第4話 ふたつの出会い
ディストートを発った日の昼過ぎのことであった。
突然ナムリアがはっとして後ろを振り返った。
「誰かが来る・・・いえ、この感じは?」
「何ですって?」
「いったい誰が・・・」
テミストとルグレンも後ろを振り返った。
確かに騎竜に乗った黒衣の人物が一行に迫ってきていた。腰には長剣を差しているのが見える。
ナムリアは騎竜を止め、黒衣の人物が近づいてくるのを見守った。
「ナムリア殿、どうかお待ちください!」
黒衣の人物が叫んだ。
「あ、あの男は・・・」
「イラム・シグノー・・・」
テミストとルグレンもようやく黒衣の人物の正体に気が付いた。
「ナムリア殿、お待ちください!」
シグノーが再び叫んだ。
ナムリアは騎竜から下りてシグノーが追いつくのを待った。
テミストとルグレンも騎竜を下りた。
テミストはナムリアの前に立ち剣の柄に手をかけて、シグノーがもしナムリアに斬りかかるようなことがあれば—つまり先日の試合の復讐戦を挑むようなことがあれば―一身を挺して立ち塞がるつもりであった。
シグノーはナムリア達の眼前で騎竜を止めると、騎竜から下り、そして、あろうことか、ナムリアに向かって土下座した。
「ナムリア殿、お願いがあってここまで後を追って参りました。」
「お顔をお上げください、シグノー殿。」
ナムリアが声をかけた。
「は、ではご無礼ながら・・・」
シグノーはおずおずと顔を上げてナムリアと目を合わせた。
「どうぞ、おっしゃりたいことを何でもおっしゃってください。」
ナムリアはシグノーの前に膝をついて座り、穏やかな眼差しで言った。
「警戒しなくていいのか?」
ルグレンがテミストに囁いた。
「ナムリア殿が警戒していないんだ、心配あるまい。第一、この間合いで抜かれたら、私の腕では間に合わん。」
テミストは囁き返した。
「は、まことに僭越ながら申し上げます。私は今まで、ナムリア殿と試合うまで一度も負けたことはございませんでした・・・私はただ、強くなることのみを求めて生きてきました。試合とはいえ、人を殺めたこともございます。それでも、勝負をする以上全力を尽くして闘うのは当然のことと思っていました・・・」
シグノーは一端、言葉を切った。
「シグノー殿、それは武術家として当然のことと思いますが・・・」
ナムリアはシグノーをいたわるように言った。
「いいえ、ナムリア殿との試合、あの試合の最後でナムリア殿が手加減してくださらなかったら、私は死んでいたでしょう。私は勝負に負けただけでなく、ナムリア殿の慈悲の心に負けたのです。」
「・・・あの最後の技は魔法だったのですよ。本来なら私の反則負けでした。」
「いいえ、真剣勝負に反則などと言い訳は許されません、負けは負けです。」
シグノーの目には涙が浮かんでいた。
(やれやれ、剣豪シグノーと言われる男が内実はとんだ感傷家だな・・・)
ルグレンは内心で思い、顔をそらした。
テミストはシグノーとナムリアの姿を交互に見比べていた。
「シグノー殿、そなた、ナムリア殿に命を助けられたことに謝するために、わざわざここまで追ってこられたのか?」
ルグレンが尋ねた。
「そうではございません。私はこれまでひたすらに強さを求めて参りましたが、ナムリア殿との試合でそれが間違っていたことを思い知らされました。そこで、ナムリア殿にお願いがございます。どうか私を弟子にしていただけませんか?」
シグノーはナムリアを拝むように見て言った。
テミストとルグレンはあっけにとられた。
「弟子?残念ですが、私にはまだ弟子をとる資格はありませんし、第一、弟子となるべきアルテナの巫女は女、しかも処女にしかなれないのです。」
ナムリアは笑みを浮かべて言った。
「うむ・・・そうなのですか・・・残念です。」
シグノーはいかにも残念そうに顔を下げて言った。
「あの、代わりに、と言っては失礼ですが、私たちと同行していただけないでしょうか?」
