19話「再会」
19話「再会」
毎日の筋トレにも慣れ、今日も王都外周を回り終えたカナデは王都の入り口に来ていた。
毎日くるものだから警備兵も顔パスで「お疲れ様」とまで言ってくれ、並ばずに通してくれている。
「今日もいい汗かいたなー!」
タオルとも言えない布切れで汗を拭いていると、王都に並ぶ列の半ばあたりから、懐かしい声に呼び止められた。
「おーい!カナデー!」
「あっ!フーガ!それにカノンも!こっちに来たんだ!」
「久しぶりだね。随分たくましくなったじゃないか」
「マスターのおかげだよ」
「これは俺も負けてられないな」
「まだ剣は握れないけどね」
カナデはそう言いながら、冗談交じりに笑った。
フーガとカノンも面白そうに笑い返す。
「あ、カナデ、並ぶなら一緒にどうだ?あと十分くらいで通れるぞ」
「いや、僕は並ばずに入れるから。中で待ってるよ」
「そうか。わかった。ありがとう、少し待っててくれ」
フーガとカノンに一度手を振り離れ、カナデは一足先に王都に戻って行った。
――しばらくして、荷車を引いたフーガとカノンが王都に入ってきた。
やけに大荷物だが、依頼の途中だろうか?
「やっとついたー!もうクタクタだよ。シャワー浴びたいわ」
「同じく」
カノンは地べたに胡座(あぐら)をかいて座り、手を団扇(うちわ)のように使い顔を煽いだ。
フーガも腰を捻ったり背筋を伸ばしたりとストレッチをしている。
「長旅おつかれ。今日はこのまま帰るの?」
「いや、そうもいかねぇんだ。まずは本部に戻って依頼の報告と換金をしないとな」
「換金?」
「狩った魔物を売るのさ。見るかい?」
カナデが頷くと、カノンは荷車に乗った一際大きな荷物を解き出した。
何重もの布や麻をめくっていく。
そして、最後の一枚を退かすと、中には息絶えた巨大な蠍(さそり)が5匹、きれいに積まれていた。
「こいつは『パラライズスコーピオン』。図体は小さいが、草陰に隠れて獲物を狙い、尾についた毒針で身体を痺れさせる。馬が狙われてが商人なんかが危険に晒されることが度々あってな。そいつの討伐依頼の成果ってわけだ」
これで小さいって……。
と内心思いはしたが、口に出すのはなんとか堪えた。
フーガの話を聞く限り、魔物は売れるようだ。
「魔物はどこで売れるの?」
「さっきカノンが言ってただろ?ギルド本部だ。ギルドが買い取って、解体職人が素材や部位毎に解体、それを各商会に売ってるんだ」
「解体職人……モデラさんの解体って魔物のことだったんだ。」
初めて話した時のことを思い出しながらそう呟くと、カノンがハッとした顔でカナデに問いかけた。
「モデラに会ったのかい?」
「会ったというか、家の掃除を……」
「あぁ、依頼出すって言ってたっけ?カナデが受けたのか。あのゴミの山は大変だったろ」
「……うん、まぁ」
カナデはそれ以上は思い出すことを控えた。
それでもあの鼻を刺す匂いがした気がして少し立ち眩みがした。
「綺麗な見た目してるのに、それだけが残念なやつだよ。モデラとは仲がいいからさ、よく酒場に付き合ってくれるんだ」
確かにカノンとモデラ、どこか似ている気がする。
きっと気が合うのだろう。
だが、たとえ美人でもあの惨状を見た後では、残念なやつという部分を否定することは出来なかった。
カノンと話をしていると、フーガは「あっ」と何かを思い出して口を開いた。
「そういえば、アリアはまだ帰ってないのか?」
「あ、うん、いつもの依頼ってやつで」
「今回は長くかかるみたいだな。了解、ありがとう」
フーガはそう言って少し考え事をした。
アリア、フーガ、カノンは冒険者パーティを組んで、3人で活動している。
おそらく、次に3人で依頼を受ける日を検討しているのだろう。
フーガはパーティのリーダー的な役割なのだろうか?
案外、面倒見がいいのかもしれない。
「さて、フーガ、そろそろ行くよ。カナデはこれからどうするんだい?」
「僕もギルド本部へ行くよ。今日の訓練は終わったから、依頼を受けようと思ってるんだ」
「よし、じゃあ一緒に行くか。カナデ、荷車引くの手伝ってくれ」
「わかった」
3人はギルドまで続く道をゆっくり歩きながら、話したかった今日までの出来事を思う存分語り合った。
――とある地の薄暗い場所、不気味な青い炎が照らす部屋の中で、人々の知らぬ間に不穏な計画が進んでいた。
「……駒は集まったか?」
「はい。既に1000は捕らえております」
「そうか、ご苦労。だがこの作戦にはまだ足りない。あと2000は準備しておけ」
「はっ。仰せのままに」
「よし、下がってよい」
「はっ。失礼いたします」
『ギィー、ガチャン……』
扉が音を立てて閉まると、残った人物は蝋燭の火に顔を近づける。
その人物にはまるで羊のような角が生えていた。
紫色の肌に冷ややかな目は見たものを凍らせるようだ。
そして、その瞳に反射して揺れる光は、彼女の野心を映し出したように美しく輝いた。
『トントン』
直後、再び部屋を誰かが訪れた。
「バアル様、食事の準備ができております」
「わかった。向かおう」
訪問者へそう答えた彼女は再び火を見つめる。
魔王国 幹部 三の席『堕愛のバアル』
魔王から愛されたいがため、仲間から愛されたいがために、バアルは努力し強くなった。
彼女は、愛に飢えていたのだ――。
数秒見つめた後、バアルは小さく息を吹きかけて火を消した。
蝋燭の残り香が漂う中、彼女は呟いた。
「……全ては魔王様の為に――」
次話『スライム』
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