14話『真実』
14話『真実』
カナデはアリアと共に、念願だった大聖堂を訪れた。
中は巨大な柱がいくつも均等に並んでおり、まっすぐと続く道の先に大きな扉が構えられていた。
扉の前には数名の人が列を成しているが、話をする人は殆どおらず、静かに自分の順番を待っているようだった。
その静けさの中、アリアは小声で話し始めた。
「あの扉の向こうが礼拝室よ。お祈り中は誰も中には入れないようになっているの。宗派が混在する場所ならではの配慮ね」
「なるほど、仲の悪い宗教同士がお互いを認識しないようにってことだね」
「そ。まぁそもそも、一緒にされることを嫌う過激派もいるんだけどね。さぁ、私たちも並びましょう」
2人は静かに、列の最後尾へ並んだ。
それからは特に話をするわけでもなく、皆と同じように順番を待ち、先にアリア、次にいよいよカナデの番となった。
聖職者に案内され、1人扉の中に入る。
完全に扉が閉まると、足音すら全く聞こえないほどに無音の空間となった。
ここでふと、カナデの中に疑問が生まれた。
(そういえば、僕は特に宗派があるわけではないが、作法なんかはどうすればいいのだろう?白狼は祈りを捧げるって言ってたけど、それっぽいようにすれば大丈夫だろうか?)
カナデは先に誰かに聞いておくべきだったと後悔した。
だが、この静寂の中で質問をしても応える人はいない。
仕方なく、部屋の中心で片膝をつき、胸の前で両手を絡めるように合わせ、目を瞑って神に願いを伝えてみた。
(神様、どうか、僕が今この世界にいる理由、元の世界のことを教えてください)
「ふむ、ようやくここまで来たな。待っておったぞ。カナデ」
誰かの声が聞こえて目を開ける。
すると、いつのまにか周りは真っ白な空間となっており、目の前には立派な白髭を伸ばした老人と、鍛えられた肉体を曝け出した男性、そして思わず見入ってしまうほど美しく、ナイスボディの女性が立っていた。
すると、白髭の老人が話しかけてきた。
「白狼がお主に伝えたと言っていたゆえ、心配はしておらんかったが、無事に会えてよかった」
「えっと、あなた方が神様でしょうか?」
「いかにも。わしは天の神だ。お主の元々いた世界では、ゼウスという名が伝わり安いだろう」
「えっ?!ゼウスってあの?ギリシャ神話のゼウス様ですか?」
「うむ、その通りだ」
「俺は戦いの神、ギリシャ神話ではアレスと名乗っている」
「私は慈愛の神、ギリシャ神話の名はアフロディーテよ。
よろしく、坊や」
思わぬメンツに度肝を抜かれた。
まさかギリシャ神話の神々に会う日が来るとは思わなかった。
「ようやくまた会えました。」
後ろからさらに別の、聞き覚えのある声が聞こえて振り向いた。
「白狼!やっぱり君だったんだね。助けてくれてありがとう。それに加護も」
「いいえ、助けたのはあの子らです。私は加護の力で延命したに過ぎません」
「そっか。それでも、ありがとう」
「……はい」
白狼が少し嬉しそうに返事をすると、それを見つめていたゼウス神が再び話し始めた。
「まず、今回お主がこの世界へ来た経緯を教えよう。
少し長くなる。座りなさい」
気がつくと、目の前に椅子とテーブル、飲み物が準備されており、すでに3柱は着席していた。
まるではっきりとした夢の中のようだ。
「お主は現世で命を落とした。覚えているであろう」
「……はい」
「そう、あの時確かに、お主の魂は元の身体から分離した。その魂は天使によって我々神の元へ還るはずであった。しかしその日は死者が多く、天使はお主以外の者の魂も我々の元へ運んでくれていたのだ」
「はい」
「そこで、あることが起きた。魂の数が多すぎたがゆえに抱えきれず、お主の魂を誤って落としてしまったのだ」
「……えっ?」
「魂は世界の狭間をすり抜け、この世界に落ちてしまった。そして、落ちた先にさらなる偶然があった。なんだと思う?」
「……わかりません」
「……魂が分離したばかりの別の人間の肉体が、そこにあったのだ」
「……つまり、僕の魂がその肉体に入ったと?」
「そうだ。我々もこのようなことが起きるとは知らなかった。初めてだったのだよ。魂を落としてしまうことも、魂が抜けた体に別の魂が宿ることも、そもそも浄化前の魂が世界に降りたことも」
「……はい」
「そうすると、お主の宿った肉体に変化が起きた。なんと、魂に刻まれた見た目、年齢、服装まで、あらゆることが、お主という存在に上書きされたのだ」
「だから制服は着ていたのですね」
「そうだ。だが、上書きされない物もあった。それは肉体に深く刻まれていた物、闇属性だ」
「……闇属性。じゃあ、もしかして」
「うむ、お主の魂には光の属性が刻まれていた。肉体と魂、それぞれ違うルーツによりマナが作られたことで、この世界で初めての、光と闇の属性を持つ者が誕生した」
「つまり、僕は天使の落とし物で、たまたま落ちた先に肉体があり、たまたまその肉体が闇属性を持っていたと……。なぜ、光と闇がぶつからないのですか?」
「マナの入れ物がちがうのだ。光と闇、それぞれの属性を持つマナを、別々で保管していると思ってくれればいい」
「なるほど」
「その後はわかるだろう。お主は再び死にかけ、そこの白狼やあの子らに助けられた」
「はい。僕が今この世界にいることは偶然や奇跡の積み重ねだったのですね」
ゼウス神の話を聞いてようやくわかった真実。
この身体の元の持ち主はどんな思いなのだろう。
ぜひ直接聞いて見たかった。
「次にお主の元の世界についてだが……」
再び語り出したゼウス神を見た。
「……お主に教えることは出来ぬ」
次話『加護の力』
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