10話『長旅の終わり』

10話『長旅の終わり』


 ブラックベアーを倒し森を出たカナデ達は、酒場へ来ていた。


「っーぷはぁー!やっぱりこの村のご飯はエールに合う!」

「それ言うの何回目ですか?もうわかってますよ」

「何回も言いたくなる美味しさなんだよー!」

「カナデは飲まないのか?」

「たしかに、18歳って言ってなかった?」

「そうだよー!ジュースじゃ大人になれないぞー?」

「この国は18歳からよくても、僕の住んでた国では20歳からなんですよ」

「えーっ!あと2年も飲まないの?!つまんないなぁ!一緒にがーっと飲もうよ!そんでゲーッてなっちゃいなよー!」


――1時間半後


「ゲー(以下自主規制)」

「大丈夫ですかー?」

「……」


路地裏でカノンの背中を摩るカナデ。

2人の姿を見ながらアリアとマスターは複雑な心境だった。

少なくともこの日、『砂漠の天使』ホルンの印象は

2人の中で大きく書き変わった。


 ――次の日、朝から馬車に揺られ、4人で王都を目指していた。

道中、カノンとアリアの会話が車内に響く。


「いやー、昨日は飲み過ぎちゃったみたいでごめんねー?

朝起きたらすっごい頭痛かったし記憶も無くなってたよー!」

「その割にはお元気そうですね」

「ふっふーん!私は魔導士だよ?状態異常の回復なんて朝飯前だよ!」

(二日酔いって状態異常なんだ……)


そんな会話を聞き流しながら、カナデはマスターに質問をなげかけた。


「王都まではあとどれくらいですか?」

「もう半日もあれば着くな」

「でしたら、今日は昼過ぎから出かけても?」

「あー、だめだ。王都の入り口はいつも混んでるからな、入るまでにも時間がかかる。それにギルド本部をしばらく拠点にするなら、申請が必要だ。自由に動けるのは明日からだと思っておけ」

「わかりました。」


 カナデは王都に行くことを急いていた。

理由は目的の一つ、大聖堂である。

今、この世界にいる理由、向こうの世界のこと、知りたいことは山ほどあった。


「そうだな、明日を自由に過ごしたいなら、今日から指南を始めるとしよう。その方がカナデもアリアも都合がいいだろう」


不意に名前を呼ばれたアリアは「あっ」とした顔でこちらを向く。


「そうですね。それなら明後日から依頼も受けられますね。カナデ、明日は王都を案内するわ。行きたい場所はある?」

「ありがとう!実は大聖堂に行きたいんだ」

「大聖堂ね。わかったわ。私も久しぶりにお祈りに行こうかしら」

「うん、是非一緒に」

「うん」

「よし、予定は決まりだな」


マスターの一声にカナデとアリアが頷く。


「ホルンさんは王都に着いたらどうするんですか?」

「そのままお城に向かうよー。団長に報告することもあるし!あーでもカナデと離れるの寂しいなー。魔導士団やめて冒険者になろっかなー?」


カナデが苦笑いすると、マスターが口を挟んだ。


「馬鹿言わないでください。副団長を引き抜いたとなればギルドと魔導士団で争いが起きますよ」

「ですね。気持ちはありがたいですが……しばらく王都にいますので、そのうちまた食事ご一緒させてください」

「うんうん!わかってるよ!そうだね、そのうちギルドには遊びにいくよ」


そう言って、ホルンはまた出会った時のようにニパッと笑った。


 ――その後も馬車は順調に進路に沿って進んでいた。

長かった旅もようやく終わりに近づいている。


「スー……スー……」

「ぐー……ぐー……。うへへぇ。」


アリア、カノンが眠りにつく中、カナデはマスターと話をしていた。

「2人とも気持ちよさそう。賑やかな旅でしたね」

「そうだな」

「……。一つ教えてください」

「なんだ?」

「マスターが倒したって言う邪龍って、どんな魔物だったんですか?」

「気になるか?」

「えぇ、少しだけ」

「……」


長い沈黙の後、マスターはゆっくりと口を開いた。


「そうだな……。カナデが将来、龍種と戦う日がきたら話してやる。ただ、俺は誰も奴らと戦わなくていいことを願ってるよ……」


その時見たマスターの顔は、いつもより寂しそうに見えた。


「……あの、それってどういう」

「ほら、見えてきたぞ」


話しを遮りマスターがまた窓の外を指す。

その先には巨大な灰色の壁が高く聳(そび)え立ち、正面には大きく紋章が刻まれていた。


「あの壁の向こうが、王都『デュオル』だ」

「……王都 デュオル。ここが……」


マスターが今話せない理由。

気にはなるがこれ以上の追求はしなかった。

それよりも、王都での生活を想像して胸が高鳴ったのだ。


「僕はここから、冒険者として始まるんですね」

「……あぁ」


マスターはカナデの輝く瞳に小さく笑った。


「まずは街に入らないとな。ギルドカードを準備しておけ。あと、2人を起こしてやってくれ。俺は御者と少し話しをしてくる」

「わかりました」


カナデはまだワクワクしている心を落ち着かせながら、

アリア、ホルンを起こして、馬車を降りる準備を始めた。


 これから始まる生活。

姉はいないが、もう不安はなかった。

アリアやマスター、カノンにフーガ、ホルンさんも……。

僕が頼れる人はこんなにもいる。

この世界は少し物騒だけど、きっとなんとかなる。

そう思えた。


 しばらくして、4人を乗せた馬車は無事に門を通過し、王都に到着したのだった。


次話『王都 デュオル』

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