21話『偶然』

21話『偶然』


 フーガがスライムに狙われ続ける中、必死にナイフで攻撃を続ける。

 数をこなす中で分かったが、コアの強度にも個体差があるようだ。

フーガの盾にぶつかっただけでひび割れてしまう物もあれば、コアにまで刃が到達してスライムから飛び出した時や、そのまま地面に落ちたような衝撃でも無傷な物もある。

おそらく、強度によって値段も変わるのだろう。


とはいえ、どんなに崩れやすいものでも、全く使えないことはないはずだ。

命を狩っている以上無駄にはしたくない。

そう考えたカナデはできる限りコアを傷つけないよう、に注意して斬り続けた。


  ――約15分後、最後の一体を無事に倒した。


「ふーっ、疲れた〜」

「おつかれさん。体力はしっかり鍛えられたみたいだな」

「僕がナイフしか持ってないの知ってて連れて来ただろ」

「さぁな、まぁ結果的に一番見たかった姿を見れた」

「僕がバテてるところ?」

「ちげーよ。観察力と適応力だ。コアの性質に気づいて、剣筋を変えたろ?今回は品質の指定がないからな、多ければそれだけ儲かる。それに、途中からコアをスライムのボディから出さない工夫が見えた。戦いながら成長する姿には驚ろかされたさ。」


フーガはそう言いながら盾を地面に寝かせると、コアを集めて袋へ詰め始めた。

カナデは照れて赤くなった顔を顔を隠すように、フーガを真似して地面へしゃがみ、コアを丁寧に袋へ入れていく。


「僕の実力を測った理由は何か聞いてもいい?」

「……まぁ、先輩面してみたかっただけだな」

「はぁ?せっかく褒められて嬉しかったのに、なんだよー!」

「へっ、悪い悪い。お詫びにこの依頼の報酬は全部やるよ」

「えっ?いいの?」

「あぁ、金には困ってないからな。気にするな」

「ありがとう!先輩!」

「調子がいいなー」


 そんな会話をしながらコア集め終わると、恐らく200はくだらない量になっていた。

50個は納品するとして、残りをどうすればいいかをフーガに聞いたところ、再依頼があるまで取っておいてもいいし、ギルドや別の店に売ってもいいらしい。

品質のいいものは、オーダーメイドの素材とすることもあるらしい。


「オーダーメイドを作るなら、用途に合ったサイズのものがいいぞ。サイズでの値段の変化はそうそうないからな」

「たとえば、常に携帯するような物を作るなら小さいコア、設置しておくなら大きい物ってこと?」

「だな、大きいと貯めれるマナの量も多いが、邪魔になるからな」

「なるほど」


悩んだ結果、小さいがかなり頑丈な一つを取っておき、残りはギルドへ売ることにした。

小さいものを選んだ理由は、冒険者は移動が多く、携帯品のほうが需要があると考えたからだ。


「さて、そろそろ帰るか」

「うん。……ん?ねぇフーガ、あれは……何?」

「ん?」


ふと、遠くに見える森の切れ目から黒光りする細長いものが飛び出しているのが見えた。

くにゃくにゃと動いている……魔物だろうか?


「あんなの初めて見たな」

「フーガでも見たことないんだ……あっ、引っ込んだ」

「……一応見てくるか」

「うん」


 2人は『それ』がいた場所へ向かった。

そして木々と並んだ時に『それ』がいかに巨大だったかが分かった。


「あれが身体の一部だとすると相当でかいな」

「うん、木の背丈と長さが変わらなかったよね」

「あぁ、この辺で大型の魔物なんて聞いたことないんだが……」

「……!? ねぇ、これ……」


先程見えていた場所に到着した2人は、そこを見て絶句した。

約1m幅で草木が踏み倒され、地面を削ったかのように浅く陥没した移動痕がグニャグニャとした軌道で森の奥まで続いていたのだ。


「こいつは……ヴァイパー種……か?デカすぎるだろ……」

「ヴァイパー種?」

「あぁ、ベビ型の魔物だ。この辺だと『フォレストヴァイパー』って奴が生息している。だが、こんなでかいやつは記憶にない。大森林の奥に潜んでいたのか、どこからか紛れ込んだのか……」

(……確か日本にいる大きめのヘビだと胴回り5cm、長さは1m〜2mくらいだったはずだ。……約20倍。20m〜40mのヘビってことじゃないか)

「……どちらにしても、こんな奴が森の外に出て来てるとしたらかなり危険だ。まずはギルドに判断を仰ごう」

「うん……」


 カナデはこの時、その光景を見て何かが引っかかった。

倒れた草木……違う、胴が太すぎる?……違う。

気のせいだろうか?


「カナデ、急ぐぞ」

「……わかった」


その答えは結局わからないまま、2人はギルド本部へ報告に向かった。


 ――約1時間後、ギルドの受付嬢へ見たものを詳細に報告した。

受付嬢から聞いた話だと、あの森『大森林』では、以前までいないはずだった魔物の報告が相次いでいるらしい。

が、大型の魔物の報告は初めてらしく、マスターへ情報が伝わり次第、調査隊が組まれる可能性が高いそうだ。


 その後カナデは、スライムコアを納品し、小さく頑丈な1つ以外を全て売却した。

依頼報酬が35000リア、売却額は低品質74個が300リア、通常品質53個が500リア、上品質11個が800リア、特品質2個が1000リア。

合計で94500リアと、かなりの額が稼げた。

受付嬢曰く、最近使い捨て魔道具の需要が高まった為、コアの相場が上がっているらしい。

フーガ様々だ。


 今日は本当に運がいい。

偶然フーガとカノンに再会し、フーガと依頼を受けることができた。

結果として依頼と+αで多めの収入があったし、たまたまだが、森の危険もいち早く検知できた。

そっちはまだ不安が残るわけだが――。


「カナデ、これからどうする?」


ギルドを出たカナデに、フーガが問いかけた。


「ひとまず晩御飯を食べに行こうかな。お気に入りの店があるんだ」

「おっ!じゃあ一緒にいいか?俺も腹減ってさ」

「うん、稼がせてもらったお礼に奢るよ」

「お!ありがとよ」

「こちらこそ、じゃあ行こうか」


 ――15分ほど歩き、カナデがすっかり常連になった店『蜜蜂の巣』にやってきた。

店内奥の席に案内されて向かうと、見知った人が蜂蜜酒をグビグビと飲んでいた。


「あれ?ホルンさん?」

「んー?あっ!カナデ〜!奇遇〜!」


どうやら今日は本当に、偶然が重なる日のようだ。


次話『蜜蜂の巣』

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