20話『スライム』
20話『スライム』
フーガ、カノンと再会したカナデは、一度寮で着替えを済ませ、ギルド本部に来ていた。
カノンは既に王都の住まいに帰ったらしい。
フーガは「カナデの今の実力を知りたい」と言っており、クエストの受注から付き合ってくれている。
「カナデはまだ戦いの指南は受けてないんだよな?」
「うん。少しなら自己流で戦えるけど、まだまだ素人だよ」
「んー、だったら……これなんかどうだ?」
――――――――――――――
スライムコアの納品依頼
ランクC
報酬 コア1個につき700リア(最大50個まで)
―達成条件―
スライムコアの納品
―失敗条件―
なし
―納品期限―
受注から3日
依頼者 魔道具商店 ピアノ
――――――――――――――
「これって、スライム討伐ってこと?」
「やることとしてはそうだな。スライムコアはマナを溜め込む性質があるんだ。だから魔道具の材料としては必須の品ってわけだ」
なるほど、よくゲームに出てくるスライムといえば、チュートリアルモンスターの代表格でとても弱く、マスコットキャラクターのような印象が強いが、この世界のスライムはかなり重要な存在のようだ。
「スライムってすごく弱いイメージだけど、合ってる?」
「それは半分正解だ。確かに、スライムは物理攻撃にはほとんど耐性がない。足で踏んでも倒せるくらいにな」
「そんなに弱かったら脅威はないと思うけど……半分ってことは強い部分もあるんだよね?ランクもCだし」
「ああ、スライムコアがマナを溜め込むってことは、スライム自身がコアでマナを吸収できるってことだ。その溜め込んだマナはどうすると思う?」
「まさか……攻撃に使うの?」
「そのまさかだ。スライムは吸収したマナの属性に合わせた魔法を打ってくる。溜め込んだ量によっては、災害レベルの攻撃になる個体も報告されてるんだ」
「災害レベル……」
カナデは口から炎を噴き、森を焼き尽くすスライムを想像した。
なんだろう、すごく怖いはずなのになぜか可愛さを感じる……。
「つまり、スライムには無闇にスキルや魔法は使えない。だが、その知識さえ知っていれば子供でも倒せる。この依頼……どうだ?」
「依頼としては全然いいけど、これで僕の実力を見るって……どうやって?」
「それは、狩場についてからのお楽しみだ」
フーガはそう言うと悪い顔でニヤついた。
何かとんでもないことを考えてそうだ……。
結局、カナデはフーガと連名でこの依頼を受けた。
フーガは「準備があるから、先に西門で待っててくれ」と言い残し、ギルド本部から出て行った。
カナデは念の為に回復薬などの薬を買い足し、王都の西門へ向かった。
――しばらくして、王都西門。
カナデは門の手前で、以前マスターから貰った装備を身につけて、フーガを待ちながら道行く人たちを眺めていた。
この国にはたくさんの人々が暮らしている。
その中には、猫や狐、犬の獣人、ドワーフやエルフといった亜人種族の人も見かけた。
先代の国王が種族の壁を取り除いたということを、自身も獣人であるホルンから聞いていた。
今もまだ風当たりは強いが、親の世代に比べると大分マシになったそうだ。
そんな中で『砂漠の天使』なんて呼ばれるようになったホルンも、きっとこの時代の立役者なのだろう。
楽しそうに会話しながら歩く人間と亜人。
この光景が当たり前になることをカナデは心の中で願った。
「――そういえば最近この辺にいたタイタン、全然話聞かなくなったな」
「なぁ、離れてってくれたんならいいけどなー」
通行人が話すその会話がふと耳に入った。
結局、カナデは食痕にしか出会わなかったが、王都に来てからしばらくはギルド内でも巨人の話はあがっていた。
(気にしていなかったが、帰ったらフィーネかマスターにでも聞いてみようかな?あ、最近まで外にいたフーガは、何かしってるかもしれないな)
「よっ!おまたせ」
タイミングよく、フーガが到着した。
先程は着ていなかったが、今は初日と同じ黒い鎧を身につけている。
背中には巨大な盾を背負っていた。
「ねぇフーガ、最近巨人……タイタンの噂とか聞いた?」
「タイタン?確かに1週間くらい前に山小屋が踏まれた話は聞いたが……ここ最近は新しい情報はないな」
「そっか、じゃあやっぱり離れて行ったのかな?」
「かもな。まぁギルドも警戒してたし、何かあれば冒険者にはすぐ知らせがくるだろうよ」
「……そうだね。じゃあ行こっか。場所の案内よろしく」
「おう、まかせろ」
そう言うと、フーガは鎧を鳴らしながら歩き始めた。
カナデもフーガに続き西門をくぐった――。
程なくして、2人は広大な草原の真ん中で立ち止まった。
「ここが今日の狩場?」
「ああ、ちょっと見てな」
そう言うと、フーガは地面に手をつき、声を張り上げた。
「サンダースプレッド!」
(えっ?!魔法使っちゃうの?!)
魔法を唱えると、地面を控えめな紫電が波紋のように広がる。
次の瞬間、地面があちこちでモコモコと盛り上がり、澄んだ青色のゼリーが一斉に飛び出した。
「威力控えめ!けっこう居たな。」
「……あれがスライム。何したの?」
「スライムはマナを食うからな、少なめのマナをあえて感知させてひっぱり出したんだ」
「……なるほど。経験が成せる技ってことね」
「そういうこと。さぁ、カナデ、ナイフを構えろ!始めるぜ!」
「えっ?」
フーガは大盾を構えると、再び大声を上げた。
「ヘイトアセンブル!!」
その瞬間、スライム達はぷるりと震え、一斉にフーガに向かって来た。
ジャンプで少しずつしか移動できない為、スライムが集まる姿は可愛らしいが、到着した者から盾へ体当たりを始めたことから、敵対していることは理解できた。
「ほら、カナデ、早く倒さないと捌けなくなるぜ」
「……あぁ、そう言うことか」
この数をいっぺんに相手するのは確かに骨が折れる。
それにこっちはナイフだ。
つまり、技術じゃなくてスタミナ勝負ということだ。
フーガにしてやられた。
カナデはそう思いながら、スライムを斬り続けた。
次話『偶然』
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