11話『王都 デュオル』

11話『王都 デュオル』


 門を抜け、馬車を降りたカナデ。

目の前には、隙間なく立ち並ぶ建物、石レンガでできた道、そこを行き交う多くの人々。

そして、正面に堂々と構える立派な城。

中世ヨーロッパの街並みを彷彿とさせるその景色は、誰もが憧れるファンタジー世界の城下街そのものであった。


「……すごい。ここが王都デュオル」

「えぇ、すごく栄えてるでしょう。私も始めてここに来た時は、無意識に胸が踊ったわ」

「……うん」

「さぁ、今日はやることが多い。ギルド本部に向かうぞ」

「はい!」

「私もここで!またいつか会おうね」

「はい!また!」


ホルンは「じゃあねー!」と手を振り、まっすぐ城へ向かい、人混みの中に消えていった。

カナデ達も荷物をまとめると、ギルド本部へ向かって歩き出した。


 ――広い王都の中を移動すること約30分。

城が北東に見えるあたりまで歩いたところで、3人は足を止めた。


「着いたぞ。ここが我々冒険者ギルドの総本山、ギルド本部だ。カナデ、お前を歓迎する」


そこには、周りの他の建物とは比較にならないほど巨大な、石造りで装飾が美しい建物が立っていた。


「大きいですね……」

「王都にある建物としては、お城を除くと3番目に大きいの」

「最初は他と対して変わらないくらい小さな場所だったんだがな。組織が大きくなるにつれて場所が足りなくなって、改築やら建て直しやらしてたら、いつのまにかでかくなってた。さぁ、入るぞ」


もう少しゆっくり鑑賞していたい気持ちを堪え、マスター、アリアに続きギルド本部へ足を踏み入れた。


「マスター、アリアさん、おかえりなさいませ」


本部に入ると、1人の女性が出迎えた。

スタカの受付嬢と似たような服を着ていることから、ギルドの従業員であることはわかった。

銀色のボブがよく似合う、可愛らしいがとても落ち着いたもの静かそうな人だ。

そして何より、彼女の尖った耳に思わずドキッとしてしまった。


「あぁ、今帰った。留守中に何かなかったか?」

「いくつか報告は上がっています。詳しくは後ほど資料をお持ちします」

「わかった。頼む」

「それでマスター、そちらの方は?」

「新人だ。スタカで少しあってな。向こうで登録して連れてきた。しばらくこっちを拠点に活動させる」

「カナデです。よろしくお願いします」

「冒険者ギルド本部案内役 兼 秘書のフィーネです。カナデさん、よろしくお願いします」


フィーネと握手を交わしたところで、マスターが口を挟んだ。


「いいか?彼女はハーフエルフでモテる。我がギルド1の看板娘だ。カナデ、手出すと他の男連中に殺されるぞ。覚えとけ」

「そ、そんな手なんて出しませんよ!」

「ま、マスター、からかわないでください!」


フィーネはマスターに反論していたが、恥ずかしいのか照れているのか、耳まで真っ赤になってしまっていた。


「はっはっはっ!悪い悪い!ま、そんなわけで、カナデが本部を拠点に働けるようにしてやってくれ。それと、この資料が必要になる。持っていけ。あと、アリアにいつもの依頼が来てただろ?それの受注手続きも頼む。それが終わったらカナデを執務室に連れてきてくれ。ついでに訓練場の予約も頼む」

「はぁ。わかりました。では、アリアさん、カナデさん、こちらにどうぞ。」


深いため息をついたフィーネに導かれ、2人は歩き出した。

それにしても一気にあの量の仕事を任されて、覚えているのだろうか?

メモなどをとっているわけでもなかったようだが……。

彼女は僕が思う以上に優秀なのだろう。


 ――少し歩き、カナデとアリアは個室に通された。

フィーネは「しばらくお待ちください」と言うと、

扉で繋がった隣の部屋へ消えていった。


「カナデはフィーネみたいな女の子らしい子が好み?」

「アリアまで、そんなんじゃないって。エルフを見たことがないからさ、初めて会えてちょっと嬉しかっただけだよ」

「そっか、カナデの国にはエルフはいなかったんだ」

「うん、エルフどころか、亜人って呼ばれる種族は何もいない、ただ人間だけが暮らす国だったよ。悪い人はたまにいたけど、魔物も盗賊もいない、平和な国だった……」


故郷を思い出し、つい懐かしんでしまう。

最後に自分が殺されているわけだが、それでも平和な普通の世界だった。


 そんな元の世界を思い出していると、それに気づいたのか、アリアが再び質問した。


「……帰りたい?」


帰りたいか……。

カナデはその問いにすぐに答えることは出来なかった。

だが答えはここが異世界だとわかった瞬間から、すでに決まっていたことを思い出す。


「……ううん、帰らないよ。もう、僕の居場所はここだから」


そう言ってアリアに笑いかける。

アリアは少し切なそうな顔をして「そっか」と呟いた。


「はあぁぁぁぁ?!」


隣の部屋から驚くフィーネの叫び声が聞こえた。

おそらくマスターが渡したあの資料で、僕の守護、属性の件を知ったのだろう。

僕とアリアはお互いに顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。


 その後、頭を抱えてしまったフィーネに書類を作成してもらい、2人の事務手続きは滞りなく完了した。


次話『マナの使い方』

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