44話『残酷な知らせ』

44話『残酷な知らせ』


 警備依頼を受けてから1週間ほどが経過した。

あれから大きな事件もなく、『爆龍』ことリトミコが暴走することもなかった。


 一方、アリアとフーガはあの日以降、一度たりとも弱音は吐かず、毎日懸命に警備を続けた。

自国の危機……本当ならすぐにでも国へ戻りたりだろう。

だがアリアには国の姫という立場があり、フーガには姫を守る使命がある。

きっと悔しいはずなのに、強い人達だ。


 そして、皆で王都を守り続けていたある日の昼、その日の警備を終えたカナデとリトミコのが街へ入ろうとした時、遠くから馬車が何台も向かってくるのが見えた。


「リトミコ、あれってもしかして……」

「うん、国の馬車……オペラニアに向かった隊みたいね」


徐々に近づいてくる馬車の行列。

姿が鮮明になるにつれて戻った理由が明確になっていき、胸を痛めた。


「……ボロボロだね」

「……うん、マスターに伝えてくる」


 その日の夕刻、ギルド本部に再び宝石獣の瞳が集められた。


『――ガチャ』

「揃ってるな」


執務室へ入ってきたマスターの顔色は暗い。

アリアもそれを察したのか、俯いてしまった。


「まず、国の立場としての答えを聞いておきたい。アリア姫。本当に二人も一緒で問題ないのですね?」

「……えぇ、お願いします」

「わかりました。では、ギルドマスターとして、話を進めさせていただきます」


形式的な確認を済ませると、いつものマスターに戻り話を始めた。


「今回国が行った兵の派遣、並びにオペラニア王国奪還作戦だが……失敗した」


アリアは顔を背けて唇を噛んだ。

フーガも悔しそうに拳を強く握っている。


「報告によれば、王都ソロアは現在魔物があちこちに闊歩しており、城は魔族が占領しているそうだ」

「やっぱ魔族か……」


カノンはバアルとの戦いを思い出したのか、鋭い視線でそう呟いた。


「そして、城内に潜入した団員の報告がある。これは俺がアリアとフーガに伝える必要があると思い、今回呼び立てた」


アリアとフーガの顔を今一度確認し、マスターは重い口を開いた。


「……オペラニア国 国王陛下が亡くなられた」


その瞬間、アリアはその場に崩れ落ちた。


「……そんな――お父様……」


アリアの目から大粒の涙が湧き出る。

押し殺していた声も徐々に耐えきれなくなっていき、その苦しみ、悔しさ、悲しみが部屋中にこだました。


きっと覚悟はしていただろう。

国を守る責任、それを一番近くで見てきたのはアリアだ。

国王は国と運命を共にする定めである。

だが、アリアにとっては国王である以前に父親だ。

家族を失った悲しみ……カナデは自身と姉をアリアに重ね、胸を締め付けられた。


泣き叫ぶアリアの両肩を支えるカナデ。

一度カナデの顔をみたアリアだが、耐えきれなくなり顔をくしゃくしゃにすると、カナデの胸を借りて再び大声で泣いた。


「……ぐすっ、ありがとう。もう大丈夫」


長いこと泣き続けたアリアはカナデの手をとり、なんとか身体を起こして立ち上がった。

そして、ギルドマスターへ問いかけた。


「他の家族は……お母様とお兄様は見つかりましたか?」


その質問にマスターは首を横に振ってこう応えた。

「ジュスト王子の行方は今だに不明だ。王妃様は……魔族に連れて行かれたそうだ」


「!!……お母様が?!」

「あぁ、オペラニアの兵が見たそうだ」

「そんな……」


アリアは顔を青ざめて口を押さえた。

父親は亡くなり、母親は捕らわれ、兄は行方不明……。

あまりにも酷い状況に、カナデはかける言葉を見つけられなかった。


「アリア、王妃を……母親を助けたいかい?」

「……えっ?」


不意にカノンがアリアにそう質問した。

カノンはいたって真剣な眼差しでアリアを見つめる。

アリアも最初はビックリしていたが、次第に真剣な目つきとなりカノンと向き合った。


「……えぇ。でもどうしたら」


再び弱気になり視線を逸らすアリア。

すると、次はフーガが答えた。


「アリア……いや、アリア様。できることからやってみませんか?俺たちはまだ弱い。一人の魔族に遅れをとるほどです。だから強くなって、それからジュスト様を見つけて、王妃様も救いに行くのです。」

「フーガ……。でも……もしモタモタしてる間にお母様も……お兄様もいなくなってしまったら?」


アリアの悲痛な思いが顔を出す。

自分では家出したと言っていたが、やはり家族を愛しているのだ。

だからこそ、不安になる。


「……僕の父と母は幼い頃に事故でこの世を去った」

「えっ?!」


突然そう話し出したカナデにアリアのみならず、その場にいた全員が絶句した。


「残された僕と姉は親族の家をたらい回しにされたけど、二人で懸命に生きてた。でも……もう姉とも会えないんだ」

「……お姉様も?」


アリアの問いにカナデは首を振った。


「わからないんだ。元気なのかも、生きているかも、幸せに暮らしているのかも……」

「……」

「でもね、僕はこの国で新しい居場所を見つけたんだ。頼れる仲間をね。だからアリア、何があっても、どんな結末が来ても、僕らは側にいるよ」


アリアは再び目を潤ませると言葉を詰まらせた。

(私にはこんなにも頼れる仲間がいるんだ。嬉しい。……そう、みんながいれば私はどこまでも戦える。何があっても……強くいられる!)


「カナデ……ありがとう」

「うん」


少しだけ笑顔を見せたアリアの頬をスーッと涙が伝った。

不安や恐怖、悔いや葛藤、そして喜び。

様々な感情が入り混じった涙だった。

そして、アリアはある決心をマスターへ伝えた。


「マスター、グランディオーソ陛下に、次の軍事作戦には私も参加することをお伝えください」

「……行くのか?オペラニアに」

「いえ、行くのではありません」


アリアはギュッと拳を握り込み、力強く答えた。


「帰るのです!!」


次話『』

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