42話『警備依頼』

42話『警備依頼』


 次の日、夕刻の鐘が鳴る頃にカナデはギルド本部へやってきた。

身体には昨日の内に買った安いチェストプレートを身につけ、同じく安く手に入れた量産品の両手直剣を背中に装備している。


 本部へ入ると数名の冒険者が集まっており、立ち話をしたり武器の手入れをしていた。

今回の警備依頼の参加者だろうか?


「カーナーデーくんっ!」

「あっ、リトミコさん、こんばんは。今日からよろしくお願いします」

「うん!よろしくね!……ちょーっと固いなぁ。んー……とりあえず、敬語禁止ね!」

「えっ?!」


突然の禁止令に思わず声がでた。

開いた口が塞がらないカナデを尻目にリトミコはさらにこう言った。


「あっ、あとー、アタシのことはリトって呼んで!仲良い友達はそう呼ぶんだ。アタシもカナデって呼ぶから!」

「えっ、えぇー……り、リト……さん?」

「んー、50点!ほら!パーティメンバーと話すみたいにさ」

「えぇー……」


決して折れてくれない様子のリトミコ。

カナデは心の中で大きくため息をつくと、無理やりスイッチを切り替えてリトミコを見た。


「……わかった。リト、よろしく」

「うん!100点!よくできました」


満足そうに笑顔で頷くリトミコ。

彼女のこの遠慮しない性格に、今まで何人が振り回されてきたのだろうか……。


 そんなことを考えて苦笑いしていると、リトミコはフラッと歩き始めて少し開けた場所で立ち止まり声を上げた。


「えー、警備任務に参加する人ー!ギルドカード確認するからこっちに来てー!」


彼女の声に反応した数名が向かってくる。

リトミコは来た冒険者に名前を聞いて、手際よくギルドカードを確認していった。


「はいはーい、パーティで参加してくれた『銀の斧』だね!リーダーはタイくんでいいかな?……うん、ギルドカードもオッケーだよ。報酬の取り決めはパーティ内で決めてね?じゃあ、そっちで少し待っててねー!」

(案外手際がいいな……。もしかしてかなりできる人なのかな?……あれ?これ僕いる??)


「今日は私たち合わせて八人だね。カナデも一応、今日だけはギルドカードを出してくれる?」

「えっ?あーうん。はいこれ」

「うんうん、新品の青カードだね!懐かしいなぁ」

「昨日更新したばかりだからね。あ、ちなみになんだけど、茶色が通常の冒険者で青か上級冒険者でしょ?……超級冒険者は何色なの?」

「知りたい?フッフーン!私のを見てみよっ!」


『デーン』という効果音が聞こえそうな構え方でギルドカードを突き出した。

色は……赤と茶色だ。


「へー、二色なんだ」

「んーん、実はちがうんだなぁ!」

「えっ?でもこれはどう見ても」

「正解はね……『属性色』だよ」

「属性……色?」

「そっ!自分のマナを流して作る特別なカード!それが超級冒険者のギルドカードなんだよ」

「なるほど……」


つまりあの冒険者登録で使われた水色の紙と同じようなもの……ということだろう。

でもそれだと水属性の人は上級と見分けが付きにくいのでは?と思ったが、よく見ると文字の色が上級は白だが超級は金色で、超級のカードは角に綺麗な装飾が施されていた。

これが違いなのだろう。


「じゃあリトはデュアルなんだ」

「そーだよ!アタシは火属性と土属性のデュアルなんだ」

「だから赤と茶色ね」


納得したカナデはリトミコにお礼を伝えてギルドカードを しまった。

笑顔で応えたリトミコは「よしっ!」と意気込むと、再び大声で皆へ呼びかけた。


「じゃあみんな!警備にいっくよー!」


リトミコの声に「おー!」と全員が反応する。

謎の団結力を感じ不思議な気分のカナデは、再び自分の必要性に戸惑いながら、最後尾を歩き出したのだった――。


 ――約30分後、カナデとリトミコ達は王都外壁の外側へやってきた。

遠くに見慣れない鎧と大盾をつけた男性、そしてアリアの姿が見えた。

あちらもカナデ達に気付き近づいてくる。

リトミコは子供のように手を大きく振っていたが、顔はやけにニヤニヤしている。

そしてカナデも思わず上がりそうな口角を必死に押さえつけていた。

その理由は――。


「よぉ、お疲れさん」

「おつかれ様。なんかフーガ……違和感だね」

「カナデもそう思う?私もなんだか可笑しくって……フフッ」


アリアは声を殺して笑った。

どうやら元気になってくれたようだ。


「だからこれは新しいのが手に入るまでの――」

「わかってる。一時凌ぎなんでしょ?でも……フフフッ」

「うん。そのー何というか――」

「www白wwwフーガが白wwwよりによって白wwwwww」


リトミコが盛大に大爆笑してしまいアリアとカナデも釣られて笑う。

真っ白なフーガは恥ずかしそうに頭を掻いた。

だが、フーガのおかげでアリアはいい笑顔だ。

きっとこれを狙って買ってきたのだろう。

……きっと。


「あー面白いwwさぁフーガ、引き継ぎお願い」

「ッ、覚えてろよー。……一先ず、今日の見回りでは――」


 顔を赤るフーガに日中の様子を聞くと、外では地面に穴を掘って作られる『ディグビー』という蜂の魔物の巣を一つ潰した程度で、おかしなことは何もなかったそうだ。

街の中で警備している人達も、酔っ払いの喧嘩を止めた程度で、比較的平和だったと話したそうだ。


「んー、大体おっけー!ありがとう」

「あぁ、それじゃあ俺たちも上がろうか」

「うん。カナデ、頑張って」

「ありがとう。お疲れ様」


アリアに鼓舞され、俄然やる気が満ちた。


 配置を二人で考えた結果、カナデとリトミコ、上級冒険者の一組で城壁の外周を担当し、街中は東と西にブロック分けして二人一組で警備することになった。


そしてこの日カナデは、リトミコという人の強さを知ることになった。


「あっはっはっはっはっ!爆ぜやがれクソ虫があぁぁぁあ!!」


次話『爆龍の少女』

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