魚澄ハイドライト②

 立ち上がると、諒太はスーパーボールと説明書を仕舞い、次に饅頭の形をしたキーホルダーと、四つ折りにされた紙、おそらく説明書を取り出した。

「ほい。そっち持って」

 諒太はキーホルダーの輪の部分を持ちながら、片方の饅頭の部分をこちらに寄越し、智紀はそこを持つ。

 途端に、智紀から頭痛がさっぱり消えた。代わりに、途轍もない眠気が襲ってきた。

「そしてこれは、お互いの状態を入れ替える能力」

 こいつ、昨日寝なかったのか。昨日の夕方眠さに機嫌を悪くしていたのに。

「諒太、昨日寝なかった?」

「まあそれはそれとして」

 多少の不満はあったが、彼も俺の頭痛を噛み締めているようなので痛み分けということにした。

 諒太は取扱説明書を取り出すが、特にその文面に変化は見られなかった。

「何か一つを対象とする能力はコピーした能力を自分に使えば持ち主が分かるんだけど」

「さっきの饅頭キーホルダーで出なかったのは?」

「逆に、一つが対象じゃないもの、そもそも能力における対象の設定が曖昧なものは割り出せないっぽい」

「でもそれを使えば結構推理できるかもね。あの昨日の事件の犯人」

「せやな」

 蒙古弁を使って諒太が返事をした。

「基本方針は開閉の能力者の特定だけど、」

「ああ、窪地海斗だった」

 は?心の底から疑問符が溢れる。前提が崩れる音がする。海斗は昨日来ることができず、今日の合流だった。

「犯人、開閉の能力者じゃねえのかよ!」

「そうなるよなあ」

 証明は仮定に遡る。一応判明した分だけ能力者を整理してみる。


窪地海斗、ものを開け閉めする

黒田小道、地震を起こす

吉田翔、確率を収束させる

山下夕、幻を見せる

????、物を交換する

????、状態を入れ替える

????、時を繋いで物を受け継ぐ


ここまで整理したが、いまだに犯人はわからない。俺は頭痛を覚えたが、あるいはそれはいつも通りといえるのかもしれない。

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夕方ドーズドーズ 宇宙(非公式) @utyu-hikoushiki

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