魚澄ハイドライト①
うん、だんだん分かってきた。いやあ、面白いね。でも、なんか見逃してる気がするんだよなあ。って言うかまだ犯人分かってないし。ああ、いや、頭痛はまだ治ってないよ。
ノックの音が聞こえる。担任の畑岡だ。
「魚澄、大丈夫?」
「あ、もうちょっとです。すみません」
「うん、おっけー。じゃあトイレの外で待ってます」
無駄に体育会系なその声が切れ、トイレの扉が開く音がする。この調子だと、閉まる音がすることも描写しなければならない。しかし、面倒なのでそこは割愛する。
今何か損をした気がするが、気にしないことにした。
ここで明かすことではあるが、これはあの愉快極まる研修旅行の後日、俺が書いているものだ。
故に、俺はいつでもネタバレ、および結末へのヒントを君たちに与えることができる。便利なシステムだ。ネタバレが苦手な方、自分で推理したい方は、次の諒太が「何してたん?」と俺に聞いてくるシーンまで飛ばすといい。
ヒント1:この研修旅行での最終的な死者は一人である。
「何してたん?」
「いや、ちょっとお腹が痛くなってね」
諒太は哀れみの含んだ眼差しを俺に向け、無言でストッパを差し出してきた。
嘘の腹痛であったものの、彼の優しさに胃が痛くなった。一応、気持ちだけ頂いておいいた。
「そういえばさ、なんか能力の持ち主特定できるっぽい」
「まじか」
諒太の説明を要約すると、コピーしたものを自分に使うと、取扱説明書にも持ち主の名前が追記されるらしい。例えば、と諒太はものを鞄から取り出した。
放射線研究施設の設備が智紀たちの会話をうまく遮ってれた。諒太はスーパーボールの乗った右手をこちらに寄せた。
「こっちが、地震を起こす能力。コピーしたら、当たったものを揺らす能力になったやーつ」
諒太はそれを小さく投げ、もう一度右手で受け止めた。途端に涼太が揺れ始め、立っていられなくなったのか、倒れた。
「痛った」
そう言いながら、諒太はブレザーのポケットから取扱説明書を出した。読むと、たしかに文の一番上に、「黒田小道」と書いてあった。
担任の笹岡がちらちらとこちらを見てきたので、一応手を貸す勢いを見せた。向こうも何故か借りる振りをしながら自力で立った。そちらの方が難しいだろう。
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