4話『冒険者』
4話『冒険者』
騒がしい食事会もお開きとなる頃、不意にフーガがカナデに問いかけた。
「カナデ、これからどうするつもりだ?話は大体わかったが、この国で生活するなら身分証と金は必要だ。お前さん、何も持ってないんだろ?」
「……。はい。お金は自分にできる仕事を探して稼ぐつもりでした。王都に行ってみようかと思います。ただ、身分証は……。すみません、よくわかってなくて」
「なるほどな。だったら、いっぺんに2つとも解決する方法を俺らは知ってるぜ」
そう言うと、フーガはアリアとカノンに向かって笑った。
カノンはニッと不敵な笑みを浮かべ、アリアは頭を抱えて深いため息をついた。
「カナデ、冒険者になりな。王都に入るにしても身分証は必要だ。冒険者登録はこの村でもできるし、登録すれば身分証になる『ギルドカード』が手に入る。
それに冒険者の仕事は魔物退治みたいな危ないものばかりじゃない。薬草採取や街の清掃でも、一人なら充分暮らせる金は稼げる」
フーガの提案に少し驚いたが、確かに魅力的だ。
それに冒険者という肩書きには少し憧れる。
興味を惹かれたところで、続けてアリアが口を開いた。
「フーガは楽観的にこう言っていますが、内容は正しいと思います。ただ、一人なら暮らせる程度と言っても低いランク帯の依頼では、その日暮らしの報酬しか見込めません。私たちくらい稼ごうと思うと魔物との戦いは避けられなくなります。お金も命も手放せないのなら、他の職を探すべきでしょう」
……冒険者。
確かに僕は特越した特技も武術の嗜みもない。
だからこそ、冒険者のような何でもやる仕事のほうが、経験を積んだり合う仕事を探す意味でも案外いいのかもしれない。
幸いお金が急務というわけでもない。
ならば……。
「わかりました。ひとまず冒険者になります」
「そーか。じゃあ今後は仲間だ。よろしくな」
「よろしく。同業になるなら敬語も不要よ。アリアでいいわ」
「アタシもカノンでいいよ。よろしく」
「フーガ、アリア、カノン、よろしく」
結局その後「祝い酒だー!飲み直しだー!」と言って騒いだフーガとカノンは酔いつぶれ、その日はアリアと二人で片付けをしたのち、カノンの家に全員泊まった。
朝には復活したカノンが全員分の食事を準備してくれ、案の定二日酔いのフーガと、意外と朝が弱いアリアを起こして朝食を食べた。
「あー、気持ち悪りぃ」
「さっきからうるさいよ。吐くなら外に出な」
「そーよーふーがー うるはくてごはんあふふぁあ……zzz」
「アリア起きて、鼻にパンが刺さってるよ」
――約1時間後
身支度を整えて家を出た後、四人で冒険者ギルドに向かった。
道中に村の様子をみていたが、すれ違う殆どの人が武器を携えており、ここが冒険者の安息地と呼ばれるだけはあるな、と実感した。
「ギルドマスターが爵位と領地を受け取った後に、冒険者の為に立ち上げた村だそうよ。だからこの村は、実は比較的新しいの」
ほー、ギルマスが領主なのか。
露店や宿屋も多く、客引きの声も賑やかだ。
日本の、ましてや都会では見れなかった光景だった。
多才な人なのだろうと感心した。
「さぁ、着いたよ。」
立ち止まったカノンが見つめる先にカナデも視線を向ける。
そこには周りの建物とは一風変わった、レンガ造りが美しい建物がが鎮座していた。
尖った屋根は天に突き刺すように高い。
このワクワク感……子供の頃に姉と行ったアミューズメントパークの入り口に立った時のそれに似ていた。
『――ガチャッ』
「おかえりなさい!あっ、皆さん!お疲れ様です。それと……昨日森にいた方ですね。元気になられたようで何よりです」
ギルドの役員と思われる女性に声をかけられた。
カナデは「ありがとうございます」と言って頭を下げた。
「お疲れ様です。今日は彼の冒険者登録といくつか依頼を受けようかと」
「まぁ!冒険者になられるのですね。承知しました。では準備をしますので少しお待ちください」
「ってことだから、お前さんはここで少し待ってな。俺らは掲示板を見てくる」
「あぁ、わかった」
カナデの返事を聞くと、フーガたち三人は奥にある掲示板に向かって歩いていった。
待っている間に周りを見渡してみる。
内装は白塗りの壁に木の梁がアクセントとなったおしゃれなカフェのようだった。
冒険者ギルドと聞くと荒れくれ者が集まる酒場のようなイメージを持っていたが、武装こそしている人はいても今にも喧嘩が始まるような空気は微塵も感じられなかった。
そしてこのギルドだけではないが、街にも文字らしきものはほとんど見かけなかった。
おそらく読み書きなどの教育文化は遅れているのだろう。
この世界の文字が全くわからない以上、その点はありがたかった。
「お待たせしました」
受付に呼ばれカウンターに向かった。
「では冒険者登録を始めます。まずはお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「カナデです」
「カ、ナ、デ、さんですね」
そう言いながら彼女は薄水色の紙に何やら色々と書き出した。
おそらく名前と……性別などだろうか?
「では、次にスキルと加護の有無、魔法の適合属性を確認します。こちらの針でお好きな指の腹を少し刺して、血を出してこちらに押しつけてください」
そう言うと、先程の薄水色の紙を差し出した。
言われた通り親指の腹に針を刺す。
チクッとした不快な痛みを感じて針を抜くと、
丸く半球のような形を保って血が湧き出た。
そのまま親指の腹を紙の指定された場所へ母印を押すように押し付ける。
すると、押しつけた箇所が小さく光り、光はスーッと紙の上を滑って下半分に文字を浮かび上がらせた。
「えっと……、何が書いてあります?」
彼女に聞きながら顔をみる。
その時の彼女の顔は驚き、強張っていた。
「これは……、『幻獣の加護』?!」
次話『白狼の加護』
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