6話『月の騎士様』

6話『月の騎士様』


「バカな!!相剋属性だと?!ありえん!」


ギルドマスターは白狼の加護を伝えられたとき以上の反応を見せた。


「相剋属性って?」


カノンの言葉にアリアはため息をついた。


「カナデはともかく、なんでカノンが知らないのよ。相剋……つまりどちらか、もしくはお互いの力を掻き消してしまう属性相性のことよ」

「例えば火と水、風と地や聖と死だな。火と水の魔法を使えば火属性魔法は消火されるように効力を失う。風と地の魔法を使えば、風は山にぶつかるように力が分散して威力を失う。」

「魔法戦の基本なので、カノンさんは覚えておいてくださいね」


カノンは「なるほどねー」と理解したのかしてないのかわからない反応をした。


「適合する属性は本人が持つマナの資質で決まる。火と水の資質があっても水が火の資質を消してしまう。ましてや、光と闇は双方の力がお互いをかき消し合う。だからこの組み合わせは『ありえない』んだ」


ギルドマスターはそう強く言い放った。


「えぇ、ギルド内部どころか、残っている歴史上でも恐らく存在しない、世界初の適合パターンでしょう」

「しかも光、闇それぞれで見ても適合者が少ない。それを両方なんて、激レアにもほどがある……」


フーガはそう言いながら天井を見上げた。


「はぁー、これが世にバレるとかなり面倒になるな」

「えぇ。間違いなく、国や研究者が黙っていないでしょうね」


ギルドマスターは頭を抱えている。

他のみんなも考えるような仕草を見せた。

そしてまた小さくため息をついたギルドマスターが口を開いた。


「カナデくん、君は君自身が想像するより遥かに異質な存在だ。ギルドとしては君を可能な限り守りたいと思っている」


ギルドマスターの言葉にカナデは再び頷いた。


「だが、もし君の身に危険が迫ったとき、我々は確実に君を守れる保証はない。だから一つ提案なんだが……」


ギルドマスターは少し体勢を前に倒すと、カナデの瞳に語りかけた。


「俺から剣術指南を受けないか?見たところ戦闘経験はないだろう。そこら辺の盗賊なら軽く捻れるくらいには鍛えてやれる」


そう言ってかすかに右の口角を釣り上げた。

思いがけない提案に驚いていると、続けてカノンが話し出す。


「マスターは昔あった邪龍との戦いで戦果をあげて、貴族に成り上がったんだ。指南役としてはこれ以上ないってくらいの強者だよ」

ギルドマスターは「貴族なんてのは柄じゃないがな」と冷めたように返した。


龍と戦った男。

そんな強者が直々に指南してくれる。

これほどの好待遇はなかなか無いだろう。

それに鍛えてもらえれば魔物とも戦える。

命の危険はあれど、稼ぎが増えるのは素直に嬉しかった。


「ありがとうございます!とても助かります。ご指導、よろしくお願いします」

「あぁ、みっちり鍛えてやる」


そう言うと、ギルドマスターは右手を差し出した。

その言葉と眼光にちょっとだけ恐怖を感じつつ、カナデも右手を出して固く握手を交わした。


「カナデくんのギルドとしての扱いは決まりだ。今日話したことは他言無用だぞ。皆わかったな?」

「はい」


ギルドマスターの言葉に全員が返事をした。


「よし、カナデくん…いや、カナデにギルドカードを発行してやってくれ。明日朝一の馬車で王都へ向かう」


そう言うと、ギルドマスターは立ち上がり、扉に向かって歩き出した。


「あぁそうだ、アリア。お前も明日一緒に王都にこい。

いつもの指名依頼が来ていた。ついでにカナデに王都を案内してやれ」

「わかりました」

「あぁ、よろしく頼む」


そう言い残し、ギルドマスターは部屋を出た。


「では、私はカナデさんのギルドカードを作成してきますね。みなさん、もう少しこちらでお待ちください」

「あ、いや、俺も出るよ。まだ依頼の選考中だ」

「私も気になる依頼があったから一緒に行くわ」

「わかりました」


受付嬢はこちらに小さくお辞儀して部屋を出た。

続けてフーガ、アリアが退出する。

扉が閉まるとカノンは背もたれに身を任せ、グーッと身体を伸ばした。


「あーっ、疲れたー。カナデって実はとんでもないやつだったんだね」

「その言い方はちょっと傷つくなー。僕も知らなかったよ。それにどんな力を持っていても僕自身はまだ何もできないからさ、全然実感が湧かないんだ……白狼の加護も、詳細はわからないし」

「そんなもんかねー。アタシならみんなに自慢してやるけどね!俺が『月の騎士様』だぞーって」

「お願いだから他所にバラさないでくれよ。それになんだよ、その月の騎士って」

「だって光と闇の魔法を使うなんてさ、まるで満月の夜そのものみたいじゃないか。月夜に突如現れた『月の騎士様』……なんていいじゃん、かっこよくて」


「まぁ、剣はこれからだけどね」と付け加えると、カノンは悪戯な顔で笑った。

カノンの豊かな想像力に、僕は思わず苦笑いをこぼした。


そりゃいつか、そんな二つ名のある冒険者になれたらカッコいいだろうけど……。

今の僕にはあまりにも刺激的すぎる。


ふと、カノンが何かを思いついたように「あっ」と声を出してこう言い出した。


「だから白狼はカナデを選んだんじゃないか?」

「えっ?」

「ほら、マスター言ってただろ。『属性は本人が持つマナの資質で決まる』って。つまり、カナデは最初から光と闇の適正があったってことだ。白狼もカナデと月を重ねたんじゃないか?なんてな」


『――あなたの存在は面白い』


カノンの言葉にまた白狼の声を思い出した。

全く、カノンには敵わないな。

僕はカノンに自然と笑顔を返した。


次話『馬車旅』

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