第4話

「いい加減にしてください!!!」




アデリナが王太子との婚約を解消してから一ヶ月後。


ソニアはついに王宮でブチ切れた。


マルティンは、これまで大人しくて優しいと思っていたソニアの態度に目を丸くする。




「アデリナ様と一方的に婚約破棄をして! 私のような身分の低い娘を次の婚約者にして! 王立学院も無理やり退学させて! 慣れない王宮生活を送らせて! あなたは一体なんなんですか!? 私をなんだと思っているんですか!?!?」


「え、ええ……? だって、君は僕を愛しているんだろう。だから僕の愛だって受け入れたんだろ?」


「はいぃ?」




マルティンの言葉に、ソニアは一瞬で顔が真っ赤に染まる。


そして怒りでプルプル震えだした。




「私は! あなたを愛した覚えもなければ! あなたの愛を受け入れた覚えもありません!! 普通に挨拶して普通にお話しただけです! それがどうして愛だなんて話になるんですか!?」


「だってあんな風に可愛く微笑まれたら、誰だって愛されていると思うだろう!?」


「思いません! なんですか、その勘違い思考は!? 気持ち悪い!!」


「き、気持ち悪いだと!? 言うに事欠いて王太子の僕に気持ち悪いと言ったのか!?」


「言いましたよ! 当たり前でしょうが! 私が王宮でなんて言われているかご存知ですか!? 女狐ですよ、女狐! 王太子をかどわかして地位を得た女狐! 女郎蜘蛛! 最大限配慮された言い方でお人形さん! 私はあなたの玩具じゃないんですよ!」


「そ、そんなことを言っていたのか、あの連中は……」


「すべてあなたの勝手な行いのせいでしょう! 何が真実の愛ですか! アデリナ様はどうしたんですか!? あの方は本当にお優しくて素敵な女性でしたのに、そのアデリナ様にひどい仕打ちをして! そのせいであの方は王国から出て行ってしまって! アデリナ様を返してください! 今すぐ返せ! 返しなさいよ、このハゲぇぇぇっ!!」


「ハ、ハゲッ!?」




ソニアは怒り狂って叫んだ。


もう我慢の限界だった。


マルティンが勝手にソニアの善意を好意と勘違いして暴走したのである。


ソニアは心底迷惑していたが、相手は王族なので今日までは何も言えなかった。


しかし無理やり王宮に連行されてからの日々は地獄としか言いようがなかった。


何一つ良いことが無いのに、これ以上我慢を続けても仕方がない。


むしろアデリナの方が心配だ。


アデリナは突然婚約破棄されて傷ついているはずなのに、文句の一つも言わずにそのまま姿を消した。


ソニアはアデリナのことを思うと、情けなくて申し訳なくてたまらなくなる。




「この国は終わりですね。王妃になる予定だったアデリナ様がいなくなった今、もうダメです。私のような平民の王妃を誰も認めませんし、私だってお断りです!」


「なっ、なんだと!? 僕の王の器に疑いを持つというのか!?」


「当たり前です!!」


「いくらソニアでも聞き捨てならないぞ! 僕の求愛を拒んでどうすると言うんだ! この国でどうやって生きていくつもりだ!? えぇ!?」


「知りませんよ、自分で考えてください!! とにかくもう二度と会いたくないので、私の前から消えてください!!」


「ふざけるなよ、僕がこんなにも想っているのに、どうして分かってくれないんだ!」


「分かるわけないでしょう!分かりたくもありません!」




二人の口論はどんどんエスカレートしていく。


そしてついに、マルティンは決定的な一言を口にしてしまった。




「ソニア、君の気持ちはよく分かった。そこまで言うのなら、君には修道院へ入ってもらうことにしよう!」


「望むところです。ではさようなら、マルティン殿下」


「ま、待て、ソニア!」




マルティンはほんの売り言葉のつもりだった。


しかしソニアはあっさり受けると、その場から立ち去ってしまった。


マルティンには何も残らなかった。


いや、アデリナを一方的に婚約破棄し、真実の愛を見出した筈の相手にも一ヶ月で振られたという汚名だけが残ったのだった。

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