ナムリアはシグノーを見下ろして言った。
「は、同行を?」
「私たちはこれからアーゴンを抜けてヒュペルボレアスの首都に向かいます。ヒュペルボレアスには特別に許された商人しか足を踏み入れることが許されないと聞きます。私たちも商人に紛れて行くつもりですが、危険も多いことでしょう。あなたに同行していただければ、これ以上心強いことはありません」
「私に少しでもお役に立つことがあるのでしたら、喜んで。」
シグノーは顔を上げた。その表情には喜びの色が浮かんでいた。
「さあ、お立ちください、シグノー殿・・・そうだ、報酬として金貨五十枚差し上げます。本来ならあなたが手にするはずだったお金です。」
ナムリアはシグノーの地についた手を取って立ち上がらせた。
「報酬など入りません。いささかの蓄えもあります。ナムリア殿と同行できることが報酬とお考えください。」
「ありがとうございます・・・仲間を紹介しておきましょう。私はアルテナ一級神女、ナムリア。」
ナムリアは後ろを振り返って合図した。
「アルテニア陸軍少佐、陸軍参謀本部次席参謀、ファエリス・テミストです。」
「この二人の案内人、サマルド・ルグレンだ。」
「イラム・シグノーです。改めてよろしく。」
四人は互いに挨拶した。
「さあ、日が高いうちにつぎの宿場に急ぎましょう。」
四人になった一行はマラトの平原を貫く街道に沿って騎竜を走らせた。
四人がディストートを発ってからアーゴン領内に入るまで二日、アーゴンの首都ディスタゴンに到着するまでさらに二日を要した。
アルテニアを発ってから既に一ヶ月が過ぎている。
アーゴンはマラトとヒュペルボレアスの中間に位置する小国で、マラトの属国であった時期もあるが、現在は中立国で、南北を山脈に挟まれているため、事実上唯一のヒュペルボレアスとの通商路でもある。
従って、ヒュペルボレアスが中原に攻め込もうとするなら真っ先に蹂躙されることになるであろう。
「アーゴンの王に会いに行きましょう。」
ナムリアはそう言い一同は王宮を目指した。
城の衛兵に聞くとアーゴンには祭司長からの書簡は届いていないという。
ナムリアは衛兵に祭司長と執政官の署名の入った書状を渡し、国王との面会を求めた。
しかし、二時間ほど待たされた後、衛兵は、
「国王は素性の知れぬ者とはお会いにならぬ。」
と、答えた。
「アルテナ祭司長とアルテニア執政官の署名の入った書状を持参した方を『素性が知れぬ』とはなんたることだ!」
真っ先にそう言って、憤慨したのはテミストではなくシグノーだった。
テミストも同様に憤慨して、
「そうだ、本当に国王に取り次いだのか!?ことはこの国の命運がかかっているのだぞ!」
と、叫んだ。
「お二人ともおやめなさい。これ以上何を言っても無駄でしょう。衛兵の責任ではありますまい。」
ナムリアが二人をなだめた。
「では、このアーゴンに警告を発するのはあきらめるか?」
ルグレンがナムリアに尋ねた。
「そうですね。書簡が届いていないとは思えないのです。ましてや書状を渡しても無視するとは。国王や、その側近達は何らかの理由で私たちに会いたくないようです。」
「何らかの理由?たとえば、すでにアーゴンはヒュペルボレアスと密かに結んでいるとか?」
傍で聞いていたテミストが聞き返した。
「ありえますね。でも、憶測だけで判断するのは危険でしょう。」
ナムリアはさほど気落ちした様子も見せずに言った。
一行はいったん宿に帰った。
食事を摂ったあと、ナムリアが突然言い出した。
「ねえ、みなさん、これから酒場に繰り出しませんか?」
テミストが驚いて言った。
「酒場って、アルテナ巫女は飲酒を許されていないのではありませんか?」
「私も酒はたしなみませんが・・・」
シグノーが言った。
「ええ、確かにアルテナ巫女は酒精を摂ることを許されておりませんが、酒場にも酒精を含まない果汁や牛乳などもありましょう。私は酒場という場所に行って雰囲気を味わってみたいのです。テミスト殿、ルグレン殿はいかがですか?」
