41話『超級冒険者』

41話『超級冒険者』


「やっほー!みんなのリトミコちゃんが来たよー!」


勢いよく開かれた扉の向こうから現れたのは、騒々しいのが少し残念な可愛らしい少女であった。

続いてフィーネがため息をつきながら入室すると、その後ろから色白でどこかオドオドとした様子の青年が入ってきた。


「リトミコ……相変わらずだな」

「カノンちゃんおひさー!一緒に呼ばれるなんて珍しいねぇ」


直前までのしんみりした空気を良くも悪くもぶち壊したリトミコと名乗る少女は、カノンと親しげに話したかと思うと、カナデの存在に気付き目を輝かせながら近づいてきた。


「君が新しい彼女たちの仲間だねっ!アタシはリトミコ!よろしくね!」

「は、初めまして……カナデです」

「カナデくんって言うんだね!いい響きの名前だねー!」


リトミコはカナデの手を取るとブンブン振り回すように握手をした。

少し引き気味なカナデをよそにペラペラと喋り続けるリトミコ。

その後ろからもう一人の青年が肩を叩き、少し怯えた様子でリトミコの話を中断させた。


「そ、そろそろいいんじゃない?彼も困ってるから……ね?」


リトミコは分かりやすく頬を膨らませて「ぶーぶー」とブーイングをしたが、それを見ていたフィーネに後ろ襟を引っ張られてカナデから剥がされた。


「はぁ、リトミコがこれ以上騒がしくなる前にこっちから紹介だけして話を進めさせてもらおう」


マスターはそう言うとカナデへ視線を向けた。


「初めて会うのはカナデとリトミコ、メストだな。カナデ、さっき本人が名乗った通りだが、彼女がリトミコ、そして彼がメスト。二人とも『超級冒険者』だ」

(彼女たちが超級冒険者……)

「リトミコ、メスト、彼がカナデ。本日付で上級冒険者になった『宝石獣の瞳』の新メンバーだ」

「……えっ?え?きょ、きょ、今日からですが?!」

「あぁ、フーガとの約束もあったが、ギルドとしても望んだことだ。不満か?」

「ととととんでもない!!嬉しいんですが、と、唐突すぎて……」

「今言ったからな。おめでとう。これからも頼むぞ」


マスターが悪い笑顔でそう言うと、フーガがカナデに無理やり肩を組み、カノンと少し元気になったアリアが近づいて「おめでとう」「やったな」とカナデを称えた。

そしてフィーネ、初対面のリトミコとメストもカナデに対し、思い思いに祝福の言葉を送った。

カナデは照れくさそうにしながらみんなに感謝を伝えた。


「本当は後一人、ファンタスという超級冒険者がいるんだが、あいつは自由人でな。今日も呼んではいたんだが集まりなんて滅多にでないやつなんだ。また今度、紹介しよう」

「あっ、分かりました」

「まず、リトミコ、メスト……話しておくことがある」


こうして、マスターは超級冒険者の二人に大森林での魔族との戦闘と魔笛について、そしてオペラニアが攻め落とされたことを伝えた。


「オペラニア王国が?!あの国の軍事力が負けたっていうの……どの国にやられたの?」

「魔王国……といえばわかるか?」

「……魔族、ですか」

「あぁ」


リトミコとメストは驚きを隠せないようだった。

オペラニア王国は魔族から何度も攻められてきた歴史があると聞いた。

だからこそ、軍事力の強化は惜しまず行われていたはずだ。

だからこそ、オペラニア王国が陥落したというのは『隣国が陥落した』と言う以上のインパクトを与えたのだ。


「先日の大森林の件もあり、クラヴィーア王国も他人事ではない。国王陛下は同盟国家として、オペラニアへの騎士団、及び魔法師団の派遣を宣言された。そこで、冒険者ギルドには、手薄になるしばらくの間の王都の警備依頼が国から来ている」

「……それをこの人数にやらせるつもりか?」


マスターにフーガが噛みつこうとしたが、マスターはその質問には首を横に振った。


「話は最後まで聞け。今回の依頼はギルド側が受領した。リトミコ、メスト、フーガ三名をリーダーとした三班交代での遂行とさせてほしい。班員はギルドからの依頼として募集をかけ、報酬は日給でギルドが支払う」


「なるほど」とカナデは感心した。

こんな受けない選択肢がない依頼、統率力の低い冒険者ギルドでどうするのかと思ったが……。

確かにそれなら、毎日は無理でも来てくれるだろうし、交代制なら休憩も十分とれる。

問題は……。


「班員は集まる算段があるのかい?」


その問題を指摘したのはカノンだった。

マスターはカノンに対して頷くと「金は出し渋らない」とだけ答えた。

なんともマスターらしい力技だ。


「アタシはオッケーだよ!」

「リーダーなんて自信はないですが……頑張ります」

「あぁ、俺も構わない」

「……感謝する」

「あのー」


頭を下げるマスターを遮り、アリアが手を挙げた。


「私たちは警備に参加すればいいのですか?『フーガをしばらく借りる』ということを伝えるためだけに呼ばれたのなら、それはそれで納得なのですが……」


マスターは「あぁ」と思い出したように返すと、続けてこう話した。


「カノン、アリア、カナデ。三人には各リーダーに付いて補佐を頼みたい」

「副リーダーということですか?」

「まぁそんなかんじだ。誰に付くかは……リーダー三人の希望はあるか?」


マスターが問うと一番にリトミコが手を挙げた。


「はいはーい!アタシはカナデくんがいいでーす!」

「えっ?」

「せっかくだから親睦も深めたいし、ニーズヘッグを倒した実力も見れるかもしれないし!それに……アタシの勘がカナデくんと組むと楽しそうって言ってるから」

「ほう、カナデはどうだ?」

「えっ……とー、はい。分かりました。リトミコさん、よろしくお願いします」

「うん!よろしくね!」


リトミコは嬉しそうに笑顔で応えた。


「じゃあ、俺はアリアと組ませてもらう」

「わかった。よろしくね、フーガ」

「じゃあ、アタシはメストとだね。頼むよリーダー」

「カノンがいてくれるのは心強いよ。よろしく」

「よし、決まりだな。では、明日の夕刻より半日交代で警備にあってもらう。順番はフーガ班、リトミコ班、メスト班の順だ。警備位置の確認と班員の補充は当日ギルドで行う為、毎度ギルドで集合して、リーダーは受付に設置する特別警備窓口に行ってくれ」

「はーい」

「わかった」

「うん、了解」


リーダー三人の返答に頷くと、マスターは「では、明日から頼む」とだけ残して部屋を出た。

かと思うと、「あぁ、そうだった」と言って半身だけ部屋に戻ってきた。


「カナデ、この後フィーネと一緒に受付に行ってくれ。フィーネ、カナデのギルドカードの更新を頼む」

「はい」

「承知しました」


マスターは再び部屋を後にした。

続くようにフィーネが扉の前に立ち、誘導して全員を退室させる。

その際、カナデを追い越していくリトミコが背中を『バンッ』と叩き「頼んだよー!」と言いながらウィンクをして歩いて行った。

服越しなのに背中がジンジンする。

彼女の強さの片鱗を、背中で感じたのだった。


次話『』

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