5話『白狼の加護』

5話『白狼の加護』


「『幻獣の加護』?!それにこの属性って……」


 小さな独り言のような声だったが、その言葉は耳に入り鼓膜を震わせた。


「今、なんと言いました?」


いつの間にか近くに来ていたアリアは、驚きの表情で受付嬢に問う。


「幻獣……『白狼』の加護を彼は受けています」

「白狼ってもしかして……」


カナデとアリアは思わず目を合わせた。

あの森、月呼びの森で倒れたとき、最後に聞いた声はやはり白狼だったのだ。


「カナデ、心当たりは……だよね」

「……うん」

「ここでできる話ではありません。応接室を準備します」


そう言うと、受付嬢は奥へ消えていった。


「私はカノンとフーガを呼んでくる。2人もいた方がいいと思う」

「うん、よろしく」


 ――四人が揃って応接室に通されると、既にある人物がソファに腰掛けていた。


「あれ?マスター、こっちに来てたんだ」

「あぁ、野暮用でな。まぁ座れ」


彼がギルドマスター。

フーガをさらにゴツくしたような筋肉。

顔の左側面から頬にかけて伸びた3本の傷が印象的な強面。

思わず後退りしたくなるほどのオーラを周囲に漂わせていた。


「失礼します」


緊張が走る中、挨拶をして入室する。

そして促されるままにギルドマスターの向かいに腰を下ろした。


「初めましてカナデくん。冒険者ギルドのギルドマスターを勤める『トロボ・ドルフラット』だ。皆マスターと呼ぶが、好きに呼んでくれ」

「たまたまスケジュールが合いましたので、ギルド側の対応を早期に決定する為、ご参加いただきました」

「そう言うことだ。よろしく頼む」


凄まじい眼力で周囲を一瞥する。

場の空気が凍る中、受付嬢が口を開く。


「まず、カナデさんの加護、スキル、属性について、みなさんにお伝えさせていただきます。カナデさん、構いませんか?」

「はい」

「ありがとうございます。みなさん、こちらをご覧ください」


そう言うと、彼女はあの薄水色の紙を出した。


「数だけで言いますと、カナデさんは加護一つ、スキル0、適合属性二つが出ています。

スキルが0というのは珍しくありませんので、そこはこれからの努力次第です」

「そうだな、スキルは修行で身につく正に努力の賜物だ。

汗水垂らしてがんばんな」


カナデはカノンに一度頷き、再び受付嬢に向き直る。


「問題は加護と適合属性です。まず加護ですが、カナデさんは幻獣『白狼』の加護を受けています」


フーガとカノンは驚きの表情を見せた。

アリアは伝えていなかったのだろうか?


「今までにも幻獣の加護を受けた人は歴史上存在します。ですが、それも百年に一人いるかどうかの稀有な存在です」

「先代の王、今の国王の父君がそうだったと聞く。事実かどうかは知らんがな」


ギルドマスターの話にアリアが頷いて見せた。


「カナデさん、あの森で何があったのですか?」


素直に話すべきか少し迷った。

だが、ギルドマスターの眼力が『話さない』と言う選択肢を選ばせてはくれなかった……。


 ――結局、ゴブリンに襲われたこと、意識が朦朧とする中で誰かと話をしたこと、おそらくそれが白狼であったことを全員に語った。


「なるほど。そーいうことだったのか」


全てを聞いたフーガが徐(おもむろ)に語り出した。


「あの日俺らは、森で起きた異変の調査依頼を受けていたんだ。内容は強力な魔物が森の比較的浅い場所に現れたこと……」

「……そっか。白狼は今まで伝説が残るのみで目撃情報は一切なかったわ。つまり、ここ最近になってあの森で活動を再会したのね。」


アリアの言葉にフーガは頷き、話を続けた。


「そう。それで中心にいた強力な魔物たちが少しずつ外側に追いやられて、テリトリーが変わったんだろう」

「そうだとすれば、白狼の動向と現在の魔物のテリトリーの再把握が必要だな」


ギルドマスターの言葉にカナデを除く全員な頷いた。


「白狼とのコンタクトにはカナデさんが向かうべきでしょう。加護を与えた相手を無下にはしないはずです」


受付嬢の言葉にカナデは頷いた。


「であれば、カナデくんの冒険者登録は問題ないな。白狼の加護については、しばらく口外しないように」

「あっ、待ってください。冒険者登録は確かに問題ないというより、むしろ是非来て欲しいのですが、もう一つ緘口令を敷くべき事案が」

「あ?適合属性か?別に『デュアル※』なんてそこまで珍しく無いだろう」

※2種の適合属性がある人のこと


ギルドマスターの返答に受付嬢は頷き、話を続ける。


「はい。確かにデュアルは特段珍しくありません。ギルドにも十数名ほどの方が在籍しています。問題なのはその『属性』です」

「……まさか?!」


驚くアリアに受付嬢は頷いた。


「はい。カナデさんの適合属性は……

『光』と『闇』……です」


次話『月の騎士様』

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