13話『アリアの素顔』

13話『アリアの素顔』


「いたたたた。」


夕食を食べに行こうと扉を開けて、フィーネを見つけた。


「すみません、いると思わなくて。大丈夫ですか?」

「……はい。なんとか。あっ、ご飯食べました?遅くまで訓練場にいらしたみたいなので、持って来てみたのですが……」

「えっ?まだですが、わざわざ作ってくださったんですか?」

「いえ、まさか!近くにある串焼き屋で買ってきたものです。この時間はほとんどのお店が閉まってますので、探すのが大変かなと思いまして」


フィーネはそう言って赤いおでこを見せながらニコッと笑った。

(天使かよ)


「ありがとうございます!ちょうど食べに行こうとしてたんです。お代払いますね。いくらでしたか?」

「あっいいですよ。寮で暮らす人のために組まれた経費がありますので、ギルドに請求します」

「そうなんですね。ではありがたく、いただきます」

「いえいえ!では、おやすみなさい」

「おやすみなさい」


フィーネは深々とお辞儀をすると、歩いて帰っていった。

かと思うと、隣の部屋の鍵を開けて入っていく。

どうやらフィーネはお隣さんだったようだ。


フィーネからもらった串焼きを食べ、この日は早々に眠りについた――。


 次の日、カナデはギルド本部の前に立っていた。

今日はアリアに王都を案内してもらう。

なのでそこで待ち合わせの約束をしていたのだ。


「おまたせ!待たせてごめんね」


時間より少し遅れて、アリアは申し訳なさそうにやってきた。


「ううん、僕も今きたところだから」

「本当?よかった」


アリアはそう言うと、キラキラとした笑顔を見せた。

(かわいい)

今日のアリアは初めて会った日とも防具とも違う、女の子らしいヒラヒラとした半袖の白いワンピース姿だった。

剣を携え戦う強い女性。

そんな印象が強かった彼女のその姿に、ついドキッとしてしまう。


「それじゃあまずは……服を買いに行きましょうか」

「うん。手持ちが少ないから安いところで頼むよ」

「わかってるわよ。さぁ、行きましょう」


2人は横に並ぶと、街に向かって歩き出した――。


 そこから、アリアと2人で様々な場所へ行った。

服屋ではアリアに服を選んでもらい、なぜかアリアも試着して、嬉しそうに見せてくる。

結局、アリアも何着か新しい服を買って喜んでいた。


『一番お城が綺麗に見える穴場』に行ったが、そこは観光客やカップルでごった返していて、穴場と言うには程遠かった。

アリアは「おかしいなぁ」と言いながら苦笑いを浮かべた。


道中には美味しい飲食店や出店をいくつも教えてくれた。

そっちにはかなり詳しいようだ。


武器屋にも行った。

その場に似合わない見た目とは裏腹に、様々な武器の特性や用途を語るアリアに、店員は不思議そうだった。

ただ、この時のアリアの顔は冒険者アリアだった。



 ――お昼を回ったころ、休憩を兼ねて食事をすることにした。

場所は、アリアがおすすめしたカフェのテラス席だ。


「それにしても、王都は広いね」

「えぇ、お城を中心に四方に街が広がる大都市だから」

「アリアはこの街で育ったの?」

「ううん、元々は私もカナデと同じ他国で生まれ育ったの」

「じゃあ、なんでこっちに来たの?」


その質問をすると、アリアの顔は少し曇ったように見えた。

しかし、その顔は幻だったかのように見えなくなり、すぐに明るい口調で話し始めた。


「ちょっと親と喧嘩してね、家出したの。そしたらこの国に流れ着いて、気に入って居座っちゃった」

「うわぁ……壮大な家出だね」

「そうね。今は私もそう思うわ。でも、ここが好きな気持ちは変わらないわ。国も、冒険者も……」


アリアはまた少し寂しそうな顔をした。

昨日アリアに聞かれた「帰りたいか?」という質問は、今の彼女にぶつけることは出来なかった。

きっと彼女の中にも、多少の後悔が残っているのだろう。


ただ、今日の彼女の言葉、仕草、全てが、今を楽しんでいるんだと感じた。

冒険者としては見せることのない少女の姿を、カナデは心に強く焼き付けた。


「さぁ、これからはどこに行く?」

「えっ、と、そうね。ひとまず大聖堂に向かいましょうか。道中に気になるところがあれば寄って行きましょう」

「わかった」


昼食を食べ終えたカナデとアリアは立ち上がり、また街を歩き始めた――。


途中、ウィンドウショッピングを楽しんだ2人は、

お城の左側にある開けた噴水広場に来ていた。


「ここは王都の定番の待ち合わせスポットよ。お城のすぐ近くだから治安もいい場所なの」

「子供も走り回れて、いい場所だね」

「えぇ、それと、ここ!」


アリアは広場に隣接する巨大な建物を指し示した。


「ここが数多の神々に想いを告げる場所。大聖堂よ」

「大きい……」

「お城の次に大きな建物よ。宗教派閥に関係なく、ここでは皆が平等に、自分の信じる神に祈りを捧げるの」

「なんか素敵だね」

「えぇ、この国が栄える理由のひとつなのかもね。入りましょう」


アリアに導かれるように、カナデは大聖堂に足を踏み入れた。


次話『真実』

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