45話『目標』
45話『目標』
「行くのではありません。――帰るのです!!お母様とお兄様の帰る場所を取り戻す為に!」
アリアがそう力強く応える。
その立ち姿は国を背負う王家そのものであり、愛する家族のために闘う戦士の風格があった。
「……そうか。わかった、伝えておこう」
マスターの返答にアリアは感謝の意を込めて頭を下げた。
「当然、俺も出る。アリア王女をお護りするのが、俺が国王陛下より賜った使命ですから」
「フーガ……ありがとう。いつか必ず、その忠誠に報います」
その言葉にフーガは小さくため息をつくと。呆れたような、満足そうな笑みを返した。
「何二人で済まそうとしてるんだい?」
「そうだよ。僕らはパーティじゃないか」
カノン、そしてカナデも共に戦う意志を見せると、アリアは少し驚いた表情をみせたが、すぐに笑顔になり頷いた。
「カノン、カナデ……そうね、ありがとう。……お願い、力を貸して」
「うん」
「任せな」
アリアが再びマスターと向かい合う。
そしてフーガ、カノン、カナデもマスターへ視線を向けた。
「私たち『宝石獣の瞳』がオペラニア奪還に参加します!」
「……わかった。無理をするなとは言わない。だが生きて戻れ。お前たちの身分や出生は関係ない。ここは……ギルドはお前たちが帰るのを待ってるぞ」
「はい!!」
四人の覇気ある声がギルド本部に響いた――。
それからマスターと少し話をした後、カナデ達は執務室を後にした。
カフェスペースで腰を下ろすと、カノンが椅子の上で胡座をかいて、ググッと背中を伸ばしながら問いかけた。
「んーっはぁ。それで、目先の目標は?」
「私は宝石獣の加護を使い熟すことかな。実は……戦闘スタイルというか、ジョブを変えることにしたの」
「あれだけ剣を使えるのにかい?」
「そう、加護を生かすなら剣より魔法なの。私はマナも多いから結構向いてるのよね」
「おっ!魔法職か!ついに脳筋パーティ卒業だな」
「まだヒーラーもいないゴリ押しパーティだけどね」
「うっ、カナデ、痛いところ突くなよ」
フーガが苦笑いを浮かべると、三人は声を出して笑った。
少し落ち着くと、こんどはアリアがフーガに問いかけた。
「フーガの目標は?」
「俺か?俺はひたすら鍛える!この前の大森林では何度か腕を吹っ飛ばされたからな。足腰の強化がマストだ」
「これ以上は身体よりマナ操作を鍛えなよ。僕のアレは加護頼りだから無理だけど、フーガの身体ならもっと身体強化のレベルを上げられるはずだよ」
「あぁ、今まで逃げてきたが、そろそろ重い腰をあげるべきだろうな。……苦手なんだよなぁ」
フーガは後頭部をガシガシと掻きながらため息をついた。
「カノンはどうするの?」
「アタシもフーガと一緒だよ。マナでもなんでも鍛えるさ」
「じゃあ、みんなまずはレベルアップが目標だね」
「そういうカナデはどうするんだい?」
カノンがカナデに質問すると、カナデは急に真剣な表情となり、緊張した様子で口を開いた。
「……実は、三人に一つお願いがあるんだ」
「え?何?」
アリアが応えるとカナデはアリア、フーガ、カノンの順番に目を見た。
そして、決意を込めた眼差しで皆に伝える。
「あの森――月呼びの森へ行きたい。……白狼を迎えに行く」
皆が驚きの表情でカナデを見た。
白狼を迎えに行く。
それはつまり、これから待ち受けるオペラニアでの戦いに幻獣が加わることを意味するのだ。
「白狼と約束した。必ず迎えに行くって。それに、魔族との戦いで自分の力不足は充分理解してる。だから今、白狼の力が必要なんだ」
「……いいんじゃない?アタシは賛成だよ。環境が変われば魔物の種類も変わるし、いい刺激になりそうだしね」
「そうだな。それどころか……こっちからお願いしたいくらいだ」
「幻獣『白狼』力になってくれるのなら心強いわ」
アリアとカノン、フーガが目を合わせて頷く。
全員の意思を確認したフーガは、カナデに応えた。
「わかった。まずは月呼びの森に行こう」
「ありがとう」
カナデの感謝の言葉にフーガは親指を立てて応えた。
それを笑顔で見届けたアリアは突然「それじゃあ」と一言添えて立ち上がると、両手の平を合わせて見せた。
「カノン、カナデ。二人に会わせたい人がいるの。ちょっと来てくれない?」
「えっ?」
カナデとカノンは顔を見合わせ首を傾げた。
すると、次にフーガが立ち上がりこう言った。
「俺たちのもう一人の仲間さ」
――その頃、魔大陸の中心に位置する巨大な城、魔王城の城内に、魔王国軍の幹部が招集されていた。
「皆、集まっておるな。此度、愚かにも争い続けていた人間共の国を一つ、我が手中に収めることができた。パイモン、よくやってくれた」
「勿体なきお言葉にございます」
パイモンは魔王へ敬意を込めて頭を下げた。
魔王国 幹部 二の席『狡猾のパイモン』
彼は自分の手を汚さない。
人や魔物を操り、戦わせ、最後に残った甘い蜜だけを全て持っていく。
その卑怯な賢さが故に、彼は魔王に認められていた。
「……ちっ」
あからさまに舌打ちをしたバアル。
彼女はその狡さを嫌っていた。
いや、パイモンは彼以外の幹部からは嫌われていたが、魔王のお気に入りに毒を吐けるものはいないのだ。
一人を除いて。
「ゲーティアさまぁ、コイツはただ突っ立って魔物けしかけただけでぇ、人間の王の首を取ったのわぁ、お、れ、さ、ま、ですよぉ!」
「二枚舌め。俺は見てたぞ、ベリアル。首を取ったのはそいつで、お前は後ろでヘラヘラ笑ってただけじゃないか」
「あぁん?!おいヴィネてめぇ、人の手柄勝手に持っていってんじゃねぇぞ!」
魔王国 幹部 四の席『虚言のベリアル』
彼は息を吐くように嘘をつく。
そしてどんなに小さな嘘でも見抜かれると癇癪をおこし、挙句には口封じまでする狂人である。
魔王国 幹部 一の席『炯眼のヴィネ』
彼は正に『獅子』であった。
その赤い目で狙われれば最後、地獄の果てまで追っていき命を狩る。
それでいて先を見通す知力もあり、幹部を束ねる度量も備える。
「ベリアル、ヴィネ、口を慎みなさい。魔王陛下の御前ですよ」
バアルが二人を窘めると、魔王ゲーティアはバアルに手を挙げて示した。
「よい。新たな幹部も迎え入れたよき日だ。我は機嫌がいい。お主もそうであろう?アスモデウス」
「……ふふふっ、そうですわね。魔王陛下」
次話『』
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