山下グリーンリング

 人生において停滞とは、最も親しい人間の死である。うるさい、黙れ。

「私は何をすればいいの?」

 魚澄に問う。隣にいる夜が、隣にいない違和感にも慣れて来た。誤解を与えないよう言い換えれば、吐き気はするが、もう慣れた。

「君さ、右手首に緑の輪みたいなあざがあるでしょ」

 体が震える。自分と夜しか知らないことをいつの間にか知られているのだ。怖いし恐い。ホラーだしテラーだ。

「とにかく、このクラスにはそれがついている人が何人かいるんだ。その人たちを見つけ出して欲しい」

「あなたは?」

「ないさ」

 君たちと違ってね。魚澄がまるで常識であるかのように喋った。

 

 二日目のスケジュールを考える。まずこれからバスに乗り、放射線研究施設に行く。そこは、一種のツアーのようで、案内人にクラス一行でついて行くようなものだ。まあまあ、自由さはある。そこでなら、能力を使って調べることはできるかもしれない。

 そういえば、私の能力は幻影を見せることはできても、幻聴で魅せることはできない。だから、バスの中では、私とは寝たふりをするしかないのだ。

 

 調査は意外にも簡単に進んだ。例えば、腕時計をしている人には能力を使うまでもないが、そうでない場合。ワイシャツに血のような染みの幻を見せ、「腕、どうしたの?」と聞く。怪我?と。大体のクラスメイトはそれで落ちた。で、調査の結果だ。少し複雑ではあったが、他に八人もいた。

 魚澄に送る用として、メモを書いていく。

 ①窪地海斗

 ・遅刻し、二日目に到着。ベリーショートで能天気な性格。

 ②黎明諒太

 ・掴みどころのない性格。よくぼーっとしていることが多い。昨日の六時辺りは少し怒ったような雰囲気だった。

 ③吉田かける

 ・ギャンブラー気質。音楽を制作しており、唯我と仲がいい。

 ④唯我統

 ・お調子者のムードメーカーだが、研修旅行が始まってから様子がおかしい。

 ⑤九条一輝くじょういっき

 ・捻くれ者。男女ともに嫌われている。ひどい毒舌はその一因。

 ⑥黒田小道

 ・小さい。字の通り少女。しかし器は大きい。

 ⑦小暮碧生

 ・特に印象はない。強いていえば小道と仲がいい。

 ⑧天野蛙

 活発で社交的なスポーツガール。男女ともに人気が高い。

 

 メモはこれくらいでいいだろうか。

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