15話『加護の力』

15話『加護の力』


「お主の元の世界についてだか……、お主に教えることは出来ぬ」

「えっ?なぜですか!」

「お主はこの世界の身体を手に入れ、この世界で暮らしている。既にこの世界の住人なのだ。すまぬ、秩序を守るためだ。理解してくれ」

「そんな……。せめて、姉さんの……姉が無事かどうかだけでも!」

「……すまぬ、答えてやれぬ」


カナデは落胆した。

姉が生きていてくれれば自分もこの世界で強く生きられると、勝手に希望を持ってしまっていたのだ。

見かねたのか、アフロディーテ神が口を開いた。


「わかったわ。あなたの姉の魂には、これからずっと皆に愛されるよう、私の加護を与えましょう。これから先あなたの姉の魂は迷うことも、傷つくこともないわ。これで安心してちょうだい」

「……はい。ありがとうごさいます。姉を、よろしくお願いします」

「えぇ、実は最初からそのつもりだったの。任せて」


アフロディーテ神は優しく微笑み返してくれた。

納得できているわけではない。

だが、ゼウス神が言うことはごもっともだ。

こちらの世界の住人が別の世界に干渉するべきではない。

だから、今後姉が幸せに暮らせるようにしてくれただけでも、十分有難い話だと考え、不安な気持ちを飲み込んだ。


「アフロディーテ、ありがとう。わしからも今回の件、詫びをさせてほしい。魂を落とすことなどあってはならなかった。今回は運良く身体があったが、もし何もない場所に落ちていたら、魂は砕けてしまっていただろう。すまなかった」

「いえ、この世界の人と出会えたのは、落としてくださったおかげですから」

「あぁ、だが神としてこのままというわけにはいかんのだ。お主は今、戦いの力を求めているだろう?」

「はい。いろいろ特殊なので自衛のためですが」

「うむ、今回はそれを手助けすることで詫びとさせて欲しい。そのためにアレスを呼んだのだ」

「あぁ、カナデ!お前に俺の加護を授ける!もちろん努力は必要だが、剣の才能を開花させ、願い鍛えれば最強の名を手に入れられるほど強くなれる。もちろん、望まなくたっていい。少しでもお前の手助けになるように使ってくれ!」


アレス神は親指を立てて笑顔と共にこちらに向けた。

心無しかフーガと被る。


「はい。ありがとうございます!」


少し元気を取り戻したカナデはアレス神に頭を下げた。

次に話始めたのは、終始会話を傍観していた白狼だった。


「カナデ、最後に私からも話をさせてください」

「うん」

「私の加護についてです。私の加護は主に回復力や免疫力等を上げるものです。私の加護を持つ人は、怪我は通常より治りが早く、病気も恐れずに生きることができます。また、月の出ている間は身体能力を底上げします。身体強化に似た効果です」

「わかった。僕からもひとつ、君に話したいことがあるんだ」

「なんでしょう?」

「……君が森に現れたことで、生態系に影響が出てる。あの森を出るつもりはない?」


白狼は一瞬驚いた顔をしたかと思うと、今度は考えるように目を瞑り、ゆっくりと口を開いた。


「……そうですか。困りました。実は、私は先日まで、あの森の祠に封印されていたのです」

「え?なんで?」

「私を人々が恐れたからです。それも彼ら人の選択なら、と受け入れましたが。私を魔物と同類とみたのでしょう」

「……ひどい」

「過ぎたことです。ただ、最近になってなぜか封印が解けて、あの場所に戻ったのですが、もう一つ、あるものが私をあの場所に縛り付けているのです」

「それって?」

「……結界です。私をこの森の中心から出さないよう、結界が張られているのです」

「結界……。それは解けないの?」

「外からならば可能です。」

「それじゃあ、いつかその結界を僕が解きにいくよ。」

「そう言ってくれると思っていました。その時は、私をカナデの側に置いてください。力になります」

「わかった。必ず迎えに行くよ。約束する」

「はい。約束です」


白狼は表情こそ変えぬが、優しい声でそう言った。

話を終えたカナデは再び3柱のほうを向き直した。

それを見ていたゼウス神が再び話し始める。


「話はまとまったな?では、これで解散するとしよう。カナデ、わしらはこれから先お主に直接干渉することはないだろう。だが、お主の新たな人生が良いものとなるよう、見守っている」


 ――目を覚ますと大聖堂の礼拝室で、変わらず膝をついていた。

神様に改めて礼を伝え、カナデは大聖堂を出た。


大聖堂を出ると、既に空が赤みをおびはじめていた。


「ただいま」

「おかえり、お祈りできた?」

「うん、おかげさまで」

「よかった。それじゃあ最後に1箇所だけ回って、帰りましょう。行きたいところがあるの」


カナデが頷いて見せるとアリアは歩き始めた。


 ――10分ほど歩き、2人は国を囲む城壁を登っていた。


「ここって登れたんだ」

「えぇ、登れる場所は決まってるんだけどね」

「なんで城壁に来たかったの?」

「ふふっ、見たらわかるわ」


城壁を登り切り、扉を開けて外にでる。


「……わぁ」

「ね、すごいでしょ」


目の前には真っ赤に染まった王都の街が広がっていた。


「この時間のこの場所が私のお気に入りなの」

「……うん、わかるよ。綺麗だ」

「そうでしょ?何かあった後はよくここに来て癒されるの」

「……今日はありがとう」

「ううん、こちらこそ」


神と出会い全てを知ったこの日。

アリアと1日歩き知ったこの街。

2人でみたこの景色。

きっといつまでも忘れないだろう。

紅く照らされた、彼女の横顔も。


次話『初めての依頼』

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