちのポーションのおかげで帝国の民の健康状態が改善した。病に苦しむ者が減り、戦場で命を落とす兵士も減った。本当に感謝している」


「いいえ、全ては陛下のご尽力あってこそです」


「あたしはアデリナの付き添いみたいなものですから〜」


「謙遜するでない」




アデリナとルチアは皇帝に呼び出されてお礼を言われた。


アデリナは恐縮したが、ルチアはいつも通りのマイペースだ。




「しかし、隣国はひどいな。アデリナの出身国だから、あまり悪く言いたくないものだが……我が国の繁栄を見て真似をしているようだが、粗悪なポーションを民にばら撒いているおかげで、王国の民の健康状態は悪化しているというではないか」


「困ったものです」




隣国とはアデリナが生まれた国で、今ではマルティン国王が治めている。


しかし、その内情はボロボロだった。


国民は重い税金を課せられて苦しんでいる。


しかも粗悪ポーションのせいで、二重に苦しめられている。


アデリナのポーションは、人体の治癒力を高めるもので、副作用が出ないように細心の注意を払って調整している。


マルティンがばら撒いているポーションは、疲労や肉体ダメージを薬品の効果で無理やり忘れさせるものである。


前世の知識に照らし合わせると、前者は漢方、後者は覚醒剤のようなものである。


王国の粗悪ポーションは依存性も副作用も強い。


短期的には興奮状態に陥り生産性が上がったように見えるが、中長期的に見れば最悪としか言い様がなかった。




「陛下、王国民に罪はありません。亡命を求める王国民は、帝国で迎え入れましょう」


「そうだな。ではそうするか」




帝国はますます国力を伸ばしているし、元より市民税さえ払えば他国出身者でも受け入れる土壌がある。


帝国はすぐに王国民の亡命を受け入れるようになった。


健康状態が悪かった王国民も、アデリナのポーションのおかげですぐに回復して働けるようになる。


ますます帝国は国力を増していく。


その様子とは対照的に、王国は衰退していった。

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