40話『秘密』
40話『秘密』
幻獣について調べたあの日から、アリアは一人図書館へ通いながら、宝石獣の加護での戦い方を模索していた。
また、カナデも戦えない間はトレーニングに励み、今できる努力を積み重ねていた。
そして三日が経過した日、王都ギルド本部の執務室に『宝石獣の瞳』のメンバーが集められた。
『ガチャ』
「失礼します。ってあれ?みんなもう来てたんだ」
「ん、あぁ……まぁな」
「??フーガどうかしたの?アリアも……」
カナデが到着した時には既に『宝石獣の瞳』のメンバーは集まっていた。
だが、カノンは腕を組んで壁に寄りかかり黙り込んでいるし、フーガは思い詰めた顔で考え事をしており、アリアは心ここに在らず……というより、何かに怯えてしまっているようであった。
『ガチャ』
再び扉が開く音が聞こえ、マスターとフィーネが入ってきた。
「よう、早いな。……まぁ当然の空気だな。後三人呼んでいるが、内二人は別室で待たせている。もう一人はどうせ来ないだろう」
そう話しながら自分の机の前まで歩いて行ったマスターは、深妙な面持ちでアリアとフーガを一瞥した。
「……マスター、俺とアリアにはグランディオーソ陛下の使いが来て状況はわかっている。が、カノンとカナデには説明が必要だ。……俺たちのことも」
「……あぁ、そうだな」
マスターがそう返すと、カノンがマスターへ問いかけた。
「冒険者なんて秘密の一つや二つあるもんだ。だけど、国王陛下が関わってきたってことは……かなり重大なものじゃないのかい?アタシらが聞いていいのか?」
それはカナデも思ったことだった。
だが、あんなに憔悴したアリアを見てしまった以上、何もしないわけにもいかない。
そしてカノンの質問にはマスターではなく、なんとか正気を保っている様子のアリア自身が答えた。
「カノン、カナデ……お願い、聞いていて」
最後は消えそうなほど小さい声だった。
カノンとカナデは目を合わせると、同時に三人に向かって頷いた。
一度四人の顔を見たマスターは、柄にもなく緊張した様子で話し始めた。
「先日、ラルゴ陛下がオペラニア王国へ魔族の件を伝えるように指示していたのは皆知っているだろう。それを伝えに行った騎士団員の内一人が、昨日の夜更け、ボロボロになって帰国した」
「えっ?」
思わず声が漏れたカナデにマスターは視線を合わせると、また話に戻った。
「その騎士団員がこう報告したそうだ。
『オペラニア王国が陥落した』とな」
その言葉を聞いた瞬間、アリアはその場で崩れ落ちた。
フィーネが近寄り、そっと背中を撫でる。
フーガもギリッと歯を食いしばって悔しがっている……まさか……。
「フーガ……もしかして君たち二人は……オペラニアの出身なの?」
カナデが質問をすると、強く握り込んだ拳を開き、しばらく天井を見上げたフーガが、向き直って答えた。
「……あぁ、確かに俺はオペラニア王国の出身だ。だが……アリアは出身というより、オペラニア王国そのものだ」
「えっ?それって――」
「……私からお伝えします」
なんとか立ち上がったアリアはカノンとカナデに向かい合うと、気品ある立ち姿を見せてゆっくりと口を開いた。
「……改めまして、オペラニア王国 第一王女、本当の名を『アリア フランチェスカ オペラニオ』と申します」
「……第一……王女ってことは、オペラニアのお姫様ってこと?」
「えぇ、今まで黙っていてごめんなさい」
「……そういうことかい」
カノンは悔しそうにそう呟いた。
これは哀れみからくる表情ではない。
カノンとカナデから見ると隣国の危機である。
この国も危ないかも知れないと考えていたのだ。
今襲撃を受けている場所が仲間の故郷だと知りもせずに。
そして、それを知った今も尚、彼女にかける言葉を見つけられない。
そんな醜怪極まりない自分の心を恥じ、悔しくて仕方がなかったのだ。
「……俺も一応、立場を伝えておきたい」
その場の空気を変えるように、フーガはカノンとカナデに向き合って口を開いた。
「オペラニア王国騎士団所属 アリア王女付き護衛、名前は『フーガ ボルト』だ」
「そっか、アリアを守る為に近くにいたんだね」
「あぁ。それが国王陛下より承った役目だからな。だが、アリア王女の意思を尊重して、この国にいる間はお互い自由に生活していた」
「……なるほど。でもアリアがフーガと別行動で外に出ることもあったよね?その時はどうしてたの?」
「……実はもう一人国から一緒に来たやつかいるんだ。俺がいない間はそいつに陰から護衛してもらっていた」
「彼のことはそのうち紹介するわ」
「そうなんだ。わかった」
マスターがたまにフーガやアリアへ変なちょっかいをだしていたり、ホルンがフーガの名を聞いたことがあると言ったりしていたことがこの件と繋がった気がした。
フーガは騎士団の所属として、たくさんの国の人と交流があったのだろう。
そして、マスターやフィーネ、国王陛下はこのことを知っていたのだ。
先日の謁見ではそれを隠していたことになる。
もしかしたらフーガとアリアは陛下と一度は会っていたのかも知れないとも思えた。
話を終えると、フーガはマスターへ声をかけた。
「時間を作ってくれて感謝する」
「あぁ、他の奴らには聞かせられないからな。それじゃあフィーネ、二人を呼んできてくれ」
「わかりました」
フィーネはお辞儀をして部屋を出て行った。
すると、今度はマスターがカノンへ声をかけた。
「気持ちは収まったか?」
「……まだ悔しいさ。でも今は言葉より身体で二人の力になるべきだと思ったよ。姫様でも騎士団でも、二人がパーティの仲間って事実はかわらないからね」
「えぇ。カノン、ありがとう」
「礼はこの件が落ち着いてからゆっくり聞くよ」
そう言うとカノンはアリアの頭を手のひらで二回『ポンポン』と触れた。
アリアは照れくさそうに触れられたところを手で隠した。
そんな二人に眼福を得ていると『コンコンコン』とドアをノックする音が響き「失礼します」とフィーネの声が続いた。
……かと思うと「あっ、ちょっと!」と焦る声に変わった瞬間、ドアは『バン!』と派手な音を立てながら開かれ、フィーネとは別の女性が先に入室した。
「やっほー!みんなのリトミコちゃんが来たよー!」
次話『超級冒険者』
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