32話『それぞれの覚悟』
32話『それぞれの覚悟』
『ドゴン!!』
勝色の大蛇『ニーズヘッグ』は疲弊して動けないアリアを地面諸共喰らった。
「アリアーーー!!」
カノンの叫びが森に響く。
ニーズヘッグは口をパクパクとさせながら、喰らったものを飲み込んでいった。
カノンが絶望感に立ち尽くし、思わず涙を溢す。
「……よかった。間に合った」
その時、そう安堵の声を漏らしたのはカナデだった。
カノンも思わず安心から腰を抜かしてへたり込んだ。
その腕には気絶したアリアが抱えられていたのだ。
アリアが喰われる寸前、カナデは身体超強化を発動し、目にも止まらぬ速さで駆け寄りアリアを掬い上げて回避していた。
カナデはアリアをかかえ、立ち上れないカノンに近寄る。
「カノン、アリアにこれを。僕はニーズヘッグの相手をする」
そう言ってカナデは自身のアイテムポーチをそのまま渡した。
中には回復薬とは別に青色の細長い小瓶が一本ずつ入っていた。
「これ……マナ回復薬じゃないか。こんな高価なものいいのかい?」
「うん。アリアには申し訳ないけど、復帰してもらわないと……膨大な数の魔物にニーズヘッグ、そしてあの女を倒すことはできないから」
「……わかった。周りの小物はアリアを守りながらアタシとフーガでやる。気をつけなよ」
カノンの言葉にカナデは頷いて返した。
たが、身体超強化の代償は、徐々に身体を蝕んでいた。
予想よりコンスタントに使わされている。
次に使った時にはあと1分保つかどうか……。
だがら、次は確実に仕留められるタイミングで――。
カナデはニーズヘッグを睨みつけながら直剣を構えた。
――シュパッ、シュパッ、シュパッ
(――どこからか剣を振る音が聞こえる。お兄様の朝稽古かしら?……なんだか懐かしい。それと、盾がぶつかる音……これは……団長ね。それに……斧?)
「――うっ……」
短い夢を見たアリアは目を覚ますと、大岩にもたれていた。
前方ではフーガとカノンが魔物と戦っている。
(……そうだ、私はまだ戦ってる途中で……!?)
「カナデは?!」
「アリア、起きたね!カナデはニーズヘッグとタイマン中だ!死にかけた直後で申し訳ないけど、これ飲んで加勢して。マナは枯渇してたから先に回復してる!」
カノンはアリアへ回復薬を投げ渡した。
死にかけたという言葉に思わず身震いがする。
しかし、一人怯えている時間はない。
ゆっくり目を瞑り深呼吸したアリアは、立ち上がり小瓶の蓋を開けて一気に飲み干すと、慣れた手つきで虚空の倉庫を開き小瓶を投げ入れた。
「ごめん!ありがとう!」
「それは後でカナデに言いな。助けたのもマナ回復薬をくれたのもカナデだよ」
「……うん」
「グルグゥアァァ!!」
一頭の狼型の魔物がアリアの前へ飛びかかる。
アリアは剣を素早く三度振ると、狼はそのまま地面へ落ちて行った。
(あと百体ほど……強そうなのはいない。魔物はもう大丈夫だろう。問題は魔族の女とニーズヘッグ……でも先が見えて来た)
「勝てる……とでも思っている顔だな」
そこへ話しかけて来たのは例の魔族の女であった。
「本来の計画は潰されたが……お前達のような人間を放っておけば、次の作戦にも影響が出る。それに……部下達の無念、魔王国が幹部、三の席。このバアルが代わりに晴らさせてもらう!!」
バアルは空に手を挙げ異空間の口を開くと、中から赤紫色の刃を持つ槍のような武器を取り出した。
「!!あれは!」
近くで魔物の相手をしていたフーガがその武器に気付き、オークの攻撃を弾きながら二人に向かって叫んだ。
「あれは魔族に伝わるとされる武器、ナギナタだ!突きより薙ぎ払いに特化していて距離が詰めづらい。慎重にな!」
直後、フーガは魔物の攻撃に気付き、盾で受けて弾いた。
しかし、ずっと何千という魔物の攻撃を受け続けていたフーガの息は荒く、鎧もヒビが入っていたり欠けていたり、既にボロボロであった。
(くそ、あの女が吹いたあの笛の影響でヘイト系スキルが効かない。魔物の標的が散乱してしまっている。このままだと皆が集中して強敵を叩けない。それにマナもあまりか残っていない。なんとかあの笛を壊さないと)
フーガの苦しそうな表情を見たカノンは握る武器に一層力を込め、アリアに話しかけた。
「アリア、フーガと二人で魔物共を頼めるかい?時間を稼いでるうちにそっちを終わらせて合流してほしい」
カノンが一人で戦おうとしていることに反論したかった。
だが、自分とバアルの実力差は武器を交えなくても明白。
アリアはそれを『だめだ』とは言えなかった。
「くっ……わかった。気をつけて」
不甲斐なさに唇を噛み締めたアリアは、せめてもの想いでカノンにその言葉を送った。
「任せな」というカノンの返事を聞いて、アリアは魔物の群へ突っ込んだ。
(今、できることをやるんだ!私には守るべきものがある!)
「身体強化!やああぁぁぁ!」
カノンはアリアが飛び出したその瞬間、アリアの身体がほんの少し光ったように感じた。
だが、魔王軍の幹部を目の前にして、それを気にする余裕はなかった。
「……さて、それじゃあお相手願おうか、魔王軍幹部のバアルさん」
「その身体でどこまで抗えるか見ものだな。来い!人間!!」
カノンは大斧を大きく振りかぶりバアルの首を狙う。
バアルはそれを低姿勢になって躱し、カノンの足元を狙い払う。
カノンは空振りした斧先をそのまま地面へ落とし、その勢いで身体を浮かせて回避すると、身体を一回転させながら斧を持ち直して着地した。
両者は睨み合いながら笑顔を交わしたのだった。
アリア、フーガ対魔物の軍勢。
カノン対バアル。
カナデ対ニーズヘッグ。
それぞれの最終決戦が、遂に始まろうとしていた。
次話『一対一』
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