43話『爆龍の少女』

43話『爆龍の少女』


「何もなくてつまらないねー。白フーガ達が倒し切っちゃったのかなー?」

「白……。何もないのはいいことだよ」

「だって退屈なんだもん」


他愛もない話をしながら、外の巡回を続けるカナデとリトミコ。

夜の街の外は街灯がなく、月光とランタンの灯りだけを頼りに進んでいた。


「フーガが『ディグビー』って魔物を倒したって言ってたよね?朝よくこの辺を走ってるけど見たことないんだけど……」

「あぁ、ディグビーが活動するのは日が完全に登り切った後だから、カナデが帰った頃から動いてるんじゃないかな?」

「なるほど……じゃあ今は完全に巣の中ってことか」

「うん。でもね……今くらいの季節は夜になると女王が飛ぶんだよ」

「女王って、女王蜂ってこと?」

「そ、大きなディグビーでね、巣で生まれた新しい女王が兵隊と月の光に導かれて移動して、新しい巣を作る場所探しをするんだ」

(そういえば、蜜蜂が巣別れする分蜂って習性は聞いたことがあるな……それかな?)


『クチャ』

「くちゃ?」


ふと、カナデが何かを踏んでしまった音が響いた。

足元を見ると何やらネバっとした白い糸がくっついている。


「糸?」

「おっ!蜂より骨のあるのがいそうだね!」

「リトミコ、これって……」

「あっ、ほら、あっち見てみな」

「えっ?」


『クチャクチャ』

近くの雑木林から聞こえる咀嚼音に不快感を抱きながらリトミコが指差す方を見た。

岩陰から糸でグルグル巻きにされた巨大な蜂が顔を出している。


「まさか、あれって……」

「そう、あれが女王。で、食べてる主は『グレートモス』の幼体だよ」

「幼体?」


『クチャクチャクチャ……ドスン』


食べられた女王蜂の頭が落ちる。

次の瞬間、今まで岩だと思い込んでいたものがノソノソと動き始めた。


『ズル……ズル……ズル……』

「まさか……幼体って」


徐々に近くその巨大を月光が照らす。


『キュルルルルー!!』

「でかい……芋……虫……!」


あまりの大きさに身の毛がよだつ。

小さなアゲハ蝶の幼虫ならまだしも、某アニメーション映画にでてくる王の蟲のような巨虫を目の前にしているのだ。

全身鳥肌ものである。


「……リトミコ、あいつは無理。頼む」

「えー?いいの?」

「生理的に受け付けない」

「何それ。んーまぁいいよー」


そう言いながら前へ出ると、付けていたグローブの留め具をキュッと縛り直し、両手を開くと足を肩幅より少し大きく広げて腰を落とした。


「ふー、いくよ!」


そう意気込んだ瞬間、彼女の両手に黒いゴツゴツとした玉が生まれた。

そしてその玉を持ったまま巨大芋虫に突っ込み、相手の身体に捩じ込む。


「ファイアショット」

『ドガーン!』

『キュリュリュー!』


玉を掴んだまま魔法を唱えると爆発が起きた。

自分諸共巻き込まれたはずだが、なぜか傷一つない様子で着地する。


すかさず、幼虫も口から糸を飛ばして対抗するが、それは側転で華麗に避けた。


「まだまだいくよ!」


再び彼女が手を開くと、ポコンと先程より大きい玉が生まれた。

今度は高くジャンプすると玉を相手の背中に向けて投げつける。


「ファイアショット」

『ドガーン!』

「ピキュァーーー!」


相手に玉がぶつかる直前、彼女の指先から放たれた魔法は玉に命中し、敵の背中の皮膚を吹き飛ばした。


「へへっ、あれでも生きてるかー、やっぱりタフだねぇ」


片手をつきながら着地したリトミコは、そう言いながらニヤリと笑った。


「それじゃあ……ちょっと本気だすかぁ……」


そう言った時、彼女の口からチリチリっと火花が散った。

そして両手を地面について獣のような体制になると、その瞬間、彼女の手足を赤色の鱗が纏った。

(あれは……爬虫類?いや、あれはまるで……)


「……グルアァァァァァ!!」


雄叫びを上げるリトミコ。

そしてそのまま再び高く飛び上がると、両手を合わせて魔法を唱えた。


「ヴォルカニックロック!!」


すると両手の間に真っ赤な岩塊が出現し、幼虫へ向かって打ち込まれた。


『ドゴーーン!!』

「ピキュァァァァァァ!」

「あっはっはっはっはっ!爆ぜやがれクソ虫があぁぁぁあ!!」


飛ばした勢いでカナデの隣に着地した。

鱗が少し薄くなったように見える。

その時見えた横顔はカナデの知るリトミコではなく、戦いに飢えたバーサーカーの目をしていた。


全身ボロボロのグレートモスの幼体は、逃げるように背中を向けて進み出した。

こうなってはもう終わりだ。

またあの岩塊を喰らえば倒れるだろう。

……だが、今のリトミコはそんなに優しくはなかった。


再び獣のように四肢で身体を支えるリトミコ。

そして口から火花を散らすと、その口を大きく開いた。


口の中から光が溢れ出す。

その光が極限まで明るくなった瞬間、リトミコの口からは高熱のレーザーが放たれ、幼虫を消し飛ばした。

さらにそのまま雑木林を貫き、地面を飛ばし、木々を焦がし、奥に見える絶壁溶かした。


「ふぅ……」

「…………」

「……てへっ!」

「……はぁ?」


 その日はリトミコの暴走以外に大きな事件は発生しなかった。

マスターからこっ酷く叱られたリトミコだったが、グレートモスの羽化を阻止したことに免じて、この件は不問となった。

グレートモスの成虫は、それほど厄介なようだ。


「ふぇー。散々な目にあったぁ……」

「お疲れ様。リトミコ、ちょっと聞いていい?」

「ん?何なに?」

「……君は――君の力は何なの?」

「あれ?知らないの?私、結構有名人なんだけどなぁ……ちょっとショック……」


そう言って不貞腐れて見せたかと思うと、くるりと回ってマントを広げて、真面目な顔、声でカナデの質問に答えた。


「アタシは超級冒険者 『爆龍』リトミコ。火龍の加護を受けた爆弾魔――だよっ!」


次話『』

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