26話『居場所』
26話『居場所』
フーガ、カノン、アリアの冒険者パーティ「宝石獣(かーばんくる)の瞳(ひとみ)」に新たなメンバーになることが決まったカナデは、その日の内にギルドへの申請を済ませ、無事に受理され、晴れて正真正銘パーティの一員となった。
その日の夜、カナデ、フーガ、カノン、アリアと、ばったり出会ったフィーネとギルドマスターの六人は、酒場『蜜蜂の巣』を貸切り、歓迎会を開いていた。
貸切りになった理由は、ギロさんの気づかいからだ。
カナデは、昨日の今日で押しかけてしまい申し訳ない気持ちだったが「これから依頼で世話になるから気にすんな」と言ってくれた。
特別に人数分作ってもらった『若ヒートシープのステーキ』を食べた皆の顔を見て、ギロとカナデはハイタッチで喜んだ。
マスターは蜂蜜酒を気に入ったようで、ずっと飲んでいる。
フィーネ、アリア、カノンは真剣な表情でサラダ野菜を見ながら考察をしていた。
やはり性格は違えど興味の向く先は同じなんだな、と少し面白く思った。
食事もそこそこに会話を楽しんでいた中、マスターが不意に皆に声をかけた。
「さて、『宝玉獣(かーばんくる)の瞳』の諸君、カナデが君たちの仲間になったということなら、話しておくことがある。店主、店員の方には少し席を外してもらった。これは極秘事項と認識して聞いてくれ」
三人がマスターに向かって頷いた。
フィーネとカナデは、何の話かは既に理解している。
だからあえて返事はせず、皆の反応を伺った。
――マスターの口から、大聖堂での出来事が語られた。
白狼が月呼びの森に現れた理由、白狼の加護に続き、新たに武神の加護を授かったこと……。
アリアは驚きのあまり空いた口が塞がらず、フーガは何か納得したような表情、カノンはなぜかドヤ顔で話を聞いていた。
「――ということで、暫くこの件は他言しないように気をつけてくれ。面倒なことになりそうだったら、すぐに報告してほしい。頼んだぞ」
……長い沈黙。
誰も言葉を発さず、それぞれが情報を頭の中で整理しているようだった。
そして、その沈黙を一番に破ったのは……フーガだった。
「……正直、驚いた。だがそれで理解できたこともある。スライム狩りで見せたナイフさばき、最初はそれなりくらいなものだったが、手数をこなすごとにみるみるコツを掴んで行った。最後なんてまるで俺らと同等かそれ以上のレベルだった」
「あぁ、それに、ジャイアントトードの脚を潰す時、ナイフで入れた切れ込みに狂いなく重い剣を入れてた。昨日今日で剣を習った素人が簡単にできることじゃないと思ってたけど、そういうことかい」
フーガに続きそう話すカノンに、アリアが同意するよう頷いた。
「……隠しててごめん」
カナデは絞り出すような声で謝罪した。
隠し事をしたまま仲間に加わったことを悔いたのだ。
異世界から来たことや相剋属性である理由……まだ話せないことが多い現状にも後ろめたい気持ちだった。
「いいんじゃない?私たちがカナデを守ってあげれば」
カナデの心情を察してか、アリアが一言そう言った。
皆がアリアに注目してその目を見た。
アリアはカナデに向かってウィンクをして見せた。
『大丈夫よ』と言ってもらえたような気がする。
「だな、カナデがどんな力を持っていても、チームに入ってもらった決断はゆるがないさ」
「なんだいその顔は?アタシらがびびって『やっぱなし』と言うとでも思ったかい?むしろ、それだけ強い力があるやつが来てくれたんだ。感謝しかないよ」
フーガ、カノンの言葉に思わず涙がこぼれた。
それを見たフィーネはハンカチを取り出して近寄るとそっと肩に手を置いた。
それがまた嬉しくて、カナデは溢れる思いを止めることができなくなった。
カナデはこの日、この世界に来て初めて、苦しかった想いを吐き出した。
今まで感じていた孤独、力がある故に狙われる恐怖、一人で生きていかなければいけない不安、そして、やっと居場所を見つけたことがどれほど嬉しかったか、嗚咽混じりの涙声で全てを話し、最後は泣き疲れて眠ってしまった――。
「……こんなに抱え込んでたんだねぇ。すごいやつだよ」
カノンがポツリと呟くと、カナデに寄り添っていたフィーネが答えた。
「えぇ、孤独ほど怖いものはないわ。私もカノンがいなければ、村で孤立していただろうし、カナデさんの気持ちは痛いほどわかる……」
「……そうかい」
フィーネの言葉をカノンは深掘りはしなかった。
エルフも獣人と同じ亜人。ハーフエルフであるフィーネの存在が村でどのようなものだったかをカノンは知っているからだ。
「俺たちが……カナデの居場所なんだ。絶対守らないとな」
「……うん」
カナデの寝顔を見つめる四人は、彼の幸せな未来を心から願った。
そして、店の外で蜂蜜酒を飲みながら、かけた月を見上げるマスターもカナデという少年の想いに触れ、久しぶりに心を動かされていた。
――そんな皆にとって忘れがたい夜から数日経ったある日の昼頃、カナデ達『宝石獣の瞳』はギルドマスターに招集をかけられ、ギルド本部の執務室に赴いた。
「集まってもらってすまない」
「俺らを呼ぶなんて珍しいじゃないですか」
「あぁ、普段なら超級の奴らに依頼するんだが、今回に限ってはお前らのほうが都合がよくてな」
「……ということは、指名依頼ですね?」
アリアの質問にマスターは静かに頷いた。
そして、徐(おもむろ)に机の上の書類を一枚手に取ると、それをフーガに手渡した。
「……大森林の調査……ですか」
(大森林……)
フーガの言葉でスライム狩りをしたあの日の大蛇らしき姿が頭をよぎった。
最近、生息していないはずの魔物に関する報告が続いていると聞いていた。
あの蛇や先日のジャイアントトードもその内の一つだ。
「これはギルドからの依頼だ。以前、フーガとカナデからも大型の魔物の報告を受けている。今回はその大型の魔物の特定、並びにその他に森に住み着いた魔物の調査、そして可能であれば、原因の特定をお願いしたい」
「つまり、一度あの魔物を目撃した僕とフーガに発見と種の特定をして欲しいということですね」
「そういうことだ」
カナデはフーガと目を合わせ、問題ないという意思を込めて頷いた。
フーガもそれに応えるように頷く。
続けてアリア、カノンにも同じように確認すると、カノンだけは首を縦には振らず、何やら考え事をしていた。
「カノン、どうしたの?」
隣のアリアが声をかけた。
カノンは「うーん」と唸るような声を出し、マスターへ問いかけた。
「一つ聞きたいんだけどさ、アタシら『上級冒険者』に依頼する理由は、カナデとフーガの件だけかい?」
カノンの問いで、執務室が水を打ったように静まり返った。
カナデには、その質問の意図は理解できなかったが、アリアはハッとしてマスターに目を向けた。
少しの静寂の後、マスターは小さなため息をすると『話すつもりはなかったが……』と前置きして話始めた。
「あの森で……冒険者十名、騎士一名が消息を絶った」
次話『森の異変』
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