2話『出会い』
2話『出会い』
『チュン チュン――』
スズメのような鳴き声が聞こえてくる。
それに光を感じる。
奏はその光に手を伸ばすようにゆっくりと瞼を開いた。
「助かったのか……」
目を開いた先に木々や空はなく、コテージのような建物の天井が覆っていた。
久々に見る人工物に安堵しながら、まだ少し痛む身体を起こした。
「おっ、目が覚めたかい?」
不意に聞こえた声の方向を見る。
そこには褐色肌を惜しみなくさらけ出した、活発そうな女性が立っていた。
「あれだけの状態で死なないなんて、アンタ運がいいね。それとも加護持ちかい?」
そう言いながら彼女は奏に近づき、腰に手を当てて立ち止まってみせた。
「加護?えっと……助けていただきありがとうございます。あなたは?」
「あぁ、突然すまないね。アタシはカノン、冒険者をやってる」
そう名乗った女性『カノン』は、ニッ!と気持ちのいい笑みを見せた。
「カノンさん、初めまして、奏といいます」
「カナデ?珍しい名前だね。よろしく」
この時、奏はとある違和感を感じた。
そしてその違和感は昨日の出来事と繋がっていき、一つの疑念が生まれる。
「カノンさん、ここは何という国ですか?」
「国?『クラヴィーア王国』だけど……。あっ場所は王都の東にある『スタカ村』ね」
「やはりそうか……」
この一つの質問で、疑念は確信へと移り変わった。
昨日襲われたゴブリンのこともあるが、奏と言う名が珍しいと言ったり、知らない国に村、その割に言葉が通じる異常さが今自分が置かれている立場を理解させた。
(僕は転生したのか。いや、生まれ変わっていないから転移と言うべきだろうか?僕の知る地球とは別の世界、異世界にきてしまったらしい。)
「アンタ……カナデはさ、なんであんなとこにいたんだい?」
「……わからないんです。ただ、気がついたら森にいて、変なやつに襲われて……」
「……んー、なるほどね。アンタが倒れてた森は『月呼びの森』って呼ばれててね、浅いところは小型の魔物……『ホーンラビット』とか『ゴブリン』がいるくらいなんだけど、奥に進むにつれて強い魔物が出てくる危険地帯なんだ」
(やっぱりあれはゴブリンだったのか。てかその程度って思われてるやつに殺されかけたのか……)
少し凹んだ。
「月を司る幻獣『白狼』の住処だから月呼びの森らしいんだけど、なんせ伝承に残ってるくらいのことだから、ほんとかどうかはわからないんだ」
「月……」
最後に見た大きな満月を思い出した。
あの声はいったい誰だったのだろう。
奏の表情を察したカノンはまた話し始めた。
「カナデが倒れてた場所は森の中心、『月の祠』の近くだった。昨日は綺麗な満月だったし、白狼に助けられたらのかもな。無事でよかったよ」
そう言うと、カノンは先ほどとは違う優しい笑顔を見せた。
『――導きましょう』
あの声を思い出す。
「……はい。そうかもしれませんね」
カノンの言葉に安心感を覚え、素直な気持ちが言葉で溢れた。
あの声の主はきっと『白狼』だったのだろう。
だがそれは今話すべきではない。
なんとなくだが、そう感じた。
――それからはカノンと話をして、この世界について知った。
今いるのはクラヴィーア王国の東に位置する村『スタカ』。
この家はカノンさんの自宅だ。
スタカ村は冒険者達が身体を休める安息地として利用されている比較的栄えた村だ。
僕がいた森はここから少し南東にいくとあるらしい。
この世界には僕が襲われた『ゴブリン』のような魔物と呼ばれる生き物が存在する。
魔物とただの動物の違いは体内に『マナ』と呼ばれるエネルギー体を持っているかどうか。
マナは人間も皆が少なからず持っており、マナを利用して魔法を使ったり、身体を強化することができる。
ただ、それは当然魔物にも当てはまる。
あの小柄なゴブリンが僕を飛ばせるほどの力を出せたのも、マナによる身体強化の影響らしい。
清々しいほどのファンタジー世界だ。
カノンさんの仕事『冒険者』は市民の生活に必要な物資の収集から清掃活動、危険な魔物の討伐や貴族の護衛まで行なう何でも屋、らしい。
なぜ『何でも屋』ではなく冒険者なのか?と聞くと、
「うちのマスターに聞くか図書館で調べてくれ。アタシは知らん」
だそうだ。
ここに触れるのはやはりタブーなのだろうか?
僕が別の世界から来たことは話さなかった。
まだわからないことが多く情報は喉から手が出るほど欲しいが、きっとこの世界で僕はイレギュラーだ。
まだどれだけのことが起きたのかを判断できない以上、無闇に話すのは避けるべきだろう。
僕自身のことは、『この国とは別の場所で暮らしていたが、気がついたらあの森にいて、どうやって来たのか分からない。』
と伝えた。
嘘は言っていないし、問題ないはずた。
しばらく話をした後、カノンさんは「飯を準備するから、待ってな。」と言って部屋を出た。
1人になった静かな知らない部屋。
孤独感を感じ、真っ先に考えたのは姉のことだった。
次話『仲間』
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