第32話 3人で、お風呂?


「なぁ、鈴木。若菜ちゃんてこんなに積極的なの? お前、こんな若菜ちゃんに迫られてたのか? 今まで」

「……酒ですよ」

「酒?」

「多分、帰るのが緊張しすぎて、飲みやすくて甘い梅酒あたり飲んだんじゃないかと思います。コイツ、酒飲むと甘えたいモードになって、飲み会はいつもヒヤヒヤでしたよ。周りを牽制するのに」

「お前も、苦労してたんだな。じゃあこれは、いつもの若菜ちゃんじゃないってことか」

「そうです」


 先輩は、ホッとため息をついた。

 嫌だったんだろう。付き合ってから、俺と若菜がこうして過ごしていたんじゃないか、と想像して。


 俺だって嫌だ。

 先輩にこんな淫らな若菜を見せるのは。


「とりあえず、歩けるか? 若菜。とりあえず、一緒に入るかは置いておいて、シャワー浴びた方がいいぞ。いつも、後悔してるだろ? スッキリしてこい」


 若菜は、俯いた。


「……やだよ。私、雅貴と一緒にお風呂入りたい。直樹先輩とも、入りたいよ。ダメ?」


 ーーダメだ。こんなにきゅるんとした状態の若菜を、俺が諭せるはずがない。


「若菜ちゃん、俺は君と一緒にお風呂に入りたいよ? でも後々、後悔するんならやめた方がいい。どうする?」

「バスタオル、巻いて入りたいです。それか、水着を着て」

「水着なら、まぁ、俺はありかな。プールだと思えば。鈴木はどうする?」

「もっ! もちろん入りますよ! 2人きりになんて、させられないから」

「じゃあ俺の水着を貸してやるよ。2着あるからさ」

「ありがとうございます」


 ーー若菜をとりあえず部屋まで連れて行こうと画策する俺。

 若菜の目は、相変わらずトロンとして、肩を貸そうと思ったらくにゃりとくっついてきた。


「雅貴、抱っこ。それか、おんぶ」

「はいはい、おんぶな」


 俺はかがんで、若菜を背に乗せた。


 ーーヤバイ。これは、ヤバイ。

 若菜の身長は150cmしかない。体型は痩せ型で、スタイルの良い格好をしている。

 ……けど、俺の背中に当たるこの柔らかさは……AやBなんかじゃないぞ……?(最低)


「おーい鈴木ー! 変わってくれてもいいんだぞ?」

「いや、大丈夫です」


 ーー先輩になんて、触らせられるかッ!


 俺は邪心と闘いながら、若菜の部屋へ運び、若菜に言われるがまま水着を出した。

 白地に、青のストライプと真ん中の白いリボンが可愛い水着だった。


「1人で着替えられるから〜」

「わかった」


 先輩は廊下で笑っていた。


「この間熱出た時もそうだったんだけどさ、頑なに1人で着替えようとするのな。可愛いよ」

「じゃあこの間先輩……」

「下着は見てないよ」


 と言われ、頭をポンポンされる。

 あからさまにホッとする俺。

 ーーもしかして、先輩にからかわれてる?


「着替えできましたぁ」


 若菜に呼ばれ、2人で部屋に入ってみると、恥ずかしそうに身体をもじもじさせる若菜がそこにいた。

 身長にしては大きい胸、痩せた腹とくびれ、スラっとした身体のライン。ほてった顔が更に若菜の可愛さを引き立てている。


「やっば」


 言ったのは、先輩だった。


「ほんと、可愛いよ、若菜ちゃん」

「うん、若菜、可愛いよ」

「えへへ〜、嬉しいなぁ」


 と言って、そばにいたうさぎのぬいぐるみをギュウっと抱きしめた。ぬいぐるみの顔が、胸の谷間に少し沈む。


「やっべ」


 今度の声は、俺だ。

 そして、うさぎのぬいぐるみに、ポジション変われと圧をかけているのは。


 ーー風呂の前からこんなんで、俺は最後まで耐えられるんだろうか。


 ◇


 全員着替え、今は風呂場の前の脱衣所だ。

 若菜はもじもじしながら、俺と先輩のズボンの腰回りをちょいっと軽く摘んでいる。


「さ、入ろうか」


 さすが先輩。俺とは経験値が違う。

 風呂場まで手を引きエスコートして、暑さを確かめながら、若菜に掛け湯をする。


「あったかーい」


 みんなで掛け湯をして、浴槽に浸かった。

 浴槽はかなり大きかった。

 というか、先輩の家自体がめちゃくちゃデカイ。

 きっと地主なんだろう、と俺は勝手に思った。


「ねえ……」


 若菜のくぐもった声。

 今俺たちは、若菜を挟むように先輩と向き合って入浴している。若菜はどちらを向くでもなく、まっすぐ前を見ていた。風呂の中で体育座りとか、可愛すぎる。


「ねえ……」

「なぁに? 若菜ちゃん」


 ーーあれこれ考えているうちに、返答が遅れ、先輩に先を越された。


「抱っこしても、いいですか?」

 ーーつまりは、抱きしめてもいいですか? っていうことで……。


「いいよ。おいで?」

 断らない男は、まずいない。


「わーい! ふふふ」

「俺、幸せだよ? 若菜ちゃんがこんなに可愛くて」


 若菜は、先輩の上半身をペタペタと触り始めた。


「先輩って、胸板あつい……どこを見ても、筋肉ついてて、カッコいい」


 と言ってまた、先輩の胸に顔を埋めた。

 抱きしめる先輩。

 先輩は若菜の脇の下に手を入れ、おそらく若菜を先輩の足の上に腰掛けさせた。

 俺もいるっていうのに、顎クイして、キスを始めた。


「んんんっ、あう」


 若菜の可愛い声が、浴室に響く。


「若菜ちゃん、可愛すぎだから」


 傍観することしかできない、俺。

 惨めすぎて涙が出そうだ。

 ーーけど。

 

 先輩が若菜の身体を触ろうとした時、さすがにイラっとして若菜を自分の方へ引き寄せた。


「雅……貴?」


 俺は怒り半分で若菜の頬、耳、首筋にキスをする。そして、唇にも。


「んんっ。はぁ、はぁ……」


 声を出すのを我慢して可愛い若菜。

 でもそろそろ。


「先輩、まだまだ楽しみたいんですけどね。そろそろ出ないと、若菜がのぼせます」

「……マジか」

「マジっす」


 可愛い若菜は俺にくっついたまんまだけど、若菜の力がするりと抜けて、ぽちゃんと顔が湯船についた。


「「よし、出よう」」


 俺たちは若菜に肩を貸してのぼせた身体を丁寧に拭いてやった。


 そしたら、次になんて言ったと思う?

 俺は絶句した。

 俺だけじゃない、先輩もだ。



「ねぇ、今日の下着は、赤と黒、どっちがいい?」



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