第3話

「こんにちは、ルチア」


「あら、アデリナ。今日も来たの?」


「もちろんよ! ルチアに会うために通ってるんだから!」


「はいはい、ありがとうございます。お茶を用意するから待っててね」




ルチアの店に通う傍らで、表向きは王妃教育も受けて、淑女としての振る舞いを身に着けた。


十八歳になったアデリナは金髪碧眼の美しい令嬢として育ったが、男性に手厳しいことでも有名となった。


他の女性が笑って流すような、侮蔑や嘲りやからかいを許さない。


もちろんアデリナが属するのは上流階級なので、露骨な言動はない。


しかし無意識に根付いた「男が上、女は下」という意識がにじみ出ると、アデリナは遠慮なく反論した。




おかげで男性からの評判は悪くなったが、意外と女性受けは良かった。


普段女性たちが我慢して言えないことをハッキリ言うので、好まれたようである。


一方マルティンからは嫌われた。


彼は女好きで無駄に偉そうな男だったので、アデリナのような女を徹底的に嫌ったのである。


婚約破棄されたいアデリナにとっては好都合である。




そして、とうとう婚約破棄の日が来た。




「アデリナ・アインバッハ公爵令嬢。僕は真実の愛を見つけてしまった。ソニア・シューマン。僕は彼女と結婚したい」


「謹んでお受けいたします」




こうして婚約解消が成立した。


ちなみにマルティンが真実の愛を見つけた相手とは、たまたま魔法の才能があって入学が許可された平民の娘である。


ソニアは寝耳に水といった感じでマルティンとアデリナを見比べていた。




(あの様子だと何も聞かされていなかったのかしら?)




まあいい。とにかく婚約破棄されてスッキリした。これで晴れて自由の身だ。


アデリナはパーティー会場から立ち去った。


その後、ルチアの店に行くと、ルチアはいつものようにカウンターに座っていた。


アデリナはルチアの隣に座る。




「ルチア」


「はいはーい、アデリナ」


「私、ルチアのお嫁さんになるわ」


「…………」




ルチアはしばらく沈黙した後、深い溜息を吐いて首を横に振った。




「何度も言ったけどあたしは魔女なの。人間とは違うのよ」


「そんなの知ってるわ。でも好きなの」


「君ねぇ、あたしは百歳超えのおばあちゃんよ」


「年齢は関係ないわ。ルチアがいいの」


「困った子ねえ……」


「ねえルチア、私はこれでやっと自由に生きられるわ。家族は旅に出ることを許してくれたの。王太子から婚約破棄されたんだもの、王国にはもう居辛いだろうからって」


「はあー……まったくもう。君の親御さんは何を考えているのかしらね」


「いいじゃない。これから一緒に旅に出ましょう、ルチア。世界を回って色んな人と出会いたいわ。二人でポーションや魔法道具を売りながら、色んな国を見て回りましょう。いつかあなたが話してくれたみたいに」


「しょうがないわねぇ」




ルチアは呆れたように笑い、アデリナの頭を撫でてくれた。




「じゃあ、準備しなきゃね。まずはここから逃げないと」


「ええ!」




ルチアは子供の頃からよくアデリナと遊んでくれた。


ポーション作りのスキルの伸ばし方を教えてくれたし、それ以外にも箒に乗せて空を飛んだり、手品のような魔法を見せてくれたりもした。


ルチアは魔女なのだ。


そんなルチアのことが、アデリナは大好きになっていた。


ルチアもアデリナを気に入ってくれているのが分かる。


これからは二人で生きていくのだ。




「どこへ行こうかしら 北? 南? 東? 西? それとも世界中を旅して回る?」


「どこでもいいわ。ルチアと一緒なら絶対楽しいもの」


「そうねぇ……世界は広いもの。どこかにきっと私達を受け入れてくれる優しい場所があるわ」




アデリナとルチアは手を繋いで歩き出した。

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