ナムリアは答えた。
「そう言えば、この旅に出て以来、酒を飲んだのはラステニア王とマラト王の晩餐だけだったな。たまには飲んでみたくもあるが・・・」
ルグレンが漏らした。
「実を言えば、私も行きたくはあります。」
テミストも同意した。
「私はナムリア殿のよいように。」
と、シグノー。
「では、参りましょう。」
ナムリアが号令をかけた。
一国の首都とはいえ、農業以外さしたる産業もない辺境国、アーゴンの首都ディスタゴンは、アルテノワやディストートに比べれば盛り場もさほどにぎやかなものではなかった。
その中で一番立派な造りの店をナムリアは選んだ。
「この店にしましょう」
ナムリアは店の看板をさして言った。
「ふむ、悪くない造りだな。堂々としているが下品じゃない。」
ルグレンが同意した。
一同が店に入ってみると、まだ時間が早いためか、店長の前の席の隅で小男がひとり、黙って飲んでいるだけだった。
「私たちもこの前の席にしましょうよ・・・あ、ご一緒してもよろしいかしら?」
ナムリアは小男に声をかけた。
小男は、背中を向けたまま、
「ああ。」
と、言って小さく頷いただけだった。
一同が席に着くと店員が注文を取りに来た。
「ご注文は?」
と聞かれて、
「麦芽蒸留酒を・・・何だ、ずいぶん高いな。」
ルグレンが言った。
「お客様、申し訳ありませんが、ここ数年穀類の不作が続いていまして、大麦も食用に回されているものが多く、麦芽酒は品薄なんですよ。」
店主はそう言って弁解した。
「私は葡萄蒸留酒を。」
テミストが言った。
「私は林檎果汁を。」
ナムリアが言った。
「私は牛乳を」
シグノーが言った。
飲み物が一同の前に揃うと、
「では、旅の前途の幸いを願って、乾杯しましょう。」
と、ナムリアが言った。
「乾杯!」
全員が唱和した。
隅の席の小男は、まるで関心がないかのように麦芽蒸留酒をあおっている。
軍服姿の一団が、どやどやと店に入ってきたのはその時だった。
「あの軍服は・・・」
ルグレンが漏らした。
「ああ、王宮の前に立っていた、衛兵と同じだな。近衛兵だろう。」
テミストが答えた。
「あの男、王宮の前に立っていた衛兵です。」
シグノーが付け加えた。
「麦芽発泡酒だ。急げよ!」
年かさの近衛兵が横柄な口調で店員に命じた。
近衛兵達は飲み始めから騒がしかった。
「うるさいですな。場所を変えた方がいいかも知れませんね。」
と、テミストが言ったほどであった。
「蛙の鳴き声だとでも思えば気にもならんよ。」
それまで隅で黙って飲んでいた小男が、つぶやくように言った。だが、これが近衛兵に聞こえたらしい。
「なんだって、俺達を誰だと思っている?」
若い近衛兵が小男に絡んだ。
「知らんな」
小男は素っ気なく答えた。
「あ、この男、知ってるぞ、今日王宮に来た傭兵とか言うやつだ!」
近衛兵の一人が叫んだ。
「何、王宮に?」
ルグレンが驚いて言った。
「そっちの連中も知ってるぜ、やっぱり今日、王宮に来た奴らだ。」
王宮で会った近衛兵がナムリア達を指して言った。
「お嬢さん、別嬪だな、なあ、こっち来てお酌してくれないか・・・」
軽薄な近衛兵が下卑た表情で言ったが、テミストとシグノーににらまれて黙り込んでしまった。
「お嬢さんはおまえらのような下品な奴らにお酌などしたくないとさ。」
意外にもそう言ったのは件の小男だった。
「何だと貴様、ネズ公の分際で近衛兵様に喧嘩売ろうってのか?」
すでに酔いの回っている近衛兵の一人が、小男に言い返した。
「ああ、喧嘩売ろうってんだよ。」
小男がぼそりと答えた。
「ちょっと、喧嘩なら外にしてくださいよ。」
危険を察した店の主人が注意した。
「おい、外に出やがれ、傭兵野郎、貴様のようなチビじゃ役不足だが、アーゴン近衛兵の腕っ節のほどを教えてやるぜ!」
