18話『ステップアップ』

18話『ステップアップ』


 ――次の日、カナデはフィーネに連れられ、ギルド本部の執務室、ギルドマスターのもとを訪れた。


「なるほど、経緯はわかった。カナデ、フィーネを助けてくれて感謝する。襲った内の1人は伸(の)されているところを見つかり、巡回中だった騎士団員に保護されていると聞いた。騎士団へ連絡して、そのまま捕らえてもらおう。もう1人も直(じき)に捕まるだろう」

「はい。よろしくお願いします」

「あぁ。それでカナデ、フィーネの話では身体強化を身につけたそうだな。それにパイプも器用に扱っていたと。剣技はまだ教えていないはずだが、自主練でもしてたのか?」


カナデはマスターの言葉にどう返すか迷った。

『武神の加護』についてどう伝えるか。


「……私はこれまでに沢山の冒険者を見て来て、戦える人、そうでない人は武装なしでもそれなりに見分けられるようになりました。そして……身体強化をする前のカナデさんは後者でした。身体強化は練習されていたと知っていますが、剣技は初心者同然だったはずです。何か、別の理由があるのでは?」


……フィーネの言葉で隠すという手段は潰えた。

が、2人になら隠すことではないだろう。

これからも冒険者として働く上で、彼らの理解は必要不可欠だ。

カナデは正直に、大聖堂での出来事を2人に話した。


「――というわけで、僕は今、武神の加護を受けています。あの時は母国で何度か見た剣技を思い出しパイプを振りました。おそらく、加護が影響して少しまともに扱えたのかと思います」


話を聞いたフィーネは開いた口が塞がらず、マスターは深くため息をついた。


「……はぁ、少し予想はしていたが大外れ……というか予想外だ。白狼に武神までカナデに味方したか。全く、お前には驚かされてばかりだな。……さて、どうしたものか……」


腕を組んで目を瞑り、眉間に皺を寄せる。


「神の加護を受けた人は我が国にも1人だけいるのを知ってはいますが……彼女は特別な存在です。公になると国から迎えが来てしまうでしょうね」 


フィーネの言葉を聞き、再び小さくため息をついたマスターは続けて口を開いた。


「あぁ……そうだろうな。また緘口令事項だ。……2人とも、絶対誰にも話すなよ。アリアやカノン、フーガにもだ」


マスターにここまで念押しされると、何がなんでも話すわけにはいかない、とカナデは感じた。

同時に、神の加護とはそれほどのものなのだろうか? 1人はいるのであれば、意外とばらまいているのでは? と疑問にも思った。


「わかりました。えっと、ちなみにもう1人の神の加護を受けた人ってどなたですか?」

「治癒神の加護を受けた、大神殿の聖女様です」

「えっ?!治癒神?!聖女様?!」


思わぬ人物に度肝を抜かれた。

聖女レベルの加護を自分が授かったとは夢にも思わなかったのだ。

実感を得ぬまま固まっていると、マスターは今日一番のため息をついた。


「わかったか?秘匿の塊。神の加護ってのはそれだけ特別なんだ。『神に選ばれた使徒様』なんて噂が出回れば、収拾がつかなくなる。」


カナデは首を大きく縦に振った。

せっかくの自由な世界で宗教の礎にされるのはごめんだ。


「……まぁ、戦闘経験を積めばいずれは英雄にだってなれるだろう。ギルドとしても、強くなってくれればかなり助かる。高ランクの依頼もないわけではないからな。……だが、今は頼むから静かしておいてくれ。多少戦えても、お前はまだ弱い。今、国や貴族どもにバレたらギルドでもフォローしきれん」


いや、英雄になんてなるつもりは毛頭ない。

僕はこれからも穏やかに暮らしたいんだ。

それに、よく思わない連中に攫われたら間違いなく殺される。


「はい。充分理解しました。絶対誰にも話しません」

「うん、いい返事だ」


そう言うとマスターは椅子から立ち上がり、腕や肩の筋を少し伸ばしてカナデの方へ向き直した。


「それじゃあカナデ、今日は依頼まだ受けてないだろう。訓練場へ行こう。次に進むぞ」

「はい。」

「私はまだ仕事がありますので、失礼します。カナデさん、今度正式にお礼をさせてくださいね」


そう言うと、フィーネはまた愛想のいい笑顔を見せ、部屋を後にした。


「アリアにホルンにフィーネにモデラ、モテる男は辛いねぇ」

「勘弁してくださいよ。みんなそんなんじゃないですから」

「へっ、どーだかな。さぁ、いくぞ」


ニヤニヤと笑うマスターに続き、カナデは訓練場へ向かった――。


「では、次の段階へ進む前に、まず身体強化を使ってみてくれ」

「はい」


カナデは昨日の感覚を思い出し、目を瞑ってマナを強く、速く、体中にめぐらせる。


「ほう、確かにできているな。ここまでできれば、スキル化もできるだろう。一旦解除して、頭の中で『身体強化』と唱えてみろ」

「えっ?はい」


言われた通りマナを動かすのをやめ、頭に意識を向けた。


(……身体強化)


すると、カナデの意識とは関係なくマナが動き始め、みるみる速さをあげて全身を巡った。


「すごい!変な感覚ですが」

「おめでとう。これで正式に、身体強化獲得だ」

「ありがとうございます!でもこれってどう言う仕組みですか?」

「スキルって言うのは人間が作り、名を決めたものじゃない。神が人々へ与えた『決まった力』なんだ。条件さえ揃えば取得できるようにできてる。まぁ、条件が特殊だったり難しかったりするものもあるがな。身体強化は、やり方さえわかれば誰でも取得できる『汎用スキル』と呼ばれるもので、カナデはスキル『身体強化』の取得条件を満たしたのさ」

「なるほど。わかりました」

「よし、じゃあ次だが、身体強化を使ったまま、毎日走り込みや筋力強化に励んでもらう。詳しい方法はこちらで決めてあるから、今から説明する。1人でも休まず続けるんだ。わかったな?」

「はい!」


 ――その日から、カナデは依頼を受ける時間も減らし、筋トレに励んだ。

毎日巨大な王都の外周を10周、腕立て伏せ、腹筋、背筋、各1000回、筋肉が断裂しても回復薬をかけて再開する、地獄のような日々だった。

だが、1週間もすればそれなりに体が慣れ、筋肉痛も治癒力が上がっているおかげでほぼなくなり、昔と比べると随分たくましい身体が出来上がっていた。


次話『再会』

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