46話『影の者』

46話『影の者』


「このへんでいいかしら」


アリアに連れられたカナデ達は、王都西側の暗い裏路地で立ち止まった。

周りを見渡しても人の気配はなく、じめじめとした陰気な場所である。


「こんなところにいるの?その……もう一人の仲間って」


カナデの言葉にアリアは首を横に振ってから答えた。


「普段はお願いしたときに影から護衛をしてくれているわ。今日は二人に紹介する為に近くにいてもらったの。ランケイ、きて」

「お呼びでしょうか」

「うぉ!!」


ランケイと呼ばれた人物はまるで瞬間移動とも呼べる速さでカナデ達の前に姿を現しアリアに傅くと、イケボで答えた。

突然の登場に驚き体勢を崩したカナデだが、フーガに支えられてなんとかバランスを取り戻した。

口元が布で覆われていて顔はよく見えないが、何というか……かっこいい人だ。


「カナデ、カノン、彼がランケイ、私たちの仲間よ。ランケイ、自己紹介を『いつも通り』でよろしく」


そう言われたランケイは膝をついたままアリアを見ると、ふーっと息を吐いて立ち上がった。

アリアは正常心で笑顔、フーガはニヤニヤとしながらランケイを見た。


「……りょーかいです。うっす、ランケイっす。オペラニア王国 偵察部隊所属 アリア王女付き護衛っす、アリア様とフーガが世話になってます。今まで隠れててすんません。仕事なんで許して欲しいっす」


最初のイケボはどこへやら、やけに素っ頓狂な喋り方で自己紹介をした。

(こっちが素なんだろうけど……オンオフがはっきりしてるんだな)

装備を見るに忍者……いやアサシンだ。

立ち姿やオーラから、その強さは『桁違い』だと肌で感じ取った。

恐らく、超級冒険者並みの実力者である。


「はじめまして、アタシはカノン。アンタが味方でよかったと心から思うよ」

「二人とも敏感っすね。あ、いや、いいことっすよ。俺ら影の住人は危ないのも多いんで。カノンさん、カナデくん、改めてよろしく頼んます」

「えっと、よ、よろしくお願いします」


カナデがしどろもどろに応えるとランケイはボリボリと頭を掻いて少し困ったような表情を見せた。

見かねたフーガがカナデに話しかけた。


「ランケイは俺と所属は違うんだが、国に仕える身としては後輩にあたる。実力は二人が感じ取っている通りだが、まぁ顔のわりに人はよくできてるから安心していいぞ」

「フーガさん、それ僕の見た目が悪人って言ってるっすか?酷いっすよー」

「否定はできないな」

「ふふふっ」


笑うアリアに釣られて口角があがる。

いい人なのは確かだろう、そう思った。

そしてなにより、主従関係にとらわれず仲良さげに話す三人に疑うのがバカらしくなったのだった。


「さて、じゃあそろそろ話を進めましょうか」


唐突にアリアがそう言うと、フーガとランケイは真面目な顔つきで真っ直ぐアリアを見た。


「ランケイ、聞いていたと思うけど数日後に遠征へ向かいます。あなたは一度オペラニアへ戻り、兄の行方を見つけること、情報を集めることに集中して」

「はっ、フーガさんやカノン様、カナデ様がいらっしゃればどんな危機にも立ち向かえましょう。ですがどうか、ご無理なさらぬよう」


再びスイッチを切り替えたランケイがアリアへ伝えると、アリアは「えぇ、あなたも」と小さな声で応えた。

そして今度はフーガに向かい、アリアが告げた。


「フーガ、まだしばらく護衛をお願いします。……私、強くなるから」

「……えぇ、きっと陛下もお喜びになられるでしょう」


アリアは少し瞳を潤ませて頷いた。

カノンとカナデはそんな三人を見ていて自然と笑顔になっていた。


「それじゃあカナデ、出発できるようになったら教えて。それまでに私たちも準備を進めておくわ」

「わかった」

「アタシも――っと、あ、そうだフーガ」

「ん?なんだ?」

「アンタしばらく鍛えるんでしょ?アタシと一緒にやらない?」

「あぁ、そうだな。二人いればやれる幅も広がる。頼む」

「はいよ」

「じゃあ僕は王都は離れるっす。フーガさん、しばらくよろしくっす」

「わかった。気をつけろよ?」

「あーい」


その瞬間、ランケイは消えるようにいなくなった。

(面白い人だなぁ)


「今日はもう解散でいいだろう。リトミコとメストに警備変わってもらったが、リトミコは連勤だからな。変わってやらないと」

「私もいくわ」

「うん、二人とも無理はしないでね」

「ありがとう」

「じゃあアタシは帰るわ」

「おつかれさま」


こうして、アリアとフーガは警備依頼へ、カナデとカノンは帰路についた。


 オペラニアの奪還、王子の捜索、王妃の救出。

今のカナデ達には無謀とも言えるほど高い壁である。

だが、アリアの涙、フーガの覚悟に応える為にも、越えなければいけない壁だ。

白狼が共に戦ってくれれば、心強い戦力になる。

だが……。


「……僕自身も、もっと強くならないと」


カナデは立ち止まりそう呟くと、まだまだ高い太陽に手を伸ばし、それを掴んだ。


 ――五日後、午前中に最後の警備依頼を終わらせたカナデは、王都北側の商業地区にやってきた。


「ドーラムさーん、居ますかー?」

「……」


店内から返事はない。


「あれ?居ないのかな?ドーラムさーん」

「相変わらずタイミング悪いな」

「うぉっ!」


突如後ろから声をかけられて肩をびくつかせる。


「お、驚かさないでくださいよ……」

「……悪かったな、さぁ中に入れ。ばっちり仕上げてあるぜ」


その言葉にカナデは目をキラつかせた。


次話『』

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