近衛兵の一人が小男の衿をつかみ、店の外に引きずり出そうとした。
「俺は今晩はちょっと機嫌が悪いんだ、悪いが手加減はしてやれないぜ。」
小男は衿をつかんだ近衛兵の衿を振りほどき、出口に向かって駆けだした。
「野郎、逃がすな、みんな外に出ろ!」
年かさの近衛兵が命ずると、近衛兵達は一斉に店の外に飛び出していった。
「ナムリア殿、どうします?相手は近衛兵、しかも十数人。あの小男ー傭兵とか言っていましたが、一人では手に余るでしょう。」
「さあ、どうでしょうか。シグノー殿はどうお思いですか?」
「相手はわずか十六人、あの男なら、手に余りはしないでしょう。」
シグノーは無表情で答えた。
「なんですって?いやしくもアーゴンの近衛兵十六名を相手に回して手に余らぬとおっしゃるのか?」
テミストは驚いて聞き返した。
「まあ、どうなることか、私たちも喧嘩見物に行ってみましょう・・・ご主人、代金はここに置きますよ。」
ナムリアは代金を机の上に置くと、出口を歩み出た。
一同が店の前に出ると、そこでは小男と近衛兵の乱闘が行われていた。
シグノーが予見したとおり、小男は一人で十六人の近衛兵を翻弄していた—いや、既に四人は路上に倒れて動かなくなっていた。小男は柔術の心得があるらしい。無手で相手の手足を取ると、投げ、倒し、手足の関節を決めて一瞬のうちに折ってしまっていた。
「すごい・・・これほどとは。」
テミストは感嘆の声をあげた。
「くそ、かまわん、叩き切れ!」
分隊長格の年かさの近衛兵が言うと、近衛兵達は、それまでは小男と同様無手で闘っていたのだが、それを聞いて剣を抜いた。
小男はそれを見ても自分は剣を抜こうとせず、にやにや笑いを浮かべて相手を待ち受けた。
「シグノー殿、加勢しなくていいのか?」
ルグレンがシグノーに聞いた。
「必要ありますまい。」
シグノーが短く答えた。
シグノーの言葉通り、小男は剣を抜いた近衛兵に臆することなく、小さな体でふところに飛び込み、腕を極めてへし折り、あるいは頭から投げ落として失神させた。
さらに四人が戦闘不能になったところで、年かさの近衛兵が言った。
「くそ、しかたない、引き上げるぞ!」
「おい、待て。仲間を連れて行け。朝まで寝かしとくと風邪を引くぞ。」
小男が引き上げようとする近衛兵達に言った。
残っていたのはちょうど半数の八人だった。近衛兵達はおどおどした目で小男をうかがいつつも、戻ってきて道に転がって呻いていた仲間を担いで行った。
「あ、そうだ、ちょっと待て。」
小男は仲間を担いで去ろうとする年かさの近衛兵に再び声をかけた。
「な、なんだ、まだ何かあるのか?」
「酒代を置いていけ。」
「ちっ、うるさい野郎だ。」
年かさの近衛兵は財布を小男に投げて寄こした。小男はそれを空中で受け止めた。
後には小男とナムリア一行だけが残された。
「あんた達にも迷惑かけたようだな。」
小男はナムリアに言った。
あらためてみると、短身矮躯はともかく、髪はくせ毛、眉は太く、目は小さく、鼻は低くて左右に広がっていて、唇は厚い。
およそ中原の民族には見かけない特異な容貌であった。
「迷惑なんてとんでもありません。こちらこそ、楽しく見物させていただきましたわ。お礼に一杯おごらせていただけませんか?」
ナムリアは笑顔で答えた。
「ふむ、実を言えば俺もお宅達の素性には興味があったんだ。あんた達も王宮に行ったと近衛兵が言っていたしな。酒場に戻って飲み直しといくか。」
一同は酒場の中に引き返した。
「いらっしゃい・・・あれ、お客さん、無事だったのかい?そうか、そちらのお連れさんが加勢したのかい?」
店長が小男が無傷で帰ってきたのを見て驚き、尋ねた。
「まあ、そんなところだ。ほら、やつらの酒代だ。俺の金じゃないから釣りはいらん。」
小男はぶっきらぼうに言った。
「これはどうも。あの連中、近衛兵だからって威張りくさって、店に来る度騒いで、他のお客さんに迷惑かけてほとほと手を焼いてたんですよ。これで当分は顔を見せないでしょう。本当にありがとうございます。」
店主は丁重に礼を言った。
五人は今度は円卓についた。さっきまで近衛兵達が座っていた席だ。ナムリア達は自己紹介を始めた。
「私はアルテナの巫女、ナムリアと申します。」
「私はファエリス・テミスト。アルテニア陸軍少佐です。」
「サマルド・ルグレン。雇われて案内役をやっている。」
「イラム・シグノー。今はナムリア殿の従者といったところです。」
「シグノーというと、無敗の剣豪シグノーか?なぜアルテナ巫女の従者などしている?」
小男が口を挟んだ。
「もう、無敗ではありません。このナムリア殿に破れたので・・・」
「そうか・・・」
小男はそれ以上聞こうとしなかった。
一行が紹介し終わると、今度はナムリアが小男に尋ねた。
「よろしければ、あなたのお名前を聞かせていただけますか?」
「ザクト。クレジ・ザクト。」
ザクトと名乗る小男は答えた。
「ザクト・・・まさか、あんた、『暁の星』傭兵団の団長じゃないのか?」
ルグレンが驚いて尋ねた。
「ああ、世間じゃそう呼ばれている。」
ザクトは答えた。
「そう言えば、近衛兵の連中も傭兵、と呼んでいましたね。その傭兵団の団長が、こんなところで何をしていたんです?」
テミストが尋ねた。
「いや、この国に雇ってもらおうと思って王宮に行ったんだが、にべもなく追い返されちまってな。」
ザクトが答えた。
「傭兵とは戦争の手助けをして、報酬をもらうものでしょう?こんな辺境の国にどうしていらっしゃったのですか?」
ナムリアが不思議そうに聞いた。
「俺の知り合いの女魔導師が占ったのさ。『北の国から戦乱が起こる』と。」
ザクトは素っ気なく答えた。
「アルテナ女神と同じ託宣を得た魔導師がいるのですか?実は私たちもアルテナ女神の託宣に従ってここまで来たのですよ。『北方の脅威が大陸を席巻するだろう』と。」
ナムリアは驚いて聞き返した。
「魔導師の名は?」
テミストが尋ねた。
「名はナルーシャ・ターナ・・・今は俺の仲間と一緒にラステニアにいるよ。」
ザクトは答えた。
「ザクト殿、こういっては何ですが、あなたの傭兵団は強いのですか?」
ナムリアは続けて尋ねた。
「強いなんてもんじゃないぜ、大国に攻められてーおもにマラトにだがー『暁の星』の加勢を受けて助かった小国は大陸にいくつもある。」
そう説明したのはルグレンであった。
「わかりました。アルテナ祭司長とアルテニア執政官の代理として、あなた方『暁の星』をわがアルテニアが雇います。手付け金として金貨五十枚を差し上げますが、いかがでしょうか?」
ナムリアは言った。
この金貨五十枚とは、ナムリアがマラト王から賜り、シグノーが受け取らなかった金だ。
「俺達がヒュペルボレアスとの戦いに必要だと、そう言うことだな。なら、受けた。」
ザクトはナムリアの依頼を受諾した。
「ありがとうございます。それから、これから我々はヒュペルボレアスに向かいます。ご同行いただけますか?」
ナムリアはザクトに聞いた。
「やっかいなところだな。だが、戦争になるなら、偵察しておかぬわけにはいくまいな。」
ザクトはそう答えた。
「では、話は決まりですね。」
「なあ、ナムリア、この男と会うのを予知して酒場に来たのか?」
ルグレンがナムリアに耳打ちした。
「さあ、どうでしょう。」
ナムリアはそう言ったが、目は笑っていた。
「マラトの武術大会でシグノーと会ったことといい、あんたやっぱり女神様がついてるよ」
ルグレンは感嘆を込めていった。
ルグレンの言葉で相談は終わった。
翌日、ザクトを加えた一行はディスタゴンを去った。目指すは禁断の地、ヒュペルボレアスの首都、クセノフォスである。
第四話了
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