49話『強襲』
49話『強襲』
クルシェドで一晩を過ごした四人は、翌日の朝には再び馬車に乗り込んで、スタカに向かって進んでいた。
クルシェドの小麦畑を抜けて豊かな草原が広がり、その先では高々と聳える禿山を見上げる。
「ここ、懐かしいなぁ」
「ん?前に何かあったのか?」
フーガの問いにカナデは頷いた。
「うん、ちょうどこの辺りの道が巨人に食べられてて、立ち往生しちゃってさ」
「巨人が?じゃあ迂回して行ったのか?」
「ううん、その時たまたま乗ってたのがホルンさんだったんだよ。土魔法で道を直してくれて予定通りに到着できた」
「へぇ……それで『砂漠の天使』と知り合ったのか」
「うん。でも懐かしいのはそのことだけじゃないんだ」
「え?他にもなんかあったのか?」
再びフーガが問うとカナデはフッ吹き出すように笑った。
「アリアがずーーーっと寝てて、その時の寝顔が忘れられない!」
「……ハッハッハッ!そりゃ確かにいい思い出だな!」
「もー、思い出さないでよー!」
カナデとフーガが笑うとアリアが恥ずかしそうに顔を赤くした。
だが、カナデはただエピソードが面白くて忘れられないわけではない。
王都の外壁の上で見た夕焼けの景色とアリアの横顔。
それと同じように、この禿山を見るとつい思い出してしまうほどに、アリアの寝顔が穏やかで美しく見えたのだ。
恋心……というにはまだ単純で浅はかだが、少なくともアリアには他の女性とは違う魅力を感じていた。
それが王族故のものなのか、幻獣の加護によるものかもよくわからないが――。
「あれ?そういえば、カノン静かだね?」
「うん、今日の眠り姫は彼女よ」
アリアが指さすほうを見ると、カノンは揺れる馬車の床で横になり、スースーと寝息をたてて眠っていた。
「……黙ってれば美人なのにな」
「話してても美人だよ」
「フーガ、デリカシー」
「……へいへい」
「…………僕らも少し休もうか」
「……うん」
――数時間後、眠っていたカナデは『ガタン!』という大きな揺れで飛び起きることとなった。
「?!なにがあったの?!」
「わからん!馬車が止まってる!」
「ねぇ!カノンがいない!御者さんも!」
『ドン!ガキン!』
外から争う音が聞こえる。
カナデ達は急いで馬車から飛び降りた。
外は既に日が落ち始めているが、木々がポツポツと生える草原の景色には見覚えがあった。
道を外れているわけではないようだ。
急いで音のするほうへ向かうと、大斧を構えたカノンがポツンと立っていた。
馬車のすぐ近くには御者が血を流して倒れている。
馬は見当たらない。
「カノン!大丈夫?!何があったの?」
「アリア!みんな気をつけて!上にいる!」
カノンがそう叫び皆が上を見る。
そこにいたのは巨大な翼を悠々と羽ばたかせる巨鳥だった。
『ピキャアァァァァァ!!』
甲高い鳴き声に思わず皆が耳を塞ぐ。
「――っ、あいつは……『ステュムパリデス』!!」
「ステュム――そいつは何?魔物?」
「あぁ、だが住処はずっと北のはずだろ?!なんでこんなところに!」
「話は後にしな!くるよ!!」
ステュムパリデスは突如翼を畳むと、ロケットのように突っ込んでくる。
皆ギリギリのところで躱したが、馬車の荷台は粉々に砕けた。
通り過ぎた直後にカナデは御者を起こして近くの岩陰へ移動した。
幸い意識はあるようだ。
携帯していた回復薬の内一本を頭の傷口にかけ、さらに一本を飲ませる。
「御者さん、ここは危険です。物陰に隠れていてください」
「えぇ、わかりました」
御者の受け答えがはっきりしていることも確認し、カナデは再び敵前に飛び出す。
「カナデよくやった!皆固まれ!陣形をとるぞ!」
フーガの指示で四人が駆け寄り、アリアを三人で囲むように並んだ。
「プロボック!」
「身体強化!」
「身体強化!」
「ディフェンスオーラ!アタックオーラ!」
フーガがヘイトを集める魔法を唱えると、カナデとカノンは自身の基礎能力を上げ、続けてアリアが支援魔法でフーガの防御力、カナデ、カノンの攻撃力を底上げした。
「いいねぇ!力が湧いてくる!」
「回復魔法は使えないから、みんな気をつけて!」
「わかった!いくよ!」
それからは正に激戦だった。
相手は空から攻撃を仕掛けてくる。
魔族の戦士も飛んでいたが、今回はサイズが違いすぎる。
羽ばたきだけで飛ばされそうなほどの巨体、それがものすごいスピードで襲いかかってくるのだ。
攻撃も容易ではない。
『ブワァン!』
「くっ、風圧で盾ごと吹っ飛びそうだ!あの体当たりを受け止める自信もないがな!」
フーガは必死に的になるが、あの巨体を相手にしては避けるしかなく、攻撃の隙を作れずにいた。
「アクアアロー!だめだ!早すぎて当たりゃしない!」
「ライトニングカッター!くそっ!せめて地上に下ろせれば」
カノンとカナデは近接での攻撃を断念して魔法で応戦していたが、そのスピードになかなか当てられずにいる。
「攻撃するのは難しいかもしれないが、突進を避けるだけならできない速さじゃない!今は回避に集中してタイミングを待つんだ!」
フーガの指示に全員が声を張り上げて応えた。
そうだ、避けるのにも体力は使うが、それは敵も同じ。
ずっと羽ばたいて突進していれば必ずバテて降りてくるタイミングがある。
『ガン!ザザーーッ!』
「――くっ」
巨鳥の突進にあと半歩反応できず、剣で防ぎ弾かれるカナデ。
四人で固まっていた位置から大幅にずれてしまった。
さらにその瞬間を待っていたかのように、ステュムパリデスは突如遙か上空へ飛び上がり、翼を大きく、強く動かし始めた。
「!!何か来る!気をつけて!」
そうカナデが注意を促した直後、ステュムパリデスは翼の振りに溜めを作り、羽根一本一本を降り注ぐ矢の如く飛ばしてきた。
「?!まずい!」
「しゃがめー!」
「カナデ!!!」
フーガは盾を持ち上げると、近くにいたアリア、カノン、自身の頭上を射線を遮るように守った。
だが、離れてしまっていたカナデは間に合わない。
『カン!カンカン!ザシュッ!』
「くっ」
『カン!ザシュッザシュッ!』
「ぐっ……うぉぉぉぉ!」
カナデは咄嗟に剣で頭を守ったが、幅が足りず腕、脇腹、そして足を羽根が切り裂いた。
『カン、カン……カツン』
「……止まったか?」
「カナデ!!」
アリアはすぐに盾の影から飛び出しカナデの安否を確認した。
剣を盾にして防いだカナデだが、いたるところから血を流している。
「カナデ!大丈夫?」
「う、うん。なんとか、傷はすぐ治るから!戦いに集中して!」
そう話すカナデの傷は青く輝き、既に塞がりつつあった。
ホッとしたアリアは再び巨鳥に目線を移した。
「あれ以外にも隠し球があると、さすがに長くはもたないよ。フーガ、どうするかい?」
「ちっ、せめてやつを引きずり下ろせれば……」
「あたしに任せて。フーガ!風除けになって合わせて!」
アリアはそう言うと杖を高々と構え、緊張した面持ちで深呼吸をした。
フーガがアリアの目の前に立ち大盾を構える。
そして、奴が再び突っ込んでくるのが見えると、アリアは魔法を唱えた。
「――インフェルノバインド!!」
次話『』
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