一章

呪われし姫君

割れるような光輝くような、そんなエフェクトを散らした悪魔の男が安らかな表情で消えていく。

私は剣を杖にするかのようにして地面に突き刺した。


 王子よ、よくぞ私を倒したな_____・・・・。


魔王は言うが、彼の言葉も疲労した体には最早微かにしか聞こえなくて。

早く任務を遂行して国に帰りたい、その一心でドロップした鍵で檻を開ける。

国王様の仰っていた、”捕らわれの姫”がこの後ろを向いた人物たちなのだろう。


「姫様方、今助けに参りました!」


「まあ、嬉しい! ありがとう、王子様!」


5人の姫様は、口をそろえて声を上げた。



強い圧迫感である。

体が震えそうなのを我慢しながら姫様に向かって礼をする。


「あ、あのぉ、ししし失礼ですが、名前を伺っても・・・・?」


黒髪で若干吊り目、紅色のドレスの方が一番に名乗ってくださった。


「レミーラ・ギルガルでしてよ。レミィとお呼びになって。こちらのエーミィ・・・・エミーラ・ギルガルはわたくしの片割れですわ。」


次に、レミーラ様の後ろにいる、プリンセスのドレスにしては地味な茶色が揺れた。

片割れという割には似ていない、ミルクティ色の瞳が不安げにこちらを向く。


「初めまして。エミーラ・ギルガルといいます」


心情なんて誰も読まないだろうから、率直に申し上げてしまおう。レミーラ様は自分を持っている方で、エミーラ様は大人しそうな方である。


後ろには群青、桜、橙のドレスを纏った方が控えていらっしゃる。名前を尋ねてみることにした。


「アルリィ・ピノミケルですわ♡ 気軽にアルリン♡とお呼びなさって、王子様♡」


一番に声を上げたのはアルリィ様、上目遣いがとても色っぽい。

その表情に思わず身じろぎしてしまいそうになった。

ドレスのはだけてはいけないところが少々はだけており、若干?そこそこ?? 性に奔放そうだとか思ってしまった。

当然とても失礼である。あとで怒られるかもしれない。


「・・・・ロメン・パルリーリンク。・・・・ロミィ、って呼んで」


不愛想にではあるが、しっかり名乗ってくださったロメン様。

この中で一番小柄で可愛らしい方である。

そのお顔をもっと見てみたいと思ったが、すぐにそっぽを向かれてしまった。


「むぅ~っ、私が最後だなんてぇ~・・・・!  緊張しちゃうじゃん!  ん~と、イチノセ・ナオラルです~! ナオ、って呼んでくれたら嬉しいです~!」

「わっ」


ふわふわの髪がちょっとくすぐったい。

抱きついてきたナオラル様を思わず避けようとしたのは単純にちょっとびっくりしちゃっただけだ。

ナオラル様の国では、ハグが挨拶として扱われている、と昔学習したことがある。

いい加減他国の文化にも慣れなければいけないと、場違いながら強く思った。


改めて姫様を見、特に目を引く3人のことを思い出す。

アルリィ様もロメン様もナオラル様も代々続く伝統ある国の姫様だ。

特にナオラル様の国は一代で成り上がったという伝説のようなものも残されていたはずだし、とんでもない方々を助けてしまった、気がする。

いや、でも、それはそれとして国王様からの依頼の内容を一応伝えておかなければならない。

気を抜いたら出てしまいそうな無礼な発言をできるだけ控えるため、私はゆっくり言葉を紡ぐ。


「あの、レミーラ様、エミーラ様・・・・。私は貴方様のお父上様に命じられてここにやってきたのです。できれば、その、城まで送り届けさせてもらっても・・・・」


「あら、ありがとう。そう、よねエーミィ、お父様達が心配してるわよね・・・・」

「そう、なのですね。皆様、今日はギルガル国に泊まっていってください。部屋は手配するので、王子様も!」


あれよあれよ、といった感じだ。


そして今はギルガル国の国王様に呼ばれて姫の皆さまとも食事中である。

先ほどロメン様のお父上様とレミーラ様やエミーラ様のお父上様・・・・つまり国の王様2人に、友人として仲良くやっていってくれないかと頼まれた。

色々場違いにもほどがある。早く帰りたい。

言葉を疑った私は、酒に酔っている王様に勢いで聞いてみてしまうことにした。

私ごときなんてどうせ記憶になんて残らないだろうし。


「・・・・王様」

「何だね、ユキノ殿」

「私に姫様のお相手が務まるのでしょうか」


王様は何も言わずにくだらん、とばかりに再びワインを飲んだ。

あの5人と私では、性別も違うし友人関係は築けないと思う。

強い劣等感を知ってか知らずか、無慈悲にもさらに言葉が耳に侵入してくる。


「どうなんじゃろうねえ・・・・。少なくとも、レミィとエーミィと似ているとは、思っておるが・・・・」


王様の、お酒がまわったその言動に強い衝撃を受けた。

きっと本人は何も考えずに発言しているのだとは思う。でも、体格も性格も人格も全然違うのに?

人々が美味しそうに食べている料理は、本人たちが作った料理である。

この時点で5人とも多少の癖があろうとも人格者で料理上手で、その分野に優れている者にも匹敵していることが分かってしまう。

私の努力した政治や戦いだって、少なくとも戦いは完全に抜いてくるだろう。

体格差が圧倒的なのは勿論、教育の差で頭すらもいい。

私が頑張って培った、それでもちっぽけであるはずのアイデンティティが大きな音を立てて崩れていくのだ。


会話を諦め黙って料理を貪っていると、茶色のドレス・・・・エミーラ様が私に声をかけてきた。

その後ろには赤いドレス・・・・レミーラ様が控えている。


「あの」

「はい! え、えっと、エミーラ様、それにレミーラ様! どうかされましたか⁉」

「王子様、わたくしたちを助けてくださったこと、大変感謝しています。報酬と言っては何ですが・・・・」


今夜、わたくしたちの部屋に来ていただけますかしら?


「・・・・え」


今、なんて?

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