48話『二度目の馬車旅』

48話『二度目の馬車旅』


 翌日、カナデは朝早くに乗り合い馬車の停留所にいた。

隣にはカノン、フーガ、そして――


「ふーがー、まぁだぁー?たってるのつ◎△$♪×¥●&……zzz」

「相変わらず朝に弱い姫様だなぁ」

「なんか久々に見た気がするよ」

「今日は寝癖もすごいね……」


朝はポンコツなアリアと共にクルシェド行きの馬車をまっている。

今日は周りに他の乗客はいない。

どうやら完全に貸切のようだ。


「あーこら、頭揺らさない」

「んー……」


カノンがアリアの髪を直しているのを横目で見ながら、カナデとフーガは予定の確認や持ち物の最終チェックをして時間を潰した――。


「お待たせいたしました。どうぞお乗りください」


馬車が到着したのは約30分後だった。

四人が思い思いの位置に座る。

御者は全員が乗ったのを確認すると軽快に手綱を振った。

馬車はゆっくりと旅路を進み始めた。


「さて、出て早々だけど、ちょっと話を聞いてくれないかい?」

「?!」

「……なんだいその顔は」


三人は驚きのあまり硬直した。

あのカノンが仕切り始めたのだ。

アリアとフーガの様子を見るに、今までもなかったことなのだろう。


「あっ、いや、珍しいなって思って……」

「は、早めに伝えたかったんだ!たまにはいいじゃないか……」


カノンはこれまた珍しく顔をほんのり赤らめた。

今日は雪でも降るのだろうか?


「……で、話って?」


無理やり話を戻すようにフーガが問う。

カノンは自前のリュックをゴソゴソと手で探ると、折り畳まれた二枚の紙を取り出した。


「これ、なんだかわかるかい?」

「……?ギルドの依頼書?」

「アリアご名答。マスターに頼み込んで依頼を出して貰ったんだ。ギルドからの指名依頼さ」

「今回の遠征に関係があるのか?」

「その質問は……これを見れば一発じゃないかい?」


そう言うと、カノンは一枚目の紙を開いて皆の前に置いた。

そこには『月呼びの森の異変解決依頼』と書かれていた。


「……なるほど、そういうことか。考えたな、カノン」

「こっちの都合じゃあるけど、どうせ解決するんだから貰えるものは貰わないと」

「それはそうね。ギルドでもこの件はカナデが動かないと解決しないって言われてたし、指名依頼でいい額もらえてる理由はそれね」

「時間がなくてなかなか行けなかったんだけど、そんな話になってたんだ」

「そ。だからわざわざ依頼出してもらったのさ。まぁ、まとまった時間も必要な距離だし、少し前のカナデが一人で行こうとしてたらギルド総出で止めてたよ。あの森の中心はあたしら三人でなんとか戦えるレベルだったからね」


その言葉にアリアとフーガが頷いた。

そしてカナデは二人の反応に顔を青くした。

それほど危ない場所に落とされてよく生きていたな……と。

まぁ実際死にかけたわけだが。


 そんな心境の中、カナデはふとあることを思い出した。

カナデがたまたま落ちた先の身体――闇属性の持ち主はあの森で命を落としていたことだ。

その人が亡くなった理由……今も森にある脅威なのだろうか?

この身体の持ち主がどれほどの強さを持った人物だったかはわからない。

果たして、今の自分は勝てるのだろうか……。

カナデは表情を暗くした。


「……まぁ、俺たちも随分強くなった。それにカナデも驚くほど成長している。大丈夫だ、大概のことはなんとかなるさ」


フーガはそう言って親指を立てた。

きっと想いを察してくれてのことだろう。

カナデはまだ不安な思いを胸に押し込めると、小さく頷いた。


「じゃあ次の依頼ね。これもギルドから」


暗い空気を断ち切るように、カノンは二つ目の依頼を広げて見せた。


「……ゴブリン集落の殲滅?なんでこんな依頼を?」

「これはギルドからの交換条件。最近あの森でゴブリンの動きが活発になってて人的被害が増えてるらしい。調査したら森の中心から離れたゴブリン達が新たな集落を比較的浅い場所に作ってたみたい。これをあたし達で殲滅して来いってさ」

「規模は?」

「三週間前で百体前後。ゴブリンメイジとホブゴブリン、それと……レッドキャップがいるらしい」

「レッドキャップ?!」


フーガが驚きの声をあげた。


「フーガ、レッドキャップって?」

「……ゴブリンの群れで稀に生まれる希少種だ。身体は普通より小柄で耳が異様に長くて赤い布を頭に巻いている。とにかく賢く素早いやつで、ナイフとかの軽い武器で確実に急所を狙ってくる曲者……らしい」

「『らしい』ってことは、フーガも戦ったことはないのね」


アリアの質問にフーガは無言で頷いた。

レッドキャップ……こいつがこの身体の仇だろうか?


「……まぁ、百匹規模だとかなり大きい群れだし、不確定要素には注意だけど――今のあたし達なら大丈夫さ」


カノンはそう言って笑った。

だが、他の三人は首を縦に振ることはできず無言の時間が過ぎる。

そして長く感じる一瞬の沈黙は、フーガのため息で破られた。


「はぁ……わかった。一筋縄ではいかないだろうが、マスターができない依頼を回すとも思えない。今のはあの人の直感を信じて、万全の準備をして挑むとしよう」

「うん、レッドキャップやメイジの対策もして……その規模だとゴブリンロードも視野にいれておこう」

「カナデ、勉強したの?確かに規模が大きくなると、ゴブリンロードやゴブリンキングが統率してる可能性は無視できないわ」

「まぁね。図書館に少し通ってたんだ」

「カナデは頭もいいんだね。あたしはこっち使うのは苦手だから羨ましいよ」


カノンはそう話ながら拳で自分の頭をコンコンと叩いた。

褒められたカナデは恥ずかしそうに頭を掻きながら笑って誤魔化す。

だが、冒険者としては経験も知識もまだ全く足りていない。

だからこの程度で慢心してはいけないと、浮かれそうな心に楔を打った。


「よしっ、じゃあ今から作成会議といこうか!」


フーガの提案に皆が頷く。

なんやかんやと話をしたり、眠ったり。

半日と少しの時間をかけて、馬車は何事もなくクルシェドに到着したのだった。


次話『』

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