謁見の間に臨む
赤と金に彩られ豪華絢爛に贅を尽くした、でも決して嫌味なデザインではない大きな椅子。
足音一つ立てさせない、細やかな刺繍がなされたビロードの床。
座っている人物がかぶっている椅子とほぼ同じ色の大きな王冠。帽子みたい。
その横には赤と茶色、青に桃色、それと橙。これはそれぞれドレスの色。
私は今、王様に謁見している。
あまりにも緊張しすぎて、文法がおかしくなっているかもしれない。
「よくぞ姫を救ってくれた。褒美をとらせよう」
「ありがとうございます。つ、謹んでお受け取りいたします、じゃなかった、拝受します」
ああ、また間違えた。
なんだかこの場の全員に馬鹿にされているような気もする。
やだなぁ、こんな仰々しいことせずとも部屋に置いておいてくれればいいのに。
手間なら魔法で国に送ってくれれば、それでも。
で、褒美って何だろうか。
できればお金がいいな、考えている政策があるからそれ用に使いたい。
「残念ながら、ユキノ殿が直接望む物ではないな」
「えっ、あっ」
そうだった、魔力を多く持つ人は頑張れば心も読めるんだった。
昨日も今日もなんでこんな初歩的なことを忘れていたんだろう、と顔が火照る。
私の下心に姫様5人が5人とも苦笑。
王様の咳払いに気を入れなおす。
「ユキノ殿には、姫の結婚相手になってもらいたい」
理解が追い付かなくて思わず首を傾げていると、後ろのカーテンから別の国の王様が何人も飛び出してきた。
そのまま口論している。コミカルすぎてもはや威厳もへったくれもない。
数分後レミーラ様とエミーラ様の国の王様が困ったように額に手を当て、あ~、と気の抜けたような声を出した。
「すまない、どうやら他の国も姫との結婚を褒美にしようと考えていたようなのだ」
目に光が宿る心地、何という美味しい話!
正直言って、コネを作るうえではこれ以上に美味しい話はないだろう。
しかしあんなキャラの濃い5人と一緒にいたら、たとえそのうちだれか1人であっても、精神的にも肉体的にも絶対疲れる。
あれ、でも、それだけなのか。
どうせ断れないのだし、ここはいっそ強欲に。
「どの国の姫を選ぶかはユキノ殿に任せよう。時間はどのくらい欲しいかね?」
「いえ、もう決めました」
「・・・・ユキノ殿は国の統治者に向いているね」
「お褒めにあずかり光栄です」
これは、ただの婚約ではない。
その証拠に、雰囲気こそコミカルであれど王様たちの目はどれも鋭く、私を見定めている。
この中で一番裕福な国はここ、ギルガル国である。
反対に一番貧しい国を強いてあげるなら、ロメン様の国であるパルリーリンク国だ。
だけども、損得勘定で選んでしまうと悪印象になる。
「ならば問おう。ユキノ殿は、どの国の姫と結ばれたいのかな?」
「・・・・全て、です。ギルガル国のレミーラ様とエミーラ様も、パルリーリンク国のロメン様も、ピノミケル国のアルリィ様も、イチノセ国のナオラル様も、私が、責任をもって幸せになるようお守りさせていただきます」
たぶん、きっと、これが正解だ。
王様は豪快な人が好みである。
それに、全てと答えることでどの国も素晴らしいと表明したようなものだ。
それでも綱渡りは綱渡り。視線はずらさない。
「ユキノ殿は、これまで出会った王子の中で最も強欲な性格をしておるな」
「うぐっ」
「しかし、よく言った。それでこそ我が国の者となるに相応しい!」
「いや私の国に来るんだけど?」
「いいや儂の国じゃ」
「僕の国ですよ」
「ちょっと黙ってくれんか。では、褒美を受け取るがよい」
その言葉と同時に姫様が柔らかな床に下りてくる。
私の目の前に立つと、5人は同時に裾をつまんでそろってお辞儀をした。
ちょっとシュールかも。
「よろしくお願いいたしますわ、王子様」
「はい、こちらこそよろしくお願いします、レミーラ様」
「ぜひ、私たちを幸せにしてくださいね」
「エ、エミーラ様・・・・。が、頑張ります」
「エーミィは冗談が下手ね。大丈夫でしてよ、王子様。国から連れ出してくれた時点で、
今更ながらとんでもないことをしてしまったという自覚が湧き、声が震えそうになる。
王様には褒められたけれど、後先考えずに択を決めてしまうのは仮にも国を背負って立つ者としてよくない。
それにアルリィ様もナオラル様も目を合わせようとしないが、本当に幸せなのだろうか。
でも、そんなことを考えていても仕方がない。
心にわずかな引っ掛かりを覚えながら、新居へと急ぐことにした。
ずっと前から決めていた子供のころからのお気に入りの別荘なので、姫様方もきっと気に入ってくださると思う。
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