料理人田中親子と13人の嫁

田中宗太郎は妻とともに困惑していた。

3年前、高校の遠足に行く途中行方不明になった息子が妻を連れて帰ってきたからである。

息子の結婚に文句はない。少々早いのでは?と言う気もするが、双方同意の上での結婚なので自分は口を挟めない。

しかし一つ困惑することがあった。

「「「「「「「「「「「「「お義父さま、これからよろしくお願いします」」」」」」」」」」」」」

容姿も雰囲気も全く違う13人の美女・美少女が宗太郎をお義父さんと呼んで頭を下げた。

そう、帰ってきた息子の嫁が何故か13人もいるのである。

「……ほんとにみんな栄治の奥さんなのか?」

「うん」

消息不明だった3年間、息子は異世界にいて仲間たちのために料理番をしていたという。

田中家は食堂を営んでいてその長男である栄治も料理上手であったし、栄治が異世界の神様に【万能の台所】という特殊能力が与えられたことでいつでもどこでも店の台所を使う事が出来たことに起因するという。

栄治はともに旅をする同級生のみならず腹を減らした異世界の人々に思う存分食事を分け与えた。飢えは身体にもこころにも悪影響であるし、栄治に能力を授けた神様が笑顔をお金に換えて日本の食材や調味料を送ってくれたのも大きいらしい。

その結果、栄治はいろんな人々の胃袋を掴んでしまったのだ。

例えば第5夫人だというハイエルフのミナリアは村を焼かれ身体一つで逃げまどい餓死寸前の時に山菜を探しに来た栄治に助けられて以降栄治の料理作りを手伝ってきたが、ただの助手でいたくない一心から結婚を申し込んだそうだ。

他にも第1夫人で元孤児の猫獣人のネココ、王国の第7王女(!)だという第8夫人のアザレアと第9夫人でアザレア専属メイドのルキアなど、個性豊かな美女・美少女が栄治に胃袋を掴まれ愛する男と離れたくない一心で世界を渡って田中家に嫁いできたのである。

「でも、みんな本当にいいのか?うちは普通の食堂だから贅沢させられないぞ?」

「そこは俺も確認した上でうちに連れて来てる」

息子の目は真剣であった。

「高校出た後、調理師の資格取ってみんなでこの店を盛り立てるって決めたんだ」

「それにネココさんは妊娠6か月、私は妊娠4か月、アザレアさんとルキアさんは妊娠3か月ですからね~」

そう付け足したのは第3夫人のミリアという魔女の女性だ、言われてみれば彼女たちのお腹は膨らんでいる気がする。

「だからネココはエージと離れられなかったのにゃん」

第一夫人であるネココがそう口を挟んだ。

こんなに可愛らしい猫耳をピコピコさせた娘さんとうちのバカ息子の間にこども……?

思わず息子のほうを見ると本当だという風に頷いた。

娘さんたちもいたって本気のようだ。これまでの印象も悪くない。

なによりいま俺を見つめる息子の顔は大事なものを得た男の真剣な表情だ。

「わかった。調理師免許取れるまでは嫁さんともども面倒見てやるが取れたらあとは自分で働いて稼げよ」

息子の13人の嫁さんのほうを見る。

皆それぞれにこの息子についていく覚悟を持って、この異世界の小さな食堂まで来たのだ。

「うちのバカ息子をよろしくお願いします」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る