28話『大森林』

28話『大森林』


 クラヴィーア王国最大の森、通称『大森林』

そこで起こっている『いるはずの無い魔物複数種の発見』『十一名の失踪』そして『正体不明の大蛇の出現』

これらの調査を行うべく、カナデ達のパーティ『宝石獣の瞳』は森へ向けて歩みを進めていた。


「そういえはアリア、みんなに比べて荷物が少ないみたいだけど大丈夫?」

「あ、気づいた?実は最近いいスキルを習得したの」


そう言うと歩きながら、意味ありげに手のひらを前に出した。

首を傾げるカナデに「見てて」と言うと、アリアは手のひらを見つめ出した。

その瞬間、手の上に青白い光が現れ、ポーションの入った小瓶が産み落とされた。


「……まさか、異空間収納?!」

「ふふっ、正解よ。正確なスキル名は『虚空の倉庫』って言うの。自分の見つめる先に物を出し入れできる入り口が開くのよ。容量は自分のマナの量に依存するから、たくさん入れると使えるマナが減ることになるんだけどね」


ニコッと笑ってみせたアリアは再び小瓶を持った手のひらを見つめ、倉庫の入り口を開くと手首で上へ投げるようにして小瓶を収納した。


「いいなー」と羨ましいがるカナデに「意外と習得条件は大変なのよ」と言ってアリアは自慢げな顔を見せつけた。

(かわいい。条件はゆっくりできる時に聞いてみよう)


「カナデ、確かあの辺りだったよな?」


不意に前を歩くフーガから声をかけられ、指差す方向を見る。


「……うん、間違いないよ」


フーガが指す先は、以前大蛇の尾であろうものが飛び出していた大森林と平原の境目である。

出ていた一部だけでも近くにあった木々の高さと変わらないほどの長さがあった。

感覚としては約3mほど。

あれが本当に蛇だとすると、全容がいかに巨大であるかは想像に容易い。

さらに、大蛇であることを裏付ける決定的な証拠は、目指す先に未だに残されていた――。


「……なに……これ。」


目的地に到着した直後、森の奥へ続く地面を削ったかのような痕跡に、アリアは絶句の表情を見せた。

太い体を波打つように移動したと思われるその足跡は、正に蛇のそれである。


 その時、ふとあることに気がついたカナデは「あっ」と口から声を漏らした。


「カナデ、どうした?」

「初めてここを見た時からずっと感じてた違和感があったんだけど……やっとわかったんだよ」


カナデはそう言うと、足元のえぐれた地面の端を指差した。


「ここから始まってるんだ、この移動痕」


三人も指し示す先を見た。

アリアとカノンはその言葉の意味に気付けなかったが、カナデの伝えんとする意図を一番に読み取ったフーガは「なるほど」と呟き、考えるように自身の顎を触った。


「うん。移動するだけでこれだけ地面を変形させるのに、スタート地点はここなんだ。まるで突然ここに沸いたみたいに……ね」


アリアとカノンは驚いた顔を見せた。

そう、それが意味するのは……人為的に放たれた可能性が高いということである。

それも、初めてここで目撃したあの時に――。


少し間が空き、考え込んでいたフーガが口を開いた。


「あの日、近くに人影はなかった。それにこれだけの巨体だ。荷車なんかで運んでいたら、間違いなく付近にその跡が残っているはずだ。だがそれも無い。だとすると……」

「うん、魔法やスキル、魔道具の力を使って連れてきたんだと思う」

「あぁ、この辺にいないはずの魔物が出現し出したことにも関係していそうだな」


そうなると、大蛇以外にも強い魔物や悪意ある人間が森に潜んでいる可能性もある。

行方不明者達に関しても――最悪を想定しておく必要があるとカナデは覚悟した。


「一先ず進もう。今アタシ達にできることはそれだけだ。……カナデ、気負いすぎるんじゃないよ」


カナデの心情を悟ってか、カノンはそう言いながらカナデの肩に手を置いた。


「……うん」

(そうだ。今できること……やるべき事に集中しなければ。ここから先は、何が起こるかわからない危地なのだから)


カナデ達は周囲を警戒しながら、ゆっくりと森の中へ歩みを進めた。


 ――約二時間ほど歩いただろうか?

複数の魔物の目撃情報があったと聞いていたが、一向に魔物と遭遇しない。

外来の者どころか、本来いるはずのオークやフォレストヴァイパー、ゴブリンですら姿を現さないのだ。

不気味なほどに静かな森中(もりじゅう)は、四人の精神をじわじわと削り続けていた。


「……ねぇ、一度休憩しない?魔物避けはいくつか持ってきてるから」

「……。あぁ、そうしよう」


フーガの返事を聞いたアリアは、虚空の倉庫から紫色の液体が入ったアンプルを取り出し、その場で折って中身を地面へ全て溢した。


「それが魔物避け?」

「えぇ、20分は魔物がよって来なくなるわ。休みましょう」


アリアの言葉に安心したカナデはその場にどかっと座り込んだ。

他の三人も思い思いの場所へ腰を下ろし、水分補給などを始める。


(それにしても虚空の倉庫、便利だな。マナさえあればなんでも持ち歩けるのか。こういう疲れた時にキンキンなエナジードリンクとか、かわいいモフモフがあればなー。……あれ?モフモフ?)


ふと、カナデはあることを思いつき、アリアに声をかけた。


「ねぇアリア、虚空の倉庫って生き物も入るの?」

「えっ?……あぁなるほど、残念だけど生き物は魔物どころか植物ですら入らないわ。ただ、既に死んでしまっていたり、本体から切り離された体の一部とかであれば、収納可能よ」

「そっか。わかった、ありがとう」

「えぇ。また気になることがあったら言ってね」


カナデはこの騒動の主犯もこのスキルを利用して魔物を連れてきたのではないか?と仮説を立てたが、違うらしい。


(似たような魔物すら出し入れできるスキルがある可能性は捨てきれないが、今は考えるのはやめておこう)


休憩に戻ったカナデは、ゆっくりと呼吸をし一度目を瞑って仮眠に入った。

――だが、この一時の休息は唐突に中断されることとなった。


『ドドドドドドドド』


 突然、地面が小刻みに揺じめた。

そして、その揺れは徐々に大きくなってゆく。

(地震か?いや、違う。これは……!!)


4人は立ち上がり周りを警戒する。

そして、カノンが揺れの原因を察知して叫んだ。


「アリアのほうだ!やばい数くるぞ!」


全員がアリアが立つ先に視線を移した。

その先の木々の向こうに見えたのは……何百という数の魔物の大群であった。


次話「荒波」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る