金の次第も地獄の沙汰
やざき わかば
金の次第も地獄の沙汰
ある大富豪トレーダーが死去した。彼は生前から「俺は、一度は地獄に行くだろうが、必ず金の力で天国に行ってみせる」と豪語していた。あの世の理すら、自らの持つ、唸るほどの財で捻じ曲げようとしていたのだ。
富豪は閻魔大王の前で、自分の財力がどれだけ莫大かを豪語した。持ち金はもちろん、今保有している株も全て上がり調子。それを全て地獄に投資して良いから、俺を天国に行かせてくれと懇願したのだ。
閻魔大王はひとつ息をついて、富豪をある一室へ案内した。そこでは大勢の鬼や亡者たちがインカムを頭に付け、一心不乱にPCの前でモニタを見ていた。
「富豪。お前の所持しているのは、どこの株だ?」
富豪は得意げに、次々と大企業の名称を挙げていった。それを聞いた閻魔大王は、大きな声で号令をかけた。
「聞いたな。今の企業の株価を最低限まで下げてやれ。金はいくらかかっても構わん」
指示を受けた彼らは、キーボードを叩き、マウスを駆使し、一心不乱にPCを操作している。次第に、富豪の持ち株全てが値を下げだした。
それだけではない。富豪が多く所持している米ドルの価値も下がっていった。ここで操作されているのは、株だけではなく、通貨まで彼らの意のままだった。
「見よ、富豪よ。昔から人間界では『金はあの世には持っていけない』と言われていた理由が理解できたか」
自分の持っている株、通貨、それどころか不動産や美術品など、全ての価値が滝のように落ちていく様を見て、富豪は膝から崩れ落ちた。
「貴様ら人間は、『地獄の沙汰も金次第』と言うが、実態は逆だというのが理解できただろう。中央銀行が為替の値を決めている? 投資家が経済を動かしている? 違う。人間のカネの動きなど、我々の意のままなのだ」
項垂れた富豪を見下しながら、閻魔大王は冷たく言い放った。
と、そこに完全武装した天部の兵隊がなだれ込んできた。
「閻魔大王。貴方にインサイダー取引の容疑がかかっています。神妙にお縄にお付きなさい」
瞬く間に縄をかけられる閻魔大王。
「トホホ、もう資産運用なんてコリゴリだよ~」
それからしばらく、閻魔大王の威厳と、人間界の経済力はダダ下がりだったという。ちなみに富豪は無事、地獄経済制御部の一員となり、地獄に骨を埋めることとなった。
とっぴんぱらりのぷう。
金の次第も地獄の沙汰 やざき わかば @wakaba_fight
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます