第2話

まだ十歳の幼い日。


アデリナは下町で迷子になり、たまたま通りかかったルチアに助けられた。


その時にルチアはこう言った。




「君、マナの流れが変に滞っている部分があるわね。よし、あたしが巡りを良くしてあげるわ」




ルチアに額を突かれると、全身の血流の巡りが良くなったようだった。


同時に前世の記憶を取り戻した。


前世の自分はごく普通の社畜OLだったが、ある時事故で死んでしまった。


そしてこの世界に生まれ変わったというわけである。




「あちゃー、変な記憶まで蘇らせちゃったわね……」


「……今のは一体何なの?」


「気にしないで、ただの体質みたいなものだから。それより君、名前を教えてくれる?」


「アデリナ・アインバッハです」


「ふぅん、貴族の娘なんだ。じゃあ、あたしとは身分違いだわ」


「あなたは誰? お名前はなんていうの?」


「あたしはルチア。苗字はないわ。王都の外れで魔法道具屋を営んでる魔女よ。あたしみたいなのが、君のような可愛い子と話していると誘拐犯と間違えられてしまうかも。よし、お詫びも兼ねて魔法で送ってあげるわ」


「わあっ!」




その日、アデリナは初めて箒で空を飛ぶという体験をした。


そんなのは前世でも今世でも、物語の中の出来事だと思っていた。


だけどルチアはその体験を味わせてくれた。


それ以来、アデリナはルチアのことが忘れられなくなってしまった。




それからアデリナは毎日のように、ルチアの店に通った。


そしてルチアに色々な話を聞かせてもらった。


この国の歴史や、外国の話。アデリナはいつも目を輝かせてルチアの話を聞いた。


ルチアはそんなアデリナの姿を見て苦笑を浮かべていた。




「あたしみたいな魔女のところに来るなんて、君は変わり者ねぇ。貴族や王族の同年代の子と遊べばいいのに」


「前世の記憶を取り戻して、異世界の記憶を持つ私だって魔女のようなものでしょ?」


「はあー……あたしも厄介なことをしちゃったわね」


「いいえ、教えてくれてむしろ助かったわ。おかげで自分の生き方を決められるもの」




アデリナは、既に婚約が決まっている王太子のマルティンが苦手だった。


とにかく偉そうで、上から目線で、ナチュラルなモラハラ気質で……。


前世では職場やプライベートで、その手の男に煩わされてきた。


モラハラ男にセクハラ男。


イケメンだろうが非イケメンだろうが関係ない。


ぶっちゃけもう懲り懲りだった。


あんなのと一緒になるぐらいなら、死んだ方がマシだと思った。


そして前世のアデリナは事故で死んでしまい、この世界に転生した。


この世界でルチアと出会い、記憶を取り戻した。


おかげで早いうちから将来を見据えた人生設計ができる。


しかもルチアは見た目も性格も超絶好みと来ている。


これは愛さずにはいられない。




「ねえルチア、あなたのことが好き。私と結婚してください」


「無理。あたしは魔女だもの。人間とは種族も寿命も違うの。だから君とは結婚できないわ」


「そ、そう……」




アデリナはとても落ち込んだが、それでも諦めきれなかった。


そんなアデリナを見て、ルチアは深くため息を吐いた。




「まあ、君の記憶を蘇らせてしまったのはあたしだから。結婚以外で協力できることがあれば何でも言ってよ」


「本当!? じゃあ――」




アデリナはルチアに、将来何か活かせそうな才能はないか見てもらった。


結果、ポーション作りの才能スキルが見つかった。


他にはない。だが、それで十分だ。


将来はポーションを作って暮らそう。そしてルチアと一緒にお店を経営しよう。


アデリナはその一心で、ひたすらポーション作りのスキルを磨き続けたのである。

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