34話『覚醒する力』

34話『覚醒する力』


 一時の睨み合いの後、ニーズヘッグへの攻撃を再開しようとするカナデの身体を淡い月光のような光が包み込んだ。


「これは……力が漲る!!でも、急になんで?……あっ」


カナデは思い出した。

そう、日は沈み空は黒く、星々が輝く時間、夜がやってきたのだ。

白狼の加護のもう一つの能力『月の出ている間は身体能力が底上げされる』その効果が初めて発動したのだった。


「すごい、これが白狼の力……」


 突然雰囲気が変わったカナデを警戒するニーズヘッグ。

カナデは再びナイフを強く握り込むと、顔の前で構えた。


「身体強化…………!!」

『ズンッ!』


踏み込みで地面が沈むほどの脚力で一気に距離を詰める。

ニーズヘッグは瞬時に反応し、カナデが来るであろう先で大口を開いた。

だが次の瞬間には、蛇は上顎を無理やり閉じられ、地面に叩きつけられていた。

カナデはその足で身軽に飛び上がり、ニーズヘッグの頭へ踵を落としたのだ。

そのままニーズヘッグの身体の上を走り抜けると、たったひとつの弱点である鱗の浮いた箇所へナイフを思いっきり突き刺した。


「キーーーーー!!」


蛇のものとは思えない悲鳴を発して暴れ出すニーズヘッグ。

身体の向きを変えられ、地面へ落とされそうになるが、ナイフを両手でしっかりと握り直し、そのまま地面へ着地しつつ刃に力を加えた。


「はあぁぁぁぁぁあ!身体超強化!!!」


その瞬間、カナデの刃の進行を止めていた鱗が割れ落ち、胴の真ん中から頭までを一気に切り裂いた。


左の顎が上下に分かれた瞬間、ニーズヘッグの悲鳴は途絶え、その場に倒れ込んだ。

まだピクピクと動いているのを確認したカナデは、吹き飛ばされた直剣を拾い上げると、首あたりの開いた傷口へ易々と差し込み、グリっと90度回して刃を上に立てて、そのまま切り上げた。

完全に背骨が分断され沈黙したことを確認。

見事、ニーズヘッグを討伐した。


「かっ……たぁ……」

『――バタン』


身体超強化のリバウンド、集中し続けた精神疲労、回復が早いとはいえ、肉体的な疲労も積み重なり、カナデはそこで意識を失った。

(――みんな、後は任せたよ)


 一方、アリアとフーガも苦しいながらに、なんとか魔物の数を減らしていっていた。


「たぁ!はあっ!」

『バシュッ!ザン!』

「シールドバッシュ!!」

『ズカン!』

「はぁ、はぁ……あと何匹だ?」

「40くらいよ」

「……よし、一気に片付けるぞ」

「わかった」


フーガは盾を地面に突き立てると、両手を前へ出した。

そして、残り少ないマナを絞り出すように魔法を唱えた。


「サンダーチェイン!!」

「ファイアレイン!」


それぞれが約20体ずつ魔物を撃破し、最後にアリアは虫の息となった小悪魔の額に剣を突き刺した。


「ふう……なんとか……倒し切ったわね」

『ガシャン』


後ろで何かが崩れた音が聞こえ振り向くと、フーガが地面にうつ伏せに倒れ込んでいた。


「フーガ!!」

「……だっ大丈夫です。疲労とマナの枯渇なので、休めばよくなります」

「……よかった。ごめんなさい、無理させて」

「へっ、気にしないでくださいよ……っとすまない、つい気が抜けてしまったな」

「……ううん、少し休んでて。状況確認は私がやる」

「あぁ、頼む」


フーガはそのまま目を閉じて眠ってしまった。

地面に突き刺さって大盾を見ると、所々にヒビが入っている。

それだけたくさんの攻撃を受けてくれたんだと理解したアリアは、眠る彼へ尊敬の眼差しを送った。


『ドーン!』


 突然、爆発したような音が聞こえて後ろを振り向いた。

遠くに見えたのは巨大な翼で空を舞うバアル、そして地面に倒れて動かないカノンの姿だった。


「はっ!そんな……カノン!!」


アリアの呼びかけに応答はない。

走って駆け寄ったアリアが目にしたカノンは、身体中傷だらけで、ボロボロというのも生優しいと思えるほどに重傷を負っていた。


アリアは急いで虚空の倉庫を開くと、迷わず上級回復薬を取り出し、カノンの身体にばら撒いた。

傷が少しずつ癒えていくと、ようやくカノンが目を開けた。


「カノン!」

「……アリア、ごめん。アタシ、負けちまったよ」

「大丈夫、今は喋らないで」

「……ごめん」


カノンは涙を流しながら目を瞑った。

眠ったことを確認したアリアは立ち上がり、カノンを避けて前へ出るとバアルをキッと睨みつける。

バアルはゆっくりと地に降りると、アリアに向かって話しかけた。


「そやつは強かった。この私が人間相手にここまでやられるとは思ってもいなかった」


そう言うと、頬に着いた傷をなぞって見せた。

よく見るとバアルもかなりの傷ができている。

カノンがもう少しというところまで追い詰めてくれたようだ。


「えぇ、カノンは強いわ。全力だったら、あなたなんて目じゃないほどにね」

「……それと、あの大盾の男も、一人で約二万の魔物の攻撃を受け切り勝利への道を作った。あの少年はこの闘いで成長し、単騎でニーズヘッグに挑み倒してみせた」

「……何が言いたいの?」

「お前は……何を成せる?」

「……あなたを止められる」

「自分と相手の実力差もわからんか」

「わかってる!それでも……私はあなたを止めるわ」

「ならば……見せてみろ!!」


バアルは翼を羽ばたき加速して、アリアにナギナタを振るった。

間一髪剣で軌道を逸らしたが、追撃のボディーブローをもろに受けて吹っ飛んだ。

地面を滑り、転がる。

なんとか立ち上がるが、胃の違和感が込み上げ、血の混じった汚物を吐き出した。


口を拭い再び剣を構えるアリア。

バアルはイラつき舌打ちをすると、再びアリアに向かっていき、今度は顔の左側面を蹴り飛ばした。

防御が間に合わずまた地を転がるアリア。

それを見たバアルは再びアリアに話しかける。


「まだわからぬか。お前はこの中で一番弱いことを」


それでも尚、アリアは立ち上がり剣を構えた。

それを見たバアルは深いため息をつく。


「……もうよい。その意思に免じて、一瞬で終わらせてやる」

「……私は……まだ折れてない。私は……まだ倒れない!私が弱くても、あなたが強くても、みんなの想いを背負った私は……あなたに負けられないの!!」


その瞬間、アリアの手が赤く眩い光を放った。

そしてその光は彼女の持つ武器へ伝播する。


「?!これは!お父様と同じ!!」

「その力、まさか!!お前はあの国の――」


その言葉にアリアはハッとした。

そして納得すると剣先をまっすぐバアルへ向けた。


「……こんな家出娘に力をくれたこと、感謝します。――バアル!あなたを倒します!!」


次話『乙女の覚悟』

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