39話『幻獣を知る』

39話『幻獣を知る』


 ドーラムと出会ったその日、カナデは手持ちの素材と国王陛下からいただいたミスリル、手付金を渡して帰宅した。

次の日にはニーズヘッグとブラックベアーの素材を全てギルドから受け取ると、協力をお願いしていたアリアのスキル『虚空の倉庫』に収納してドーラムの元へ持って行った。


解体済みとはいえ、想像以上の大きさ、量の素材に驚いたドーラムだったが、工房の裏にある素材庫にはなんとか収まり切ってホッとした様子だった。


 ドーラムと別れた後、カナデとアリアは王都の中央へ向けて、何気なく歩き始めた。

近況や世間話をしていると、ふと前を歩くアリアが何かを思い出した様子で振り返り、器用に後ろ向きで歩きながらカナデに質問をした。


「あっ。ねぇ、カナデはこれから用事あったりする?」

「えっ?今日は予定はないよ。武器も防具もまだまだ出来上がらないし、みんなも休養中だから依頼にも出ないし」

「それじゃあ、私にも少し付き合ってくれない?調べ物を手伝ってほしいの。きっとカナデの役にも立つはずよ」

「調べ物?いいけど……何を調べるの?」


カナデがそう聞くとアリアは立ち止まり、少し大袈裟な口調でこう答えた。


「……『幻獣』について、よ」

「え……」


 ――数十分後、カナデとアリアは王立図書館へやってきた。

世界の歴史や神話に関する本を探しながら、アリアは小声で幻獣について語った。


「カナデの住んでた国で幻獣がどういった存在だったかはわからないけど、この国や周辺諸国では、幻獣は神に近い存在と言われているの」

「そうなんだ」

(確かに神様と対話したときに白狼も来てくれたし、あながち間違ってはいないだろうな)

「えぇ、そして実際に幻獣たちは度々人前に現れてきたわ。あなたが白狼に出会ったようにね」

「つまり、幻獣は加護や伝承だけじゃなく、存在そのものが認識されているんだね」

「その通りよ」


一通り集めた本の山をテーブルに置き、二人は椅子に腰掛けた。

そしてアリアは一冊の神話を手に取りページを捲ると、そこに映る絵を指さして見せた。


「ほら、ここに白狼が描かれているでしょ?水から顔を出しているのが海龍、この鳥は不死鳥、そして、白狼の近くにいるのが宝石獣」

「あっ、宝石獣の瞳……」

「そう、私たちのパーティ名は実は幻獣『宝石獣』の名を使わせてもらっているの。宝石獣が司るのは『運命』つまり私たちは運命を見定める目であり、時に従い、時に抗う。それを可能とする強者でありたいと願ったの」

「なんか……壮大だね」

「えぇ、そうね。でももう一つ理由があってね、私の家系は古くから宝石獣と縁があるの」

「えっ?!」


思わぬカミングアウトに驚き、つい大声を出してしまったカナデ。

周りの冷たい視線に気付き、八方へペコペコと頭を下げた。


「……もう、驚きすぎよ」

「い、いやだって……えぇ……」

「まぁ私もあなたの加護を知った時同じくらい驚いたからわかるけどね」


クスッと笑うアリアにカナデは照れながら苦笑いを返した。

(久々に見たな……かわいい)


「話を戻すわね。今回幻獣について調べたい理由は正に、宝石獣のことを知りたいからなの」

「もしかして……あの力?」

「えっ?あー……。見られてたか。あはは」


アリアはそう言って参ったなぁと言わんばかりに顔の横人差し指で掻いて見せた。

だが、特に隠すつもりもないようだ。

そして、改めてカナデの方を見ると、アリアは真剣な面持ちで話した。


「私ね、あの戦いの最中で新しい加護を授かったの。それが幻獣『宝石獣の加護』」

「そうか……あの時白狼の加護が反応してたのは、同じ幻獣の加護だったからなのか。もしかして、力についてもっと知りたくてここに?」

「えぇ、力を扱うヒントがないかと思って」

「そういうことならわかった。僕も白狼のことを何か知れるかもしれないし、手伝うよ」

「うん、ありがとう」


 アリアの意図を理解したカナデは、目の前に積まれた本を一冊手に取り、一頁ずつ目を通した。

その後、二冊、三冊と読み進めていくと、白狼の伝承を見つけた。


『とある地に、月夜の美しい村があった』

『白狼はその村を守護する神の使いとして崇められていた』

『白狼は村に魔物の脅威が近づくと、民の為に力を振るった』

『だが、民は次第にその力を恐れるようになり、ついに白狼へ刃を向けた』

『その日を境に白狼は姿を消したが、程なくしてその村は巨大な魔物に踏み潰され、一夜にして滅び去った』


(そっか……この時に白狼は封印されたんだ。白狼がいたから近づかなかった魔物達が、白狼がいなくなったことでやってきたんだな)

村人たちへの憤りを感じつつ、カナデは次のページを開いた。

すると、その一頁に書かれたある一文が目についた。


「……戦いの最中、宝石獣の額の石は六色に変化し輝きを放った――」

「えっ?」

「ほら、ここ」


『邪なる者との戦いの最中、宝石獣の額の石は六色に変化し輝きを放った』

『紅(あか)、蒼(あお)、翠(みどり)、黄、紫、そして白』

『その力は正に宝石のような美しさであった』


「六色の輝き……この紅って多分、アリアの力じゃないかな?」

「……そっか、つまり、今私が使えるのは『紅』の力だけなんだ」

「アリアの適合属性が火だから紅が使えるのかはわからないけど、他の力も使えるか試してみるのも有りかもね」

「うん、そうね。ありがとう」


アリアが笑顔でお礼を言うと、カナデは頷きで応えた。


 他の本も見てみようとカナデが手を伸ばした時、視界に入った窓の外が赤焼けていることに気づいた。

カナデの視線でアリアもそれがわかったのか、読んでいた本を畳むと、一つ声に乗せて息を吐いた。

どうやら今日はここまでのようだ。


「ふぅ、長いこと居座っちゃったみたいね。時間が経つのは早いわ」

「そうだね、お昼食べ損なっちゃったよ」

「ふふっ、そうね。せっかくだし、このままご飯食べに行かない?」

「うん、いいよ。蜜蜂の巣には行くつもりだったから」

「さすが常連さんね、じゃあ行きましょうか」


 本を全て元の場所に戻した後、カナデとアリアは図書館を出ると、美味しい食事を楽しみに笑顔で歩き出した。


この時世界では、後に人々を震撼させる一大事件が起こっているとも知らずに――。


次話『』

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