小暮ヒートアーツ

「どうしたの碧生くん。そんなに疲れた顔をして」

「いやあ、少しばかり肩が凝っちゃってさ」

 小道は自慢げな顔をし、袖をまくった後で、「私の腕を見せる時が来たかな」と言った。

「もう見たんだけど」

 そうじゃなくて、と否定される。肩叩きの腕の見せ所、ってことだよ。そう言うと、小道はゆっくりと息を吐いて、何かポーズをとった。

「喰らえ、私の最強連打!」

 空を切る音が後ろから聞こえる。終わったらしく、小道が息を上げる。

 内心、俺は焦っていた。先刻の小道の連打。と、言いながらのただのシャドーボクシング。もちろん、一つも当たっていなかった。これはつっこみ待ちなのか、それともただの天然なのか。後者の場合、怒らせてしまう可能性があると言える。それはまずい。小道には嫌われたくない。ここで無視は愚策だろう。どうする、考えろ。

「あ、あの、ありがとうとつっこみ待ちだったんだけど」

 小道は消え入りそうな声で言った。主はどちらもお望みであった。

 

 その後他愛のない雑談を交わし、解散する。一気に緊張感が増した。今まさに、22時のエントランスだ。悪者をお縄にかけるため、今日も正義の味方は最善を尽くす。

「碧生君」

「びっくりしそうだった」

「なんだか少し残念だ」

 天野蛙

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