27話『森の異変』
27話『森の異変』
「あの森で……冒険者十名、関係者一名が消息を絶った」
驚きのあまり全員が言葉を失った。
だが、マスターは気にする素振りもなく話を続ける。
「最初に行方不明となったのは、Bランク依頼で『オーク』の討伐に向かった上級冒険者二名。次に、最近Cランク依頼を積極的に受けていた、新人三名のパーティ『赤き昇龍』。そして、赤き昇竜の魔法師、アニマの家族から出された捜索依頼を受けた冒険者五名、同行していたアニマの兄が一昨日から戻っていない。アニマの兄は国の騎士だそうだ。決して弱い一般人ではない」
十一人が謎の失踪、それも、一般人ではなく強者ばかり……。
森でただならぬ異変が起きていると想像するのは容易かった。
そんな危険度が未知数の場所に向かうことになる。
カナデは心の中で、最初の決断が揺れ動いたのを感じた。
「状況は理解しました。ですが、それならば超級冒険者を向かわせるべきではありませんか?」
アリアの問いはごもっともだ。
上級冒険者二人組が既に被害に遭っているのだ。
宝石獣の瞳は上級冒険者三人、それにカナデの四人編成。
もしもの時に対応できるか不安がある。
しかし、マスターは首を振って否定した。
「いや、お前たちならやれる。カナデが入ってからの依頼履歴や報告を聞いた限り、個々はともかく、パーティとしての力量は超級冒険者にも劣らない」
マスターはアリアにそう返した。
だが、アリアはマスターに向かって『それでは納得しない』というかのように睨みつけた。
マスターはまたため息をつくと、全員に向けて話を続けた。
「最近受けた『ワイバーン』の討伐依頼があっただろ?Bランク依頼で受けてもらったものだ。あの依頼で想定されていたワイバーンの数は三頭だった。だからギルド側はBに設定したんだ。だが、実際は……カノン、どうだった?」
「……三頭どころか、十五頭は相手した。さすがにジリ貧だったよ」
そう、数日前にワイバーンが家畜を襲うから倒してくれという依頼を受けた時、依頼主からも三頭くらいと聞いていたが、実際に巣へ向かうと近くに複数の巣が確認され、仲間意識の高いワイバーンの集団に襲われるアクシデントがあった。
なんとか討伐には成功したが、その日は皆ボロボロになって帰還したのだった。
「あぁ、こちらの配慮不足だ。すまなかった。だが、本来Aランクであるワイバーンの群れの討伐を、準備も不十分な中で重傷者を出さずに完了できた。正しい情報を基にした依頼だったのなら、お前らは難なく完遂しただろう」
「つまり、討伐を目的としないこの依頼なら、僕らでも可能だろう……ということですね」
「あぁ。頼めるだろうか?」
カナデはカノンを見た。
まだ怖い顔をしているが、納得はしているようだ。
そこに、フーガがある提案を持ちかけた。
「マスター、依頼を引き受けるのに条件を出したい。この依頼が無事に成功したら、カナデを上級冒険者に認めてほしい。」
(えっ?)
まさか自分の昇進を約束させようとするとは思わなかったカナデは、思わずフーガを見つめてしまった。
マスターは「ほぅ」と顎を触りながらニヤリと笑う。
フーガの隣で機嫌を直した様子のカノンもニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
「日は浅いが、これまでの実績としては申し分ないはずだ」
「……いいだろう。その件はこっちでも検討していたところだ。約束しよう」
「そーこなくっちゃ。それなら、アタシもこの依頼に文句はないよ」
「私もかまいません」
「うん、僕も大丈夫……というか、ありがたいよ」
全員の決意が決まった。
それを確認したフーガが、代表してマスターに宣言した。
「この依頼、『宝石獣(かーばんくる)の瞳(ひとみ)』が引き受けます」
――大森林の中心部、木々の枝葉が屋根状に広がり、光をほとんど閉ざした暗闇の空間があった。
そこで、暴挙を企てる不穏な一味が、着々と準備を進めていた。
「申し訳ございません。魔物の準備が遅れており、現在推定1500匹しか集まっておりません」
「……そうか。いや、ご苦労だった。引き続き頼む」
「はっ、バアル様の仰せのままに」
「それに、既に『ヤツ』を連れてきている。野放しにしてるが故、人間数匹を胃袋に入れたようだが……」
「はっ、偵察に来たと思われる人間も誰一人返しておりません」
「……そろそろ、強者が現れそうだな。皆へ準備を急ぐよう伝えよ。なんとしても人間の国を崩し、我ら魔王軍の進軍開始の追い風とするのだ」
「はっ!」
バアルの指示に部下は勇ましく返事をして離れていった。
凛とした顔で鬱蒼とした森の奥を見つめるバアル。
彼女は、これから起こる人間との戦いを予見し、勝つ手立てを考えていた。
――依頼を受領した次の日、カナデ達は森へ潜る準備を整えて、ギルド本部前に集合した。
これから皆で西門から出て、大森林を目指すことになる。
一旦の目的地は、以前に大蛇の姿を目撃した森と草原の境目だ。
「すまない、待たせたかい?」
最後にカノンが到着した。
フーガが「大丈夫」という旨を伝えて、いつもより大きめのアイテムバッグを肩にかけた。
「よし。じゃあ、行くか」
「うん」
「あぁ」
「わかった」
フーガの呼びかけに思い思いの返事をする。
そして未知の異変を解明すべく、彼らは一歩ずつ歩きはじめた――。
この時のカナデはまだ知らなかった。
自分や仲間のみならず、国の命運を左右する大きな事件にこれから巻き込まれていくことを。
次話『大森林』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます