第35話 3人で添い寝 side若菜


 私は今、大変な格好をしている。

 なんでこうなったのか、頭がぼんやりして、経緯を思い出すことができない。2人があまりに、自然体で襲ってくるから。


 直樹先輩に右手首を押さえられ、雅貴には左手首を押さえられ、対抗できない強さで、ギュウッと押されてるから、とてもとても動けない。


 それに、さっきから2人とも、大人のキスや、首にキスマークをつけるように、あついあついキスをしてくるの。


 それだけなら、まだ良かったかもしれない。

 雅貴は、私の上のパジャマのボタンをどんどんと外していく。プチン、プチンって。

 その度に、今日買ったばかりの黒の透けたネグリジェが顕になる。

 そしてついにはショートパンツを脱がされて、私は橙色の明かりが灯る天井の真下で布団を剥がされて、下着姿で押さえつけられている。


「若菜、可愛いよ」

 って言われながら、さっきから雅貴に胸を触られて、むにって時々揉まれてしまう。

 先輩にも、首元にキスされながら、絶え間なく胸を揉まれて……恥ずかしいのに、照れくさいのに、いやらしい私は、やめてほしくなくて。


 私の変な声だけが、客間に響いてしまうの。


 先輩は胸を触るのをやめ、起き上がって私の右足を先輩の肩に乗せた。

 そのまま、下から少しずつ上へ上へとキスの雨を降らせてくる。


 雅貴は、ずっとずっと大人のキスをしてきて。


 私はもう、壊れちゃうんじゃないかっていうくらい、身体の奥があつくって、どうにかなりそうだった。


 ーーあぁ、もう、限界……!


「こっ、降参です。今日のところは、勘弁してください……」


 2人の動きは、ピタリと止まる。

 本当にやめてくれた。

 限界な時にはやめてくれる、2人のこういうところが、とても好き。


「若菜、可愛すぎだろ」

「ありがとう、若菜ちゃん」

「はい……」


 ーー本当はそんなことないんです。

 2人が私に、魔法をかけてくれているだけなんです。


 私は……気持ち良すぎて、すっかりトロンとしてしまった。

 すると、雅貴はパジャマを直してくれて、頭をポンポンと撫でてくれる。こういう、甘やかしてくれるところも好きなの。


 なんていうか、頑張ってドSを耐え切った後にご褒美で貰える、飴玉みたいな。


「あっ!」

「どうした?」


 大変なことに気がついてしまった。


「先輩、足の方にもキスマークつけてましたよね?」

「だめだった?」

「あの……、ファンデーションで隠さないと、制服着られないなって」


 ーーいつもスカートだけど、たまにはいっか。


「私いつもスカートですけど、明日はパンツルックな制服の方にしようかな。スカーフは巻かなきゃだけど」


 身長が150cmしかないから、あんまり似合わないんだけどね。


「髪の毛を上げてくれると嬉しいな、若菜ちゃん」

「それ賛成です。結構高めの位置で結んで欲しい」

「ええっと……ボブだから難しいけど、頑張ります!」


 ーー男性陣は、髪を下ろしているより上げた方が好きなのかな。それとも何か理由があるのかなぁ。


 などと考えている間も。

 身体中が甘くトロンとして、私はいつの間にか、寝てしまっていた。


 ◇


「おはようございます! 直樹先輩、雅貴。ご飯できてますよ?」


 今日の朝ごはんは、ご飯、味噌汁、目玉焼き、ウィンナー、鮭。ザ、日本食っていう感じ。


 本当は、一人暮らしだと面倒でグラノーラとかで済ませてしまうんだけれど、お世話になっている以上、働かなくちゃ。


「おはよう若菜ちゃん、とっても美味しそうだよ」

「本当に美味しそうだ。ありがとう、若菜」


 3人で食卓を囲む不思議な朝。

 先輩のお家の大きな窓ガラスから差し込む光が目に眩しい。なんだか健康的な朝っていう感じがする。


 食事を終え、食器を洗おうとしたけれど、それは雅貴がやってくれた。


「いいの? お願いして」

「もちろん。俺何もしてないし。てゆーか。どう思いますか? 先輩」

「最高だね」


 2人は私のパンツルックのことを言っているんだろうか。白の控えめなフリルシャツはパンツインして、オレンジと赤の、スカーフを巻いて。短くて大変だったけれど、なんとか上の方で髪を結んでみた。


「たまらなく可愛いよ、若菜ちゃん。もう、朝からめちゃくちゃにしたいもん、俺」

「それは俺も同感ですけど……先輩も相当なドSですよね?」

「間違いないね」


 ーードS? 2人ともやっぱりそうなんだ。

 じゃあ昨日、降参しつつも「やめないで」って思っちゃった私はドMなの?


 なんだか軽くショックを受ける私。

 だって、Mってとっても恥ずかしくない?


「さぁ、そろそろ会社に行かなきゃね。さすがに3人で出勤するわけにいかないから俺は先に車で行くけど、鈴木に合鍵を渡していいかな?」

「はい。俺たちはバスと電車で行きますから」

「じゃあ、また後でね」

「「はい、また後で」」


 ◇


 私たちは人の目を気にして、今日は手を繋がずに会社に出勤する。

 バス停までの距離が、雅貴とのプライベートタイムだ。


「ねえ、雅貴。正直言って、昨日、どうだった?」

「……正直、ねぇ。かーなーり、しんどかった」

「ええっ」

「ええっじゃねえよ! 3人でお風呂入って、3人で添い寝して。我慢できた俺は賢者だと思うね」


 私は雅貴の答えに、ちょっとむくれてみせる。


「私だって昨日、結構頑張ったんだけどなぁ。水着とか下着とか下着とか」


 すると、雅貴は頭をポンポン、と叩く。


「わかってるよ。めちゃくちゃやらしかったから」

「ひゃっ!」


 ーーもう、耳元で囁くの、ずるいよぉ。

 弱いの知ってるくせして。


 でも、ちょっとでも頑張ってたことを認めてもらえて、及第点かな?


 ……なんて思っていた私は、とても甘かった。


 ◇


 会社につくやいなや、入り口で仁王立ちしている葵。背景に禍々しい炎が見える気がする。(失礼)


「あ、おはよ、葵」

「おはよじゃなくてぇー。あ、鈴木くんおはよう。若菜借りてくね」

「おはよう。水澤さん。こってり絞ってくれ」


 ーーえ? こってり絞られるの? 私。


 空いている会議室に移動した私たち。

 葵に1から10まで話したら、100倍になってお説教が降りかかってきた。


「あのねぇ、覚悟決めなさいって言ったわよね」

「はい、言いました」

「下着は買ったの?」

「買いまして、パジャマをむかれました」

「ふんふん、それで?」

「降参しました」

「はああああああああああああああ?」

「ひえええええええええええええええ」


 その日私は、雅貴の言うとおり、こってり、しかも辛口かつ濃厚で責められたのでした。


 じゃあ、今日はどうしたらいいんでしょう。


 やっぱり私、正式に付き合ってからじゃないと蛹から蝶になれません、とは言える雰囲気ではとてもなく。


 私は始終、「はい」、「すみません」を繰り返して始業開始のベルを待ったのだった。


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