姫様の本性

私の住んでいたところとは比べ物にならないくらい豪華な城である。

こんな田舎者が歩いて良いのだろうか、と嫌な汗すら流れる気がする。

細かな装飾がなされた廊下を見上げながら、それにしても、と思う。

こんな夜更けに”部屋に来て”ということは、もしかして、その、とてもマイルドに言うならば“えっちなやつ”ではなかろうか。

そんなはずはないとわかっていても、想像するだけで心臓が鼓動を速める。

うぅっ、考えないようにしなければ・・・・!


理性を保ちながらしばらく歩いていると、突き当たりの大きなタペストリーを見上げるピンクのドレス・・・・ロメン様か、が目に入った。


「・・・・王子様?」

「は、はい! ・・・・その、お部屋は、こちらでよろしかったでしょうか」


感情のない黒々とした瞳がこちらを真っ直ぐに貫いた。

首を縦に振ったロメン様に引っ張られるようにして部屋に入った途端、意識がクラっと遠のく。

ロメン様は、微笑みを浮かべていた。


肌寒さを感じて目を開くと、ワイシャツ一枚で硬い床の上に転がされていた。

手はロープで固定されている。

想像していたやつとは違うが、ポーズはたぶんえっちなやつだ。

この状況が自分ではない別の人物だったら、嬉々として写真を撮っていたところである、くそぅっ。

そこそこな人数の話し声が聞こえるので、耳を澄ました。

姫様方の声である。


「ねぇエーミィ、さっき捕まえたアイツ、どうヤってやろうかしら?」

「アルリンは下品ですね、犯す、と言ってください。あと口調も気色悪いんですよ、仲間内でくらい普通に話せないんですか?」

「ヤるも犯すも対して変わってねぇよ、そんぐらいで争うな」

「・・・・レミィ、今までの野郎とは違うんだから、慎重に」

「ロミィは黙ってろよ~」


・・・・想像以上に物騒なえっちなやつだ!!!

縄抜けぐらいなら誘拐対策として教えられている。これはもう絶対外交云々より先に逃げたほうがいい。

ついでにあとで敵対国に告げ口して国ごとあのプリンセスどもを葬ってしまおう、名案だ。


それにしても縄がきつい。

ようやく抜け出せはしたけども、とても時間がかかった。

出口はどこだ、と仄暗い部屋の中を見回す。


「出口が、ない・・・・だと⁉」


ガガーン、ショック!

ついうっかり昔の少女漫画みたいな画風になりそうだ。

5人が会話している部屋に通じるもの以外に扉が一つとして無い。

当たり前と言ったら当たり前かもしれない。牢獄と一緒だ。

・・・・捕まったら何をされるかわからないが、もう突破手段はあれしかないだろう。


そう決めた瞬間に扉が開いた。

素早く立ち上がり扉を目指す。


「え⁉」

「に、逃げないで!」

「わっ!  ど、どいてください!」


私は、姫様を突き飛ばそうと腕を伸ばした。

しかし、その行動は姫様のうち誰かの手によって阻害されてしまったのだ!

手をいっぱい振り回そうとしてもほどけない。

足で蹴り上げようとしても押さえつけられる。

顔すら動かさせえてもらえない。

そのままぎゅっと壁に押しつけられた時には、抵抗する体力がすっかりなくなってしまっていた。

いわゆる壁ドン顎クイとかいうやつだ。

こんなやつらにされても全く嬉しくないし、むしろ怖い。


「王子様」

「な、なんでしょうか・・・・」

「どうして、逃げようとなさったの?」


紅い瞳が私を貫く。

普段の私ならここでキレて暴言を吐いていただろうが、今私を捕まえているのはこれでも立派なプリンセスである。

そして、王子様はお姫様に暴言を吐かないのだと私の美学が言っている。

自分で決めたことながらすごい複雑である。

何も言えずに押し黙ったその時、どの姫様のものでもない声が部屋に反響した。

そしてその声は、私にとってとんでもないことを言い始めたのだ。


「わからないのですか? 私は、貴方達のことが嫌いなのです」


訳がわからないのは私のほうだ。


口が勝手にぱくぱくと動いて、喉も振動を伝えて、考えうる限り一番丁寧な言葉で

一番汚らしい暴言を綴る自分の体にひどく困惑してしまう。

いつの間にかエミーラ様は私の体を押さえつけるのをやめていた。

手で必死に口元を押さえても声がまだ反響する。

嫌だ、嫌だ、嫌だ、こんなのは私の思い描く王子様とは全く違うのに。

こんなこと言いたくなんてないのに、どうして。


床にへたり込む私を見て、アルリィ様がにまりと笑う。


「これがアタシの魔法よ♡  おこちゃま王子様には、まだ早かったわね♡」

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