16話『初めての依頼』
16話『初めての依頼』
アリアと王都を巡った次の日、
アリアは今朝早くに、『いつもの指名依頼』で王都を出たらしい。
次はいつ頃帰ってくるのだろう?
それまでに訓練を重ねて、成長した姿を見てもらわないと。
今日のカナデはギルド本部に来ていた。
理由は金策、つまり初めてのお仕事である。
「フィーネさん」
「あっカナデさん、おつかれさまです」
「お疲れ様です。依頼を受けたいんだけど初めてで、よかったら教えていただけませんか?」
「承知しました。こちらへどうぞ」
フィーネに連れられ、部屋の隅にある大きな掲示板の前に向かう。
掲示板には様々な依頼がランク分けされて貼られていた。
「ここにはE〜Cランクの誰でも受領可能な依頼が貼られています。ランクはクエストの難易度や危険度からギルド内部で検討、判断の上で設定されています」
「なるほど。では、ランクが上がるほど遂行が難しくなり、命の危険を伴うということですね」
「その通りです。新人の方が無茶をしないよう、このような仕組みをとっています。例えばEランクの依頼……こちらですと、王都にあるお店で短期の店員募集ですね。店番や商品の陳列、接客が主な仕事となります。コミュニケーション能力があれば、どなたでもできる仕事です」
「Eランクはこのレベルの依頼ばかりということですか?」
「はい。戦うことがない簡単な依頼ばかりです」
その後も、フィーネはわかりやすく説明を続けた。
要点をまとめると、Dランクは王都から出て、周辺での薬草採取などの納品依頼がほとんど。
魔物や悪人と戦うことはないが、遭遇する可能性も無いとは言い切れない程度である。
Cランクは王都からの遠征や危険度の低い魔物討伐依頼が主となる。
例えば、カナデの『トラウマ』ゴブリンの討伐依頼などはCランクにあたる。
ただし、場合によってはランクに見合わない危険が潜む可能性もあり、怪我や事故、命の危険に繋がることもあるそうだ。
「掲示板とE〜Cランクの説明は以上です。質問はございますか?」
「ありがとうございます。十分わかりました」
「はい。よかったです」
フィーネは顔を少し傾けて微笑んだ。
「最後に、Bランク以上の依頼を受けたい場合は、実績を残して上級冒険者として認められる必要があります。上を目指したくなったら無理をせず、少しずつ頑張ってみてください。受けたい依頼があったら、ここから取って受付に出してください。では」
フィーネはさらに愛想良くニコッと笑うと、お辞儀をして入り口近くへ戻って行った。
さて、何を受けようか?
「とりあえずEかDにするとして、今日は試しに一つだけ受けてみよう。よさそうなのは……ん?」
――――――――――――――
片付けを手伝ってください!!
ランクE
報酬 日数×6400リア
―達成条件―
依頼者の自宅の掃除が完了する。
―失敗条件―
無責任な理由による仕事放棄があった場合
遅延行為が行われた場合
依頼者 モデラ
――――――――――――――
「日給6400リアかぁ」
この国のお金の単位はリアという。
1リア=1円とすると日6400円、8時間働いた計算で時給800円だ。
ただ、実際は日本より物価が低いみたいだから、おそらく時給1000円くらいだろう。
悪くはない。
「家の掃除だけなら難しくもないし、身体強化の練習も並行できそうだな。これにしよう」
カナデは清掃の依頼を取ると、受付へ向かった。
「すみません、この依頼を受けたいのですが」
「はい、承知いたしました。……あっ、モデラの依頼ですね!少々お待ちいただいても大丈夫ですか?」
「えっ?はい。構いませんが……」
「ありがとうございます!」
そういうと受付嬢は離席し、奥に消えて行った。
この依頼、何かあるのだろうか?と不安になる。
数分ほどで受付嬢は戻ってきた。
それも1人、作業着を着た背の高い女性を連れて。
「お待たせいたしました!ご紹介します。彼女がこの依頼の依頼主、モデラです」
「依頼、受けてくれてありがとう。依頼主のモデラだ。
ギルドの倉庫管理 兼 解体屋をしている」
「ギルドの職員さんだったんですね。カナデです。よろしくお願いします」
「では、詳細をお話していてください。その間に受付処理を行います。カナデさん、ギルドカードをお預かりしてもよろしいですか?」
「はい。どうぞ」
ギルドカードを手渡すと「お預かりします。しばらくお待ちください」と言って作業を初めた。
「依頼したい内容はそのまま、私の部屋を掃除して欲しい。恥ずかしい話、私は自分の身の回りのことに無頓着でな。気がついたら、部屋に足の踏み場がないほど散らかってしまったんだ。埃一つなく完璧に、とは言わない。生活ができるレベルに片付けてくれないか?」
「なるほど、わかりました。では、少々準備をして向かいます。場所のメモだけいただきたいのですが……」
「それは彼女にもらってくれ。依頼時に鍵と一緒に既に渡してある」
「わかりました」
カナデの返事を聞いたモデラは「じゃ、仕事に戻るから、頼んだよ」と手を振り、戻っていった。
――数十分後、依頼を受けたカナデは、事前に自分用で買っておいた掃除道具を片っ端から持って、モデラの家を訪れた。
モデラは1人で暮らしているらしく、今は仕事中でいないので、自由に鍵で入っていいと言われていた。
『カチッ……ガチャ』
散らかった部屋の掃除なんて簡単だ。
依頼としては半日もあれば終わるだろう。
そう見込んでいたカナデは、部屋の中を見て後悔することになった。
『足の踏み場がない散らかった部屋』なんて可愛らしく言ったものだ。
「ははは……、ゴミ屋敷じゃないか」
次話『身体強化』
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