第33話 3人で、お風呂? 違う違いますこれは間違いでした。 side若菜


 えっ、私何か変なこと言った?

 聞いただけだよね?

 今日の下着は、赤と黒、どっちかいいって。


 ーーあぁ〜ふわふわして気持ちいい。

 まるで背中に羽が生えたみたい。


 今日はなんでこんなに素敵な夢を見られるんだろう……♡



 ーーって思ってた5分前の私を呼んできてもらってもいいですか?

 頭ひっぱたいて、ほっぺたつねって、なんなら膝蹴りしてやらないと……!


 私、なんてことしちゃったの……?

 

 ーーはい。そのとおりです。

 ーーええ。おっしゃるとおりです。


 

 酔いが覚めました。



 今はバスタオルにくるまって、必死にごめんなさいしてるところ。


「私、直樹先輩に胸板あつくてカッコイイって言いました?」

「うん、言ってくれたよ」


「私、雅貴に甘えてギューしてたってほんと?」

「ああ。俺だけじゃなくて先輩にもな。俺、かなり嫉妬してるんだけど」


 ーーいいいいいいいいいいいややあぁぁぁ〜!


「ちょ、ちょちょちょっと、私外へ……!」

「水着でどこ行くんだよ? まさか、下着で行こうとか思ってないよな?」


 と、イタズラ風にニヤつく雅貴。

 このドS〜! って言いたいけど、ブーメランになりそうなので我慢する。


「な、何って、穴を掘りに行くのよ! 自分が入る穴〜!」

「あほか!」

「わーん。とらえもーん!」

「とらえもん呼ぶなとらえもんを!」


 どうしようどうしよう。

 整理しようそうしよう。


 はい、私は今日水着で3人でお風呂に入りました。そして次に、2人に甘えまくりました。それで最後に、下着の好みを聞きましたあああああああ!


 ーー! でも待って若菜。

 私今日、蛹から蝶になるんじゃなかったの?

 ーーそう、そうだった。そうだよ私。


 じゃあ、こっからどうすればいいの?

 いくしかないの? やるしかないの?

 そうよ!

 勇気出すときなんじゃないの?

 そうよそうよ!

 勇気を出すのよ!


 とりあえず、バスタオルを脱いでみた。


「ちょ、若菜ッ」

「だって、水着だもん」


 ーーそう、その意気よ!

 言うのよ若菜。頑張って言うの!


「あの……」

「なぁに? 若菜ちゃん」


 ーーあ、先輩優しい。雅貴なんか、目くじら立ててるのに。


 私は深呼吸する。行くわよ、若菜。

 3、2、1……。


「今日どちらか、私を……もらってくれませんか?」


 い、言えたよ若菜、よくやったよ。

 これで葵にも顔向けできる。


「あの、嫌ならいいんです。もし、ちょっとでも」


 ーーパシッ!


「え?」


 2人がに、私の腕を掴んだ。


「聞くけどさ若菜、意味分かってて言ってる?」

「俺は嬉しいけど、後から後悔しない? 若菜ちゃん」


「多分、意味、わかってるし……後悔は……する、かもだけど……」


「バカ若菜」

「ばかぁ?」

「そうだよ、バカ若菜」


 雅貴は私をギュッと引っ張って抱きしめた。

 先輩も、よしよしって頭を撫でてくれてる。


「お前、水澤さんに何か吹き込まれただろ?」

「な、なんで知ってるの?」

「そんなの、すぐわかるんだよ。飲めないくせに、ペース上げて酒飲んだり、恥ずかしがり屋なくせに、水着着てみたり、下着の話してみたり」

「うっ……」

「普段のお前じゃないだろ? そのキャラは」

「うん……」

「酒の力借りなきゃできないほど、難しかったんだろ?」

「そう……」


「若菜ちゃん」

 先輩は中腰になって目線を合わせてくれた。


「若菜ちゃん、無理しなくていいんだよ。いずれ、どっちかの本当の彼女になってくれたときに、してもらいたいけど、今はまだ、ね?」

「そうそう。でも、キスを求める若菜は可愛くて最高だったけどな?」

「うううう、うっうっうっ……」


 私は自然と涙がこぼれ落ちた。


「ごめっ、言いすぎた……」

「そうじゃないの。結婚前提で付き合うなら、身体の相性知っておかなきゃ後悔するわよって、教えてもらったから。そうなんだ、って思って。早く、しなきゃって……」


「うーん、一理あるかもね」


 先輩は腕を組んだ。


「確かに相性って大事だと俺は思うよ。

 それは水澤さんに賛成、かな。

 でも無理してすることは、ないんじゃない?

 付き合ってからでもきっと、遅くないよ?」

「相性、ねぇ。確かに良ければ良いに越したことはないけど、でもたとえ悪くても、俺が若菜を好きな気持ちは変わらない」


「うっうっ、無理してごめんなさーい」

「泣かなくていいよ、若菜ちゃん。じゃあ、俺からの提案」

「提案、ですか?」

「そ。今日、3人で寝ようか。客間に布団を敷いて」

「添い寝ってことですか?」

「そ! 耐えられる? 鈴木」


 雅貴は腕組みをする。


「正直キツイっすけど、2人きりにするわけにはいかないんで、乗ります」

「若菜ちゃんは?」

「そう、したいです」

「じゃあ、決まりだね。でも……」


 先輩は私の耳元で囁いた。


「ちょっとくらいのハプニングはあるかもね?」

「〜〜! 善処します」


「ちょっと、俺だけ仲間外れなの嫌なんですけど。教えて? 若菜」

 

 私は背伸びして、雅貴の耳に口を近づけて囁いた。


「添い寝にハプニングはつきものだって」


 雅貴の耳は、一瞬にして赤くなった。


 ーーあ、可愛い、かも……。

 胸がキュンとなる。

 私だけじゃなくて、雅貴も、耳、弱いんだ。


「なんだよ若菜、何じーっと見てるんだよ」

「秘密だよ」

「もー。勘弁してくれよ」


 かくして3人でのお風呂は、無事に幕を閉じたのでした。


 ◇


 ……と思ったら!


「先輩、添い寝って、お布団3枚敷くんじゃないんですか?」

「ん? そんなこと言った?」

「言ってないですけど……」

「俺はいいと思う。布団が2枚でも。だって

若菜は、俺のほうに来るもんな?」

「それはどうかな、鈴木。俺が若菜ちゃんに接近して寝るっていう方法もあるからね」


 ーーバチバチバチ!


 歪み合う2人。会社ではとても考えられない構図だ。


「それにさ?」


 雅貴は言う。


「今日の若菜の下着が黒なのか赤なのか、確認しなきゃいけないしな?」

「もうっ! 雅貴のドS〜!」

「褒め言葉をどーも。そういう若菜はちょっとMだろ?」


 ーーはい、ブーメランいただきました。



 それにしても。

 3人で添い寝。

 一体どうなっちゃうんだろう。



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