小さな国の王子様(アルリィ視点)
アタシたち5人の結束は強い。
きっと、それぞれ場所は違えど同じような境遇から逃げ出したときに出会ったからだ。
気が合ったアタシたちはそのまま魔王を傀儡にして魔王城を乗っ取った。
捕まったことにして状況を誤魔化した時も仲間割れは起きなかったし、ちょっと足りないことはあれど幸せに暮らせていた。
幸せにヒビがが入り始めたのは、傀儡魔王を倒したくらいで思い上がっているあの王子様がやってきた時だ。
弱っちい癖にアタシたちに近づき、ちょっと誘われたくらいで意識してしまう馬鹿なやつ。
異性に慣れていないエーミィやロミィなんかは、状況を気にせずシチュエーションだけで舞い上がっているけれど。
本心さえわかってしまえば、前までの気持ち悪い輩と一緒だってきっとあの子たちも気づいてくれる。
そうなったら、次はコイツを魔王にしてまた5人で幸せに暮らせる。
そのはずだったのに。
「私は、貴方達のことが嫌いなのです」
違う、と思った。
アタシが求めていた言葉はこれではない。
もっと富や色欲に貪欲な気持ち悪い姿だ。
体を求められることしか知らないあの子たちがそんなことを言われたら、きっとコイツのことが好きになるに決まっている。
そうでなくとも、少なくとも興味は抱いてしまうはず。
計画失敗だと思ったその時、王子の瞳が涙で潤んでいるのが見えた。
アタシの魔法に必死で抗おうとしている。
思わず目をみはった。
期待通りではない。
でも、心が弱ったこの状態ならまだ傀儡にできるかもしれない。
やっぱりコイツはただの弱っちい子供みたいなやつだったのだ。
こんなやつに仲間を渡してなるものか。
「レミィ、こいつ洗脳しちゃって」
この生意気な王子の顔を見ていると気分が悪い。
嘲笑いながら洗脳魔法を扱えるレミィに指示を出す。
しかし返事はなく、代わりにロミィが呟くように口を挟んできた。
「・・・・アルリン、多分無駄」
首をかしげる。そんなはずがあるものか。レミィの洗脳はよっぽどのことがない限り失敗することはないし解けないのに。
ロミィも知っているはずなのにどうしてそんなことを言うのだろう。
思いをそのままそっくり口に出す。
「は? 何よロミィ、どういうこと?」
「・・・・さっき気絶させたばかりなのにもう起きてる。魔法を解くスピードが異様に早い」
レミィを庇うようにエーミィも言う。
「レミィの固有魔法もかかってることにはかかってるんですよ。この王子様、魔法を解けるような固有魔法をお持ちなのでは?」
何、それ。
アタシを焦らせて2人には何か良いことでもあるのだろうか。
そんなわけないと言うために王子の方を見る。
座り込んで肩で息をしているソイツは、申し訳なさそうに目じりを下げて弱々しく笑った。
「ごめんなさい、です、姫様。暴言を吐いてしまい申し訳ありませんでした」
まだ何かごにょごにょと呟いているが、それどころではない。
アタシの固有魔法の効果は最低でも1時間以上持続するはずなのに、こいつは数分で破ってしまった。
この事実が重要である。
アタシは、この時初めて王子様に興味を持った。
こうなる仲間を想像するたびに嫌悪していたというのに、バカみたいな話だ。
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