第3話 村

 血の匂い、人が燃える匂い、湿った木が燃える臭いが漂っていた。

「あなたの、言葉通りに」


 異常に気づき、急いだものの、村の建物の多くはすでに焼け落ちていた。そこかしこに、人であったものが無残な姿を晒していた。村を襲った者たちは、竜の姿を見て、逃げようとしたが人の足で逃げられるわけがない。生き残った盗賊を部下が縛り上げていた。


 ルートヴィッヒは、先ほど、自分の腕の中で息絶えた男を見た。少し年老いていたが、懐かしい顔だった。ずっと探していた。毎年、上空を飛んでいた山間の村に、いるとは思っていなかった。


「養い子を、どうか」

倒れていた男を抱き起し、確かめるように名を呼ぶと、男はうれしそうに微笑んだ。最期の一言がそれだった。ルートヴィッヒが誰かわかってくれたのだろうか。礼を言ったが、彼の耳に届いたのかもわからない。

「ヴォルフ」

懐かしい名で呼んでも、息絶えた男はもう、何も答えなかった。


「司祭様は、司祭様はどこ」

短槍を持った娘がいた。ヴォルフは短槍が得意だと言っていた。いつか、教えてくれる約束だった。結局、その日は永遠に来ないことになってしまった。娘の目が、ルートヴィッヒの腕の中の男を見た。


「司祭様!」

駆けてきた娘に、何と言っていいかわからなかった。無造作に束ねた髪の毛、汚れた顔、手に持つ短槍は血に染まり、返り血を浴びた服もそのままだった。小さな手が男の頬に触れ、口元に触れた。すでに息はない。

「司祭様」

汚れた顔に、涙が筋を描いた。

「知り合いか」

娘が頷いた。


「お前が養い子か」

袖で涙をぬぐいながらも、娘は頷いた。

「山の、豊穣の、神、神殿の司祭様です」

「そうか」


 会わなくなってから、初めて、彼が何をしていたかを聞くのは妙な気持だった。生きているころに会えたら、どうして司祭などしていたのか、聞きたかった。

「残念だが、間に合わなかった。すまない」


 どうして、もっと早くに来てくれなかったと、罵倒されることは覚悟していた。ヴォルフの養い子に言われるとつらいが、養い親を喪った娘には、それくらい言われて仕方がないだろう。実の親がなく、養い親を失った娘だ。この後、どうなるかなど、想像もしたくなかった。ヴォルフが最期に言い残したのも、それを気に病んだのだろう。


「いいえ。竜騎士様たちのせいではありません。村を助けていただいて、ありがとうございました」

泣くのをこらえて、娘がほほ笑み、頭を下げた。

「お前は、よい養い親をもったな」

「はい」

こんなことになる前に、もっとこの村が穏やかだったころに、ヴォルフと彼の養い子に会いたかった。

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