33話『一対一』
33話『一対一』
「はあぁぁぁあ!!」
『ガキン!』
カノンは力強く大斧を振り回して敵への一撃を狙うが、魔王軍幹部 バアルが薙刀で危なげなく受け止めると、派手に金属音を鳴らして火花を散らた。
バアルは受けた斧を押し出すように弾くと、続けざまにカノンの顔を狙って刃先を突き出した。
突きに対して顔を反らし、頬を掠めながらも深傷を逃れると、その勢いのまま地を蹴り上げ、斧の柄を軸に回転してバアルの横顔へ思いっきり蹴りを喰らわせた。
バアルは吹き飛ぶ身体を空中で立て直すと、しなやかな身体で勢いを殺し、片手でハンドスプリングをして華麗に着地した。
頬から垂れる血を拭うカノンと口から真っ赤な唾を吐き出すバアル。
二人の実力に差はない。
だがカノンは何千という魔物を相手した直後であり、スタミナもマナも余裕は全くなかった。
「……どうも人間という種族の認識が誤っていたようだ。……だが、辛そうではないか?息が荒いじゃないか」
「ふっ、ちょうどいいハンデさ」
「……では、これならどうだ?」
そう言うとバアルは左腕を優雅に開いて見せた。
その瞬間、背中から皮膜を持った黒い大きな翼がバサッと音を立てて広がる。
そして、風を起こしながら羽ばたくと、数センチほど身体を浮かせて見せた。
目を見開いて驚きの表情をみせるカノン。
「……さぁ、続けよう」
日が傾き初め、茜色に染まりながら不敵な笑みを見せるバアル。
ギリッと歯を食い縛り、カノンは再び斧を構えた。
『――ザッ!』
『バサッ!』
『ガキィン!!』
お互い一気に飛び出して再び武器を交える。
ぶつかり合いたびに響く金属音が戦闘の激しさを一層際立たせた。
「ウォーターカッター!」
「ダークカッター」
「ウォーターランス!!」
「ダークバレット」
魔法は魔法で相殺され、隙あらばと詰め寄り武器を振る。
しかし、空を飛べて体力も十分なバアルに、カノンは徐々に押されて行った。
そして、戦況が大きく変わる瞬間は唐突に訪れた。
『ガキン!』
「――くはっ!(しまった!)」
「やぁぁぁあ!」
『グサッ――』
「っがぁぁぁぁぁあ!!」
悲鳴をあげたのは……カノンだった。
空から突きの構えで突進してくるバアルを大斧で振り払った際、溜まった疲労がついに耐えきれなくなり、足を滑らせ膝を付いてしまった。
さらに、突然重心が変わったことでバランスが取れず、前方へ倒れ込む体制となってしまう。
その隙を見逃さなかったバアルは、振り払われ崩れた体制を無理やり起こし、カノンを狙ってナギナタを投げるように突き出した。
その攻撃は急所にこそ当たらなかったが、太腿へ深く突き刺さったのだった。
翼で難なくバランスを取り戻したバアルは、手放した武器の柄を持つと、カノンの足から一気に引き抜いた。
「くっ……あっ、ぐぁ」
「……ふぅ、これで終わりか?」
「はぁ、はぁ……ふっ、まだ……負けてやるわけには……いかないよ」
「……そうか。だがお前は負ける」
「だとしても!……まだアタシは戦える」
カノンは近くに倒れたゴブリンの腰布を剥ぎ取り、太腿を縛って止血すると、大斧を杖代わりに立ち上がり、息を荒らげながら武器を構えた。
「……ふん、大した根性だ」
そう呟いたバアルも再び武器を構えた。
一時の睨み合い。
そしてまた二人同時に大きく踏み込み、武器を交えたのだった――。
一方、少し時を遡り、アリアが目覚めた頃。
カナデとニーズヘッグの戦闘も激しさを増していた。
顔を狙えば一口で丸呑み、尾を狙えば重い鞭の餌食。
勝色の鱗は硬く刃が通らない。
それでも攻撃を続けてはいたが、やはり決定力にかけている。
ブラックベアーとの戦いでの疲労、身体超強化の代償もある。
白狼の加護のおかげでまだ動けるが、依然としてボロボロであることに変わりはなかった。
日が落ち始め、森の中も夕焼けに染まりだす。
真っ白だった蛇の腹部も、逆光で徐々に黒へと変わっていった。
「やあぁぁぁぉぁ!」
『カキーン』
「っ……」
(硬すぎる。ブラックベアー以上だ。刃が入る隙間もない……)
「キシャーーー!」
『ビュン!』
「?!――グフッ!」
弾かれた直後の一瞬の油断で蛇の尾が脇腹を直撃した。
数メートルを転がり止まるが、直剣も手の届かぬところへ飛ばされ、痛みから立ち上がることもできない。
なんとか目を開いて敵を見ると、立て続けに尾を打ち下ろそうとしていた。
瞬時に横へ転がり回避すると、なんとか身体を起こしてフラフラと立ち上がり、腰のナイフを構えた。
(傷はすぐに癒えるけど、その間は回避に徹しないとまずい……それまでに弱点の一つでも見つかれば……?)
その時、カナデはあることに気がついた。
たった一枚、鱗が浮いている場所がある。
何度も何度も攻撃を続けた結果、ようやく頑丈な鎧に綻びが生まれたのだった。
(あそこに刃を差し込めれば――!)
ナイフを握る手に力が入る。
カナデを喰らおうと地面と水平に滑ってくるニーズヘッグの頭をなんとか躱して一度距離をとった。
ナイフを前に突き出して牽制するカナデ。
対して舌をチョロチョロと出しながら睨みを効かせるニーズヘッグ。
長い睨み合いの末、身体の痛みが大方消えたカナデはゆっくりと攻撃する体制に入った。
その時――カナデは全身に白く暖かい光を纏った。
その光はまるで――『月光』。
次話『覚醒する力』
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