第8話 気高き魔法

 屋敷の外には平地が広がっている。

 ヴァローナとブランの二人には、そこで模擬戦をしてもらうことになった。


 ルカは『よーい!』と合図するように、手を上げた。


「言っとくけど、相手は殺すなよ? 家庭教師になったら俺と模擬戦するかもしれないんだから、手加減して相手を無力化する技術も見てるからな」


 そう宣言すると共に、手を振り下ろした。


「始め!!」


 ドッ!

 始めに動いたのはブランだった。

 まるで弾き飛ばされたように、勢いよくヴァローナに詰めよる。


 どうやら、風魔法を使って自分を飛ばしたらしい。


「死ね!! 半獣が!!」

(いや、殺すな言うたやろ……)


 ブランは、ヴァローナの首元に向かって剣を振るった。

 キン!!

 しかし、ヴァローナは剣でガード。

 足を振り上げて、ブランに蹴りをいれようとした。


 ブオン!!

 ブランは風魔法を使って、ふわりと舞い上がる。

 ヴァローナの蹴りは空を切った。見事な回避だ。


 その後も、二人は剣をぶつけ合う。

 さすがは元王国騎士団。見事な剣技を見せてくれている。


(うーん、実力も互角かな……いや、待てよ?)


 二人の戦闘を眺めていたルカは、とあることに気づく。


「ヴァローナ。お前はなぜ魔法を使わない?」


 ブランは風魔法を駆使して戦っている。

 細かい移動や、遠距離からの攻撃など、多彩に使いこなしている。


 一方で、ヴァローナは魔法を使っていない。

 現状では剣術だけで、魔法有りのブランと互角に切りあっている。


 魔法を使えば、ヴァローナの方が強いんじゃなかろうか。


「そ、それは……」


 ヴァローナはびくりと震えると、気まずそうに視線を下ろした。

 それを見たブランはニヤニヤと笑みを浮かべる。


「ルカ様、この女に魔法は使えません」

「……なに?」


 ルカは困惑する。まさかの技能詐称?

 そんなに家庭教師をやりたかったのだろうか。

 嘘をついてまで就職したいほど、いい条件は出していなかったはずだが。

 

「この女が使うのは、幻獣の血によって汚れた魔法です」

「……汚れた魔法?」


 そんなものはルカは知らない。

 ゲーム内の設定でも聞いたことが無い。


 説明が欲しくてヴァローナを見る。

 彼女は悔しそうに顔を伏せていた。


「騎士団に居た頃は、魔法の使用を禁じられていました。私の魔法は、努力によって手に入れたものではなく、幻獣の血によって手に入れた姑息な力だと」

「なんだそれ?」


 ルカは首をかしげる。


 確かに幻獣の力によって、特定の属性魔法が得意になることはある。

 しかし、その魔法に姑息もなにもない。

 普通の人にだって、属性によって得意や不得意はあるのだから。


 幻獣の力を開放する特殊能力もあるが――あれは見た目からして魔法とは別物だと分かる。

 『姑息な魔法』だなんて呼ばれることはないはずだ。


 ルカが悩んでいると、ブランが得意気に語りだした。


「王国騎士団の団長は不正を許さない。ヴァローナが卑怯な手段で手に入れた魔法も許すべきではありません」 

「……なるほど」


 ルカはため息を吐きながら、空を見上げた。


(あれだな、幻獣差別によって話がこじれてるだけだな)


 ヴァローナを見ると、彼女はギリギリと剣を握りしめていた。

 悔しいのだろう。


 魔法を使えるようになるのは、一朝一夕ではないはずだ。

 ヴァローナも努力を重ねたはず。

 その魔法を『幻獣の血が流れている』という理由だけで否定されるのは嫌だろう。


「……幻獣の血が流れていても、魔法が無条件に使えることはない。お前たちの勘違いだ。ヴァローナは気にせず魔法を使ってくれ」

「良いのですか……?」

「な⁉ お待ちください!!」


 ブランは納得がいかないらしい。

 身を乗り出して怒鳴る。


「騎士団長が間違っているとでも⁉」

「そうだが?」

「そうだがぁ!?」

「いいから模擬戦を続けてくれ。ヴァローナは魔法を使え。騎士団での話は忘れろ」


 ルカは面倒になって強引に話を打ち切る。

 ギリギリと歯噛みしたブランは、ぼそりと呟いた。


「……クソ。田舎のガキ大将が」

(聞こえてるぞ)


 だが、ブランも不満はあるようだが、表立ってたてつくつもりはないらしい。

 おとなしく剣を構えた。


「どのみち、半獣ごときに負けはしない!!」


 ドッ!

 ブランは風魔法を使って高速移動。

 ヴァローナに迫る。

 だが、その刃は届かなかった。


 ズドン!!

 ヴァローナの剣先から黒い炎がほとばしる。

 狙いはブラン。

 ブランは風魔法を使って何とか回避する。


「半獣ごときがぁ!!」

「私は半獣ではない。ルカ様の剣となる騎士だ」


 ヴァローナは足元に爆発を起こすと、その勢いでブランに迫る。

 剣から立ち上るのは黒い炎。

 炎は巨大な剣の形を取っていた。


 ヴァローナが剣を振りぬく。

 ズドン!!

 ブランは小さな爆発を起こすと、どさりと倒れ込んだ